2024.7.1

編集部:西田

前提を疑え! 「発想を変える」ことの重要性とそのノウハウ

前提を疑え! 「発想を変える」ことの重要性とそのノウハウ

ゆでガエル現象

 こんな実験をご存じでしょうか。

 ――カエルを2匹捕まえてくる。
 1匹目のカエルは、熱湯を張った鍋の中に落とす。カエルは驚いて鍋から飛び出し、火傷はしたが生き延びることはできた。
 2匹目は、ぬるま湯を張った鍋の中に落とす。それから、少しずつ鍋の温度を上げていく。だが、カエルは水温が上がっていることに気づかず、鍋から逃げ出さないままやがて茹で上がって死んでしまった。――

 「ゆでガエル現象」として有名なので、「ああ、あの話ね」と思われた方も多いのではないでしょうか。
 自分が茹で上がっていくことに気づかなかった2匹目のカエルのように、人間も、周囲のわずかな変化に敏感にならなければ、知らないうちに手遅れになってしまう可能性がある。だから私たちは、常にアンテナを高く張り、自分を取り巻く環境の変化、社会の大きな流れを気にかける必要がある…と、だいたいそのような文脈で語られる話です。

 

ゆでガエル現象の真偽

 ゆでガエル現象の話なんて、いまさら言われなくても…と思われたかもしれません。ですが、そんな方には、ぜひ『THINK AGAIN 発想を変える、思い込みを手放す』(アダム・グラント 著/三笠書房 刊)のこの一節をお読みいただければと思います。

 

私はこの有名な説について少々調べてみたが、これは疑似科学的、つまり科学的根拠に基づいていないとわかった。
実際のところ、煮えたぎる鍋にカエルを投げ込んだら、瞬時に火傷を負って逃げ出す前に死にかねない。徐々に温度が上がる水の中に入れたほうが、不快感が増してきた時に飛び出す可能性が高い。

(『THINK AGAIN』 18ページ)

 

 「考えてみれば、そりゃそうだよね」と思うような指摘です。
 自分自身を振り返ってみると、初めてこの話を知った時には「本当か?」と疑問を持ったような記憶があります。ですが、ストーリーとしてのわかりやすさと、警句としての使いやすさとが相まって、何度も見聞きするうちにいつしかこの話を「当たり前」のものとして受け入れていたように思います。

 

疑うことの重要性

 上に挙げた『THINK AGAIN』の一節は、その後こう続きます。

 

肝心なのは、ここだ。ものごとや状況を見直すことができないのはカエルではない。私たちのほうなのだ。一度聞いた話を真実として受け止めたら、もうそれを疑おうとはしなくなる。

(『THINK AGAIN』 18ページ)

 

 カエルと鍋の話を聞いて「ああ、あの話ね」と思ったとしたら、もう思い込みに囚われているということ。その時点ですでに、今の自分の状況を疑わない「ゆでガエル」になってしまっている――。著者の強烈な皮肉のきいた指摘に、ゆでガエル現象について得意げに語っていた自分が恥ずかしくなりました。

 

「Think Again」の難しさ

 ということで、今週Pick Upするのは、この「ものごとや状況を見直す」=「再考する」ことに焦点を当てた本、『THINK AGAIN』です。
 「考えてみれば、そりゃそうだよね」というのは、言うは簡単ですが、実際に「考え直す」ことは難しいものです。それは、コロンブスの卵の逸話を持ち出すまでもないでしょう(ちなみに、この逸話もまた実話ではないという説があるそうです)。

 身近なところでは、私たちが日々使うスマホ。
 「ブラックベリー」というデバイスをご記憶でしょうか。iPhoneよりも前から存在した携帯型Eメール受送信デバイスで、「スマホの元祖」とも言われる存在です。
 ブラックベリーは、ビル・ゲイツやオプラ・ウィンフリーといった著名人をはじめ、多くの人々からカルト的な人気を集め、2009年には、アメリカのスマホ市場の半分ものシェアを有していたといいます。
 ところが、わずか5年のうちに、そのシェアは1%以下に凋落。いったい、どうしてそんなことになったのか?
 本書ではその原因として、ブラックベリーの開発者、マイク・ラザリディスが「再考」することができなかったことを挙げています。

 

画期的なiPhoneの登場で市場が沸いても、ラザリディスは自分の信念を崩さず、過去に一世を風靡したブラックベリーの機能にこだわり続けた。人々が求めているのは、仕事用のメールや通話のためのワイヤレス端末で、ホームエンターテインメント用のアプリを搭載したポケットサイズのコンピューターではない――そう信じて疑わなかった。

(『THINK AGAIN』 46ページ)

 

再考を妨げるバイアス

 今日から考えれば、「ホームエンターテインメント用のアプリを搭載したポケットサイズのコンピューター」の魅力は明らかです。ではなぜ、ラザリディスは「再考」することができなかったのでしょうか。
 本書は、固定観念から抜け出すのが難しい理由を、2つの「バイアス」で説明しています。
 1つは、自分が予期するものを見る「確証バイアス」、もう1つは自分が見たいものを見る「望ましさバイアス」です。そして、こうしたバイアスには、頭の回転が速い人ほど注意が必要だと指摘しています。

 

ある研究によると、知能指数テストのスコアが高ければ高いほど、より速くパターンを認識できるため、既成概念にとらわれやすいという。また、近年の複数の実験では、頭の回転が速い人ほど、信念を改めることに苦労することが示唆されている。

(『THINK AGAIN』 47ページ)

 

発想を変えるには

 では、そんな思い込みから抜け出すためには、どうしたらよいのでしょうか。
 上に挙げたバイアスの例からもわかる通り、その1つの対処法は、「知的に謙虚であること」です。本書は、次のように説いています。

 

再考のプロセスを研究していくにつれて、それはループで循環していることに気づいた。まずは知的に謙虚であること、つまり、無知を自覚することから始まる。自分の知識が欠けている分野をリストアップするといいだろう。(中略)
欠点を自覚することで懐疑への道が開かれる。欠けている知識を問うことで、自分が持たない情報に対する好奇心が生まれる。探し求めるうちに新しい何かを発見し、「学ぶべきこと、発見すべきことは、まだたくさんある」と自覚することで、謙虚さを保てる。

(『THINK AGAIN』 52~53ページ)

 

 つまり、「謙虚さ」→「懐疑」→「好奇心」→「発見」→「謙虚さ」というサイクルを回すことで、思い込みに囚われることを避けられるということです。
 本書では、この「再考サイクル」を回すためのテクニックを数多く紹介しています。具体的には、「自分の意見に反する情報を探す」「自分の間違いを喜ぶ」「建設的な対立を恐れない」「世論を二極化するトピックを複雑化する」「心理的安全性を確立する」等々。
 そのそれぞれに、例えば「世論を二極化するトピックを複雑化する」では地球温暖化問題における世論の対立、「心理的安全性を確立する」であればNASAのスペースシャトル爆発事故など、様々な事例を交えてわかりやすく解説しています。

 リカレント教育やリスキリング、アンラーニングなど、学び直しの重要性が説かれる昨今ですが、これらはまさに自分のあり方を「再考する」もの。
 人生100年時代といわれる今日、発想を変え、思い込みを手放す「再考」のスキルは、様々な個別分野の知識に共通する基礎として、誰にとっても必要不可欠なものでしょう。『THINK AGAIN』は、その知的基盤を築くヒントを与えてくれます。ゆでガエルにならないための助けとして、一読をおすすめしたい1冊です。

(編集部・西田)

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 「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。

2022年7月号掲載

THINK AGAIN(シンク アゲイン) 発想を変える、思い込みを手放す

本当に頭の良い人とは、「考えること」よりも「考え直す」ことのできる人 ―― 。今日、情報技術の進歩により、日々膨大な情報が生まれ、すぐ古くなる。今の時代を生き抜くには、既存の知識や考えを常に見直すことが欠かせない。そんな現代社会に必須ともいえる「再考する」ことの重要性、そして発想を変えるための方法を説く。

著 者:アダム・グラント、楠木 建(監訳) 出版社:三笠書房 発行日:2022年4月
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