
今月14日、英国・ロンドンのナショナル・ギャラリーで、化石燃料に反対する抗議者がフィンセント・ファン・ゴッホの名画「ひまわり」にトマトスープをかけるという事件が発生しました。(「ゴッホの「ひまわり」にトマトスープかける、化石燃料に抗議 英美術館」 CNN.co.jp/2022年10月15日)
幸い、絵はガラスに覆われて保護されていたため、無事だったとのことです。
今回の事件に限らず、絵画が標的となる事件は過去にもあります。
例えば、イタリアの美術家レオナルド・ダ・ヴィンチが描いた肖像画、「モナ・リザ」。現在、パリのルーブル美術館に展示されているこの絵は、アートに興味がない人でも知っている世界的名画の1つです。
そんな「モナ・リザ」も、スプレー塗料を吹き付けられたりするなど、数々の災難に遭っています。意外なことに、そもそも「モナ・リザ」は、盗難事件という「偶然のできごと」がきっかけとなり、世界的な名声を得たといいます。
今週Pick Upする本、『成功する人は偶然を味方にする ――運と成功の経済学』(ロバート・ H・フランク/日本経済新聞出版社)では、あるイタリア人が引き起こしたこの事件について、社会学者のダンカン・ワッツの説明を引いて紹介しています。
「モナ・リザ」は、かつてはほとんど世に知られていなかったらしい。一躍有名になったのは、1911年のビンセンツォ・ペルージャによる盗難事件からだ。(中略)この盗難事件は広く報道され、2年後、フィレンツェのウフィッツィ美術館に絵を売ろうとしたペルージャが逮捕されて解決をみた。
(『成功する人は偶然を味方にする』 51ページ)
そして、この事件に関する考察として、以下のような記事を紹介します。
フランス国民は強い衝撃を受けた。ペルージャは、絵画を本国に返そうとした愛国者として、イタリア人に称賛された。世界中の新聞がこの事件を取り上げ、「モナ・リザ」は世界的名声を得た最初の美術品となった。
(『成功する人は偶然を味方にする』 51ページ)
つまり、今でこそ世界的に有名な「モナ・リザ」ですが、かつてはほとんど世に知られておらず、盗難事件という偶然のできごとを経て、世界的な名声を得るに至ったというのです。
『成功する人は偶然を味方にする』では、「モナ・リザ」の他、経営者の所得や音楽のヒット曲など、様々な事例を交えながら、偶然や運の重要性についてわかりやすく紹介しています。
著者は、コーネル大学の経済学教授であり、ニューヨーク・タイムズ紙で経済コラムを執筆するロバート・H・フランク。実は、彼自身が運に関心を持つようになったのは、偶然のできごとが自らの人生に大きな影響を与えたからだといいます。友人とテニスをしている最中、急性心不全に見舞われたものの、“偶然”近くに救急車がきていたため、一命をとりとめることができたのだとか。
そんな著者が、偶然(運)と成功の関係について、本書で次のように述べています。
もちろん、才能と努力は重要だ。だが、社会でも最大級のご褒美を獲得する競争は熾烈で、才能と努力だけでは勝てない。ほとんどの場合、運の強さは必須である。
(『成功する人は偶然を味方にする』 24ページ)
私たちは、成功するうえで最も必要なのは「才能」や「努力」だと考えがちです。かつての偉人や成功者の中にも、努力・才能の重要性を説く人が少なくありません。
ただ、人一倍努力をしても、仕事でなかなか結果が出ないことがあるのも事実。才能のある人がうらやましい、と思ったことは誰しもあるのではないでしょうか。そんな方にこそ、ぜひ、本書を読んでいただきたいと思います。これまでとは違ったやり方で、運や偶然を味方につけ、成功するためのヒントが見つかるかもしれません。
(編集部・油屋)
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「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。
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