2023.7.31

編集部:油屋

ハーバードが絶賛! 「お掃除の天使たち」から現場力を高める方法を学ぶ

ハーバードが絶賛! 「お掃除の天使たち」から現場力を高める方法を学ぶ

 間もなく迎えるお盆休み。新型コロナウイルスの感染も落ち着き、帰省や旅行を計画している方は多いのではないでしょうか。ある報道によれば、今年のGWに新幹線などを利用した人は1000万人を超え、コロナ前の約9割まで回復したそうです。GW同様、このお盆休みにも多くの人の移動が見込まれています。

 今回のPick Up本では、お盆に多くの方が利用する新幹線に関するビジネス書、『新幹線お掃除の天使たち 「世界一の現場力」はどう生まれたか?』(遠藤 功/あさ出版)をご紹介します。

 著者の遠藤功氏は、これまでに数多くの現場を訪ね、企業の取り組みを観察してきたコンサルタントで、欧州系最大の戦略コンサルティング会社であるローランド・ベルガー日本法人の元会長です。主な著書に『現場力を鍛える 「強い現場」をつくる7つの条件』『「カルチャー」を経営のど真ん中に据える 「現場からの風土改革」で組織を再生させる処方箋』などがあります。
 そんな遠藤氏が、新幹線の車両清掃を行う鉄道整備株式会社(現在、株式会社JR東日本テクノハートTESSEI)、通称「テッセイ」の成功の軌跡から、「現場力」を高める方法を探ったのが本書です。ちなみに『現場力を鍛える』によると、現場力とは「現場が自ら問題を発見し、解決する能力」のことをいいます。

 新幹線の車両や駅構内を清掃するという、地味で目立たない仕事ながら、テッセイはこれまでにテレビ番組の「WBS(ワールドビジネスサテライト)」をはじめ、多くのメディアで紹介されてきました。また、ハーバードビジネススクールの授業で取り上げられ絶賛された他、海外メディアでも大きく報道されています。
 清掃現場で頑張る人たちの礼儀正しさや乗客への気配り、数々の心遣いが乗客を感動させていることから、清掃スタッフの方々は「お掃除の天使たち」とも呼ばれており、それが本書のタイトルにもなっています。

 『新幹線お掃除の天使たち』では、テッセイの日常の現場で起きていること、そしてこれほど注目されるテッセイという会社がどのように誕生したのか、2部構成でわかりやすく解説しています。

 遠藤氏によれば、テッセイの経営陣は普通の清掃会社から「トータルサービスの会社」になるべく、様々な仕掛けを考え、実行に移してきたそうです。その仕掛けとは、例えば、次のようなものです。

 

最初に仕掛けたのが、「お客さまサービスジョイントラリー」と称するイベントです。「トータルサービス」の実践に向けた現場での具体的な取り組みを6チームが発表し、パネルディスカッションも行いました。そこには約100名ものスタッフが参加しました。

(『新幹線お掃除の天使たち』146ページ)

 

また、以前から行っていた車両清掃の技を競う「車両清掃競技会」を、大幅にリニューアルしました。以前はモックアップの車両を使用していたのですが、JR東日本にお願いし、新幹線の実車を借り切って行うという本格的なものに変えたのです。(中略)応援も含めると、80名以上のスタッフが参加する大きなイベントになりました。

(『新幹線お掃除の天使たち』146ページ)


 こうしたイベントは、社員が自分たちの役割・仕事とは何かを振り返る絶好の機会となったそうです。また、チームとしての結びつきも強固になり、一体感が高まったといいます。
 この他に、スタッフの待機所にエアコンを完備して働きやすい環境を整えたり、「20歳以上でパート歴1年以上」であれば正社員採用試験を受けられるように人事制度を見直したりしたといいます。こうした取り組みを1つ1つ積み重ねていくことで、テッセイは、現場が輝く会社へと変貌を遂げていったそうです。

 ところで、遠藤氏の著書『現場力を鍛える』では、「強い現場」をつくる7つの条件が紹介されています。それを読むと、テッセイはその条件の1つ、「オルガナイズ・スモール」にも取り組んでいるようにも思えます。
 オルガナイズ・スモールについて、遠藤氏は同書で次のように説明しています。

 

現場から自発的に知恵や創意工夫が「湧き出してくる」ために有効なアプローチは、「小さな単位の組織」による改善活動である。(中略)

「小さなチーム」の構成は、四人程度がひとつの目安となる。四人という単位の妥当性は、お祭りの「みこし担ぎ」を考えてもらうと分かりやすい。小さなみこしは基本的に四人が分担して担ぐものである。誰かひとりでも手を抜くとすぐ分かるし、人数が増えると力を使わずにぶら下がる人間が増えるだけである。

(『現場力を鍛える』125~126ページ)


 テッセイでは、現場主導で物事を進めるため、1サークル5~8名で構成される「小集団活動」の強化に取り組んだそうです。それによって活動が活発化し、各サークルの提案から、社内教育用の冊子制作や車両清掃業務の改善が行われたといいます。こうした小さな改善を積み重ねていったことで、テッセイの仕事のやり方や仕組みは進化し、乗客を感動させるサービスが生まれていったのです。

 『新幹線お掃除の天使たち』で紹介されているテッセイの取り組みは、目新しいものばかりではありません。地道なものも多く、もしかすると、同じような取り組みを思いつき、実行している企業は他にもあるかもしれません。
 テッセイのすごいところは、そうした取り組みに加え、経営陣が現場を心の底から尊重し、その気持ちを行動に移していることにあります。そして経営陣からの信頼を感じるからこそ、現場のスタッフは仕事に意欲的に取り組むことができ、人々が感動するサービスを実践することにつながっているのではないでしょうか。
 遠藤氏も、本書の「おわりに」で次のように述べています。

 

強い現場、輝く現場に共通するのは、自主性、自発性、自律性です。これらを生み出し、定着させるために不可欠な要素が、リスペクトとプライドなのです。この二つがお互いに影響を及ぼし合い、好循環を生み出したとき、「普通の会社」は「キラキラ輝く普通の会社」へと変身するのです。

(『新幹線お掃除の天使たち』188ページ)


 この夏、新幹線に乗って出かける方は、猛暑の中でも「キラキラ輝きながら」働く清掃スタッフの方々に注目してみてはいかがでしょうか。その姿から、感動を生み出す「仕事」の心得、「最強のチーム」を生み出すヒントが見つかるかもしれません。

(編集部・油屋)

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 「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。

2012年11月号掲載

新幹線お掃除の天使たち 「世界一の現場力」はどう生まれたか?

新幹線の車両清掃を行う鉄道整備株式会社、通称「テッセイ」が、今注目を集めている。手際よく清掃する、プロの技だけではない。礼儀正しさや乗客への気配り、四季を感じられるよう夏は浴衣姿で接客するなど、数々の心遣いが乗客を感動させている。「お掃除の天使たち」。こう呼ばれる、輝きに満ちたスタッフはいかにして誕生したか、本書はその取り組みを追う。

著 者:遠藤 功 出版社:あさ出版 発行日:2012年8月
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