2023.8.14

編集部:西田

リーダーは真摯たれ! ドラッカーも重要視した“インテグリティ” その身につけ方を説く

リーダーは真摯たれ! ドラッカーも重要視した“インテグリティ” その身につけ方を説く

 日々、様々な謝罪や釈明の会見が社会を騒がせています。
 中でも印象に残りやすいのは、会見によってかえって炎上してしまうケースでしょう。

 「現場がやった」と自らの関与を否定する社長。
 「記憶にない」とごまかす政治家。
 そもそも会見に姿を現さない責任者…。

 多くの「残念な会見」に共通するのは、組織を代表する人間の資質の欠如ではないでしょうか。
 では、一体リーダーにはどんな資質が求められるのか。
 今週Pick Upするのは、その内容を明確化した本、『INTEGRITY インテグリティ 正しく、美しい意思決定ができるリーダーの「自分軸」のつくり方』(岸田雅裕/東洋経済新報社)です。

 著者の岸田雅裕氏によると、「インテグリティ」とは次のような意味の言葉です。

 

インテグリティとは英語で「誠実」「高潔」「廉直」などという意味ですが、「あの人はインテグリティがあるね」というときは、他人に対して誠実であるとか、自分に対して誠実である、職務に対して誠実であるという状態を指します。
あるいは過去も含めて言動に一貫性があることも意味します。

(『INTEGRITY』 26ページ)

 

 「現場がやった」や「記憶にない」という発言からは、その後ろに(だから自分は関係ない)(やらなかったとは言っていない)といった本音が見えてきます。それは他人や職務に対して誠実、と言えるような態度ではありません。
 同時に、「上からの(明示/黙示の)指示でやっていたのに…」という社員からすると、いきなりハシゴを外されたようで、言動に一貫性がないとも感じるでしょう。

 そんなインテグリティなきリーダーが組織にもたらす弊害について、岸田氏はドラッカーの言葉を引いて語っています。

 

「(中略)いかに知識があり、聡明であって上手に仕事をこなしても、真摯さに欠けていては組織を破壊する。組織にとってもっとも重要な資源である人間を破壊する。(以下略)」
どんなに頭がよくてもインテグリティがなければ組織や人間を「破壊する」とまで言っていますから、その重要性はいくら強調しても強調しすぎることはないほどです。

(『INTEGRITY』 47ページ)

 

 ドラッカーの言う「真摯さ」が、本書におけるインテグリティです。人的資本経営の価値が説かれる今日、ドラッカーのこの言葉は改めて噛み締めるべきでしょう。

 本書は、そんなインテグリティについて、「課題設定におけるインテグリティ」「チームの力をまとめるインテグリティ」「次世代リーダーを育てるインテグリティ」など、ビジネスの様々な場面ごとに、岸田氏自身の経験を示しながら解説しています。

 それらを通して一貫して伝えられるのは、何が「正しい」か、「善きこと」か、「美しい」か(真・善・美)について「自分の物差し」を持つ、ということです。
 例えば、8月7日公開の「今週のPick Up本」でご紹介した、『渋沢栄一 「論語と算盤」の思想入門』(守屋 淳/NHK出版)。そこでは、渋沢栄一の「公益の追求」という思想を取り上げました。多くの会社や社会公共事業に関わった渋沢の偉業は、公益の追求という「物差し」をぶれずに持ち続けたことによって成し遂げられたのでしょう。
 実際、岸田氏は、インテグリティを培う「お薦め本」の1つに、『論語と算盤』を挙げています。本書と併せ、読んでみられてはいかがでしょうか。

 岸田氏は、次のようなドラッカーの言葉も引いています。

 

「真摯さはとってつけるわけにはいかない。すでに身につけていなければならない。ごまかしがきかない」

(『INTEGRITY』 47ページ)


 炎上してしまう謝罪・釈明会見は、この言葉の正しさを如実に示していると言えるでしょう。
 危機管理が必要になる場面は、自分の思い通りのタイミングで訪れるわけではありません。ごまかしがきかないからこそ、組織のトップに立つべき人間には、日頃からインテグリティある振る舞いができているか、自分の中の「真・善・美」はぶれていないか、常に自省することが求められます。

 同時に岸田氏が強調するのは、インテグリティとは決して生まれつきのものではないということです。
 本書は、次のような告白で幕を開けます。

 

正直に言うと、私自身はずいぶん長い間、インテグリティのある人間ではありませんでした。

(『INTEGRITY』 16ページ)

 

 氏は「あとがき」で、若手ビジネスパーソンだった頃の自身のエピソードを赤裸々に語っています。
 ともすれば自分の恥になるような話を、なぜわざわざ打ち明けるのか。
 それは、「インテグリティは誰でも身につけられる」ことを示すためでしょう(そしてまた、そうした過去に触れずにインテグリティを語ることは、「誠実」とは言えないと考えたからではないでしょうか)。

 「とってつける」わけにはいかないけれども、一握りの限られた人のものでもない。インテグリティは、きっかけと意識次第で誰にでも獲得できるものなのだということが見えてきます。
 本書『INTEGRITY』は、その重要性に気づくきっかけを読者に提供してくれる1冊です。

(編集部・西田)

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 「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。

2021年10月号掲載

INTEGRITY インテグリティ 正しく、美しい意思決定ができるリーダーの「自分軸」のつくり方

「真摯さよりも、頭のよさを重視する者をマネジャーに任命してはならない」。ピーター・ドラッカーはそう語った。真摯さ ―― インテグリティこそ、これからのリーダーに求められる資質である。判断に迷った時に指針となり、リーダーを正しい道へと導く。そんなインテグリティを培い、自分軸とするための方法を説いた教科書だ。

著 者:岸田雅裕 出版社:東洋経済新報社 発行日:2021年8月

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