現在、ドイツでは「UEFA欧州選手権(EURO 2024)」、アメリカでは南米サッカー連盟が主催する「コパ・アメリカ(Copa América)」が開催されています。この数週間、サッカーが好きな方は各国のスター選手の活躍を見て、興奮冷めやらぬ日々を過ごしているのではないでしょうか。
また、今月26日にはフランス・パリでオリンピックが開幕します。東京五輪からはや3年、様々な競技で一流アスリートの姿が見られることを、今から楽しみにしている人は多いでしょう。
さて、国際的なスポーツ大会で今や風物詩となりつつあるのが、動物による「勝敗予想」。2010 年のサッカーワールドカップの時には、8試合を予想し、全試合の勝者を当てた“予言タコ”パウル君が話題になりました。EURO2024でも、ダックスフントやカメ、アシカなどがそれぞれ独特な方法で勝敗を予想し、大会を盛り上げています(「ダックスフントやアカアシガメ、アメリカバクも参加するEURO 2024予想」/footballista、2024年6月18日)。
動物による勝敗予想が当たった時、「こんなの偶然に決まっているでしょ!」と、普通は思うでしょう。しかし何試合も(しかも自分や専門家よりも高確率で)勝敗を当てる姿を見ると、「めちゃくちゃ賢い!」「もしかするとすごい能力を持っているのかも…?」などと思ってしまうのではないでしょうか。もしかすると、試合前からその予想を真に受けて喜んだり悔しがったりする人もいるかもしれません。
このように奇抜な話・データを私たちが真に受けてしまう原因や、データとの向き合い方を教えてくれる、『データは騙る 改竄・捏造・不正を見抜く統計学』(ゲアリー・スミス 著/早川書房 刊)を今週はPick Upします。
人はなぜ騙されるのか?
なぜ私たちは、一見奇抜な話やデータをも信じ、騙されてしまうのでしょうか?
『データは騙る』の著者で、経済学者のゲアリー・スミス氏は、それは「進化のせい」だと指摘します。
黒い雲はよく雨を降らす。茂みから何か聞こえれば、捕食者が潜んでいるかもしれない。(中略)食べ物や水を見つけ、危険を察知し、生殖能力の高い相手を見つけるのに役立つパターンを認識した祖先は、その能力を次世代に引き継いでいった。(中略)
何世代にもわたって自然淘汰が繰り返された結果、私たちはパターンを探し、見つけたパターンの意味を考えるようになったのである。(『データは騙る』 24~25ページ)
そして、私たちの祖先が厳しい世界で生き延びるために身に付けた「パターンを認識する」能力が、現代では「認知ミスを引き起こす」ことにつながっているとスミス氏は言います。それは、私たちは遺伝的に、パターンを発見するとそこに“意味がある”と思ってしまうからだそうです。
私たちは連勝しているときや、連敗が止まったときは、それによって自分の理屈をより強化する。負け続けているとき、あるいは負けに転じたときには、無意味な物語にしがみつくための言い訳をこしらえる。
アスリートが幸運の靴下を洗わずに身につける。(中略)この靴下を穿いてうまくいった。ということは、この靴下のおかげでうまくいったにちがいない。(中略)私たちの目には、秩序ある世界は混沌とした世界よりも好ましく映る。
こうした認知ミスがあるから、私たちは統計にだまされやすくなる。(『データは騙る』 25~26ページ)
幸運の靴下に限らず、皆さんも何らかのパターンを持ってはいないでしょうか。
例えば、「〇〇をしたら運が良くなった。だから運を良くしたければ〇〇をするといい」「いつも活躍しているアスリートが、××の健康サプリメントが良いと言っていた。だから私も××を積極的に摂っている」といったように。
もしかすると、それは偶然であったり、他の要因が関係したりしている可能性があるのかもしれません。ですが、認知ミスによって、意味のないパターン、根拠のないデータなども、人はすぐに意味があるものとして受け止めてしまうのだそうです。
騙されないために何をすべきか
では、意味のないパターンやデータに騙されないために、何に気を付ければよいのでしょうか?
スミス氏は次のようなアドバイスを私たちに送っています。
パターンが証拠だとだまされないように。私たちは論理的で説得力のある説明を求め、その説明を新しいデータで検証しなければならない。
(『データは騙る』 38ページ)
また、「目に見えないデータ」に注意を払うことも重要だと述べています。
私たちは目にするもの ―― 労働者の賃金、被弾した戦闘機、超優良企業など ―― から、自然に何らかの結論を下している。だが、同時に、目にしないもの ―― 退職した従業員、帰還しなかった戦闘機、没落した企業 ―― についても考えなければならない。
目に見えないデータにも意味があり、場合によっては、目に見えるデータより重要な意味を持つこともある。(『データは騙る』 61ページ)
書籍やネット記事の中には、好業績を上げた会社を数社取り上げて、そこから共通する特徴 ―― 例えば、明確なビジョンを持っている、飲み会が頻繁に行われている、社名に共通する文字が入っている ―― を取り上げているものが少なからずあります。それを見て、「業績を上げるにはそうした取り組みをした方がいいのかも」、とつい考えてしまう人もいることでしょう。
ですがスミス氏の指摘通りに行動するのであれば、目に留まる特徴を見つけて満足するだけでは駄目で、好業績の会社以外(平均的な業績の企業)についても確認する必要があります。もしかすると、平均的な業績の企業の中にも、好業績の会社と同じ取り組みをしている場合があるかもしれません。データに騙されないためには、成功法則が本当に当てはまるのか、論理的かつ冷静に見極める必要があるでしょう。
このように『データは騙る』では、私たちがデータの解釈でつまずきがちなポイントや、それを乗り越えるための知恵が、スポーツや社会問題などの豊富な事例とともに紹介されています。データを読み解くことが苦手、という人にはぜひ一度手に取っていただきたい書です。
パウル君はなぜ試合結果を予言できたのか
ちなみに、本記事の冒頭で触れた“予言タコ”パウル君。彼はなぜ、試合を予想することができたのでしょうか? その理由も『データは騙る』には書かれています。
予言タコのパウルは、ドイツの水族館にいたので、ワールドカップでは、決勝戦となったスペイン・オランダ戦以外は、すべてドイツが対戦する試合を予測した。(中略)
タコはほぼ色盲だが、実験の結果、明るさは見分けることができ、横長の形を好むことがわかっている。ドイツの国旗は横に3分割され、鮮やかな色が配置されている。セルビアとスペインの国旗も同様で、パウルがドイツ以外で選んだのはこの2国しかない。(中略)
パウルは勝つチームを選んでいたわけではなく、自分が好きな国旗を選んでいたのである。(『データは騙る』19~20ページ)
自分が好きな国旗を選んでいただけ ―― 。これが、パウル君が予想を当てていた理由でした。だとすれば、万が一、パウル2世(新しいタコの予言者)がパリオリンピックの開催中に現れて、日本の勝利を予想しなかったとしても不安になる心配はなさそうです。勝利を信じて全力で応援しましょう。
(編集部・油屋)
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「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。
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