
11月11日は、“経営の神様”ピーター・ドラッカーの命日でした(2005年逝去)。
ドラッカーといえば、マネジメントの課題と責任、その実践に関わる基本と原則を解説した『マネジメント【エッセンシャル版】 基本と原則』や、マネジメントの機能について体系的に解説した『現代の経営[上・下]』などの著作が有名です。96年の生涯で執筆した約50冊の著作は、欧米だけでなく、日本のビジネス界にも多大な影響を与えてきました。
そんなドラッカーの著作の中から、個人の生き方・働き方に関する論考を精選した書籍、『プロフェッショナルの条件 いかに成果をあげ、成長するか』(P・F・ドラッカー/ダイヤモンド社)を今週はPick Upします。
ドラッカーは本書の冒頭、これからの社会について次のように述べています。
西洋では数百年に一度、際立った転換が起こる。世界は歴史の境界を超える。社会は数十年をかけて、次の新しい時代のために準備をする。世界観を変え、価値観を変える。社会構造を変え、政治構造を変える。技術と芸術を変え、機関を変える。やがて五〇年後には、新しい世界になる。(中略)われわれは今、再びそのような転換を経験しつつある。この転換が、ポスト資本主義社会を創造しつつある。
(『プロフェッショナルの条件』3ページ)
世界がこれまでに迎えた「際立った転換」とは、例えば、14世紀に始まったルネッサンスや、18世紀に起きた産業革命のことを指します。
本書が刊行されたのは2000年ですが、ドラッカーの指摘通り、社会は大きく変化しています。スマートフォンの誕生以前と以後とで、私たちのライフスタイルは大きく変わりました。また若い世代を中心とした、事実婚やLGBTQ(性的マイノリティ)への関心の高まりを受け、社会制度の見直しなども行われ始めています。芸術の分野では、デジタルアートが出現。最近ではNFTアートが注目を集めています。少し前の時代からすると、どれも信じられないものばかりではないでしょうか。
ドラッカーによれば、この先、資本主義社会に変わる「ポスト資本主義社会」の時代を迎えるといいます。そして今後、社会と経済が大きく変わる時に重要となるのが、「知識」であると主張します。
今や正規の教育によって得られる知識が、個人の、そして経済活動の中心的な資源である。(中略)新しい意味における知識とは、効用としての知識、すなわち社会的、経済的成果を実現するための手段としての知識である。
(『プロフェッショナルの条件』24ページ)
昨今、「リスキリング」(技術革新やビジネスモデルの変化に対応するために、新しい知識やスキルを学ぶこと)の重要性が叫ばれていますが、ドラッカーは何十年も前から知識を習得することの重要性について説いていたのです。『プロフェッショナルの条件』を読むと、氏の慧眼に改めて感服させられます。
では、社会的・経済的成果を上げていくために欠かせない知識は、どのように習得していけばよいのでしょうか?
ドラッカーはそのために重要なことの1つとして、「自分の強みを知る」ことを説きます。
誰でも、自らの強みについてはよくわかっていると思っている。だが、たいていは間違っている。わかっているのは、せいぜい弱みである。それさえ間違っていることが多い。しかし何ごとかをなし遂げるのは、強みによってである。弱みによって何かを行うことはできない。
(『プロフェッショナルの条件』112ページ)
そして強みを知る方法として、「フィードバック分析」を紹介しています。フィードバック分析とは、次のようなものです。
何かをすることに決めたならば、何を期待するかをただちに書きとめておく。九か月後、一年後に、その期待と実際の結果を照合する。(中略)
こうして二、三年のうちに、自らの強みが明らかになる。自らについて知りうることのうち、この強みこそもっとも重要である。(『プロフェッショナルの条件』112ページ)
分析によって強みが明らかになると、強みに集中することができます。またそれにより、伸ばすべき技能や新たに習得すべき知識がわかり、強みをさらに伸ばすことができます。一方で、自らに欠けている知識を理解したり、悪癖を改めたりできるようになっていきます。このようにして強みを磨き、仕事で強みを発揮し一流の仕事ができるようになれば、胸を張って「プロフェッショナル」だと名乗れるようになることでしょう。
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本書では、自らの強みを知る方法の他、時間を管理する方法や、人生をマネジメントする方法などが説かれています。特に、人生をマネジメントする方法については、人生後半をどう過ごしていくか検討している人にとって参考になるのではないでしょうか。「人生100年時代」といわれる今、第2の人生をどう設計していくかは大きな悩み事です。そうした悩みを抱える人にとって、ドラッカーのアドバイスは貴重なヒントを与えてくれます。
先述した通り、本書は2000年刊行と、すでに20年以上が経っています。ですが、ドラッカーの本は、いつ読んでも新たな発見・学びが得られるところに魅力があります。『プロフェッショナルの条件』は、まだ読まれていない方はもちろん、すでにお読みいただいた方にも、ぜひ手に取っていただきたい書です。
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ちなみに、11月11日は「日本の資本主義の父」と称される渋沢栄一の命日でもあります(1931年逝去)。その渋沢の生涯と思想をわかりやすく解説した本、『渋沢栄一 「論語と算盤」の思想入門』(守屋 淳/NHK出版)は、今年8月のPick Up本でご紹介しています。こちらも合わせてお読みいただければ幸いです。
(編集部・油屋)
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「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。
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