記録的猛暑が続いた夏がようやく終わり、過ごしやすい日が増えてきました。
気づけばもう10月。2023年もあと3カ月か、と思いながら編集部内の書棚を見渡すと、ふと目に留まった書籍がありました。それが今回Pick Upする『社会保障クライシス 2025年問題の衝撃』(山田謙次 著/東洋経済新報社 刊)です。
本書は、野村総合研究所で長年社会保障の調査に携わってきた山田謙次氏が、差し迫った社会保障危機について解説した2017年刊行の書籍です。
本書の「はじめに」で、山田氏は次のような警鐘を鳴らしています。
2025年までに、つまりあと10年も経たずに、社会保障に必要なお金が膨張し、一方でそれを支えきる力がなくなり、日本の社会保障制度は崩壊の危機を迎えます。
(『社会保障クライシス』1~2ページ)
山田氏によれば、日本は充実した社会保障制度を持つ一方で、世界の中でも税金が比較的安い国だそうです。つまり日本は、「高い社会保障水準」と「低い税金額」が両立している国なのです。ですが、人口ボリュームの大きい「団塊の世代」(1947~49年生まれ)の人たちが2025年にはすべて後期高齢者(75歳以上)になることで、この2つが両立しなくなり、社会保障制度が崩壊するという、大きな危機を迎えるといいます。
メディアでは元気な高齢者を見かけることがしばしばありますが、一般的に75歳を超えると多くの人が何らかの身体的な支障を抱え、医療にかかる機会が増えます。するとその分、医療や介護などの社会保障費が増えることになります。
事実、『社会保障クライシス』が刊行された2017年度の社会保障関係費は32.5兆円でしたが、2023年度の社会保障関係費は、医療や介護費用の伸びにより36.9兆円と過去最高を更新しています(財務省ホームページ『日本の財政関係資料』平成29年4月/令和5年4月)。団塊の世代の高齢化が進めば、この数字は今後も増え続けることが予想されています。
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増加する社会保障関係費を賄うため、これまで政府は国債を発行することで穴埋めをしてきました。この国債の主な購入者は、日本の金融機関です。しかし、次の理由から、今後は国債を発行し続けることが困難だと、本書は指摘します。
高齢者の預金はこれまで増え続けるものでした。そのため、国債の発行が増えても金利は高騰しませんでした。しかし、これからは環境が変わります。(中略)高齢者は年金だけで暮らせるわけではなく、2025年には700万世帯が生活上の困難を抱えているわけですから、貯蓄が減少局面に入ります。そのタイミングが団塊の世代が後期高齢者になる2025年です。この時期には金利が抑えられていた最大の要因である国内貯蓄が減少傾向になります。金利が上昇すれば、これまでどおりの国債発行はできなくなります。これが2025年の財政破綻の道筋です。
(『社会保障クライシス』158~159ページ)
先に触れた『日本の財政関係資料』によれば、2023年度の新規国債発行による収入は、一般会計歳入(114兆円)の約3割となる35.6兆円。つまり、社会保障関係費とほぼ同額を国債発行により賄っていることになります。著者が言うように、国債が発行できなくなるとしたら、今の社会保障制度を維持することが非常に難しいことは明らかです。
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『社会保障クライシス』では、社会保障制度の破綻を回避するため、増税や医療供給体制の縮小、外国人による介護サービスの受け入れなどの提案をしています。ただ、こうした内容は国民の反発を招くからなのか、為政者から強いメッセージが発せられることはあまり多くないように感じます。
破綻を回避するには、上記以外に支出の見直しも必要でしょう。『無駄だらけの社会保障』(日本経済新聞社 編/日経BP・日本経済新聞出版本部 刊)によると、医療や介護の現場では、人々の想像以上に多額の無駄遣いが生じているといいます。例えば風邪薬や湿布薬など、ドラッグストアで買える薬も「自己負担が軽くなる」からと病院で処方してもらうケースが多いそうです。
ある湿布薬を通販サイトで買うと598円(2019年6月中旬時点)だが、病院で同じ量をもらうと3割負担なら105円の負担で済む。(中略)75歳以上の後期高齢者は窓口負担が原則1割のため、自己負担はさらに小さくなる。(中略)問題は自己負担以外の7~9割分を保険料と税金で賄っているということだ。軽症なのにわざわざ病院に通う行動が、結果的には公的保険財政や国の懐を痛めているのだ。
(『無駄だらけの社会保障』20~21ページ)
2022年には、診療報酬改定により湿布薬の配布枚数が減少(70枚から63枚)したり、75歳以上で一定以上の所得のある人の医療費の窓口負担割合が2割になったりと、少しずつ見直しはなされているようです。ですが、高齢者の健康や家計に大きくかかわる問題のためか、抜本的な改革には至っていないのが現状です。
少子化が進み、経済も長らく停滞している日本で、今から急激に歳入を増やすことは現実的ではありません。国民の負担を増やすか、保障・給付を減らすか、あるいは両方か…。恥ずかしながら私は「負担は軽く、でも保障は手厚くしてほしい」と思っていました。ですが、そうもいっていられない現実がすぐそこまで迫っています。
2025年まであと1年3カ月。日本の社会保障が重大な局面に差し掛かっている中、『社会保障クライシス』の警告と提言に今一度耳を傾けてみてはいかがでしょうか。
(編集部・油屋)
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