2023.6.19

編集部:小村

石橋を叩くな! 調子に乗れ! 初代南極越冬隊長が説く“創造的生き方”とは

石橋を叩くな! 調子に乗れ! 初代南極越冬隊長が説く“創造的生き方”とは

 今週水曜日、6月21日は昼が最も長く、夜が最も短い「夏至」の日。夏の暑さもこれから本番を迎えます。
 といっても、これは地球の北半球でのこと。南半球は同じ頃、夜が最も長い冬至の日を迎えています。そして、南半球の最南端である南極大陸には、一日中太陽が昇らない「極夜」が訪れます。国立極地研究所のホームページに掲載されている南極観測隊ブログによれば、今年は5月31日から7月11日までが極夜となるそうです。
 現在、南極では第64次南極観測隊が活動中です。日本は、1957年に第1次南極観測隊が昭和基地を設立して以来、60年以上にわたって南極での観測を続けています。さきがけとなった第1次南極観測隊は、様々な困難を乗り越えて、その使命を果たしました。隊員らの挑戦の様子は、高視聴率を記録したNHKの番組「プロジェクトX」でも取り上げられており、ご記憶の方も多いのではないでしょうか。

 今週Pick Upするのは、その第1次南極観測隊で越冬隊長を務めた西堀栄三郎氏の著書『石橋を叩けば渡れない[新版]』(西堀栄三郎 著/生産性出版 刊)です。
 本書のカバーに、「これは、西堀流創造的生き方のおはなしです」とあるように、創造性を発揮するための「心の持ち方」とはどのようなものか、南極越冬隊のエピソードなどを交えつつ語られた1冊です。氏の講演をもとに編まれているということもあり、わかりやすく、かつ面白く創造性について学ぶことができます。

 本書には読者の創造性を刺激する文章があふれています。例えば、タイトルにもなっている「石橋を叩けば渡れない」と題した一節。著者は、新しいことをする上での心得を次のように述べています。

 

何か新しいことをするときには、まずそれを、やるかやらないかを決めることが必要になってきます。その場合、まず事前にあらゆる角度からよく調査し、それからやるかやらないかを決めよう、というやり方をすることがあります。(中略)
しかし私は、そんな考え方ではとうてい新しいことはできないと思います。
やるかやらないかを決心する前に、こまごまと調査すればするほど、やめておいた方がいいんじゃないかということになる。“石橋を叩いて渡る”とか“渡らん”とかいうけれども、石橋は完全に叩いてから、渡るか渡らんか決心しようなんて思っていたら、おそらく永久に石橋は渡らんことになるだろうと思います。
完全にリスクを防止できる調査なんて、できるはずがないのです。新しいことには、リスクがつきもので、だからこそ新しいのです。

(『石橋を叩けば渡れない[新版]』 39~40ページ)

 

 石橋を渡る前に様々な調査をしても、わかるのは「それまでにやったことがある」ことの結果だけです。そこからは、新たなチャレンジのリスクを十分に見積もることはできません。「見る前に飛べ」という英語のことわざがありますが、リスクを承知の上で行動しなければ、新しいことは成し遂げられないのです。

 また、西堀氏は創造性を発揮するには「調子に乗る」ことが大切だ、と主張します。

 

創造性開発をするような場合には、当人をして調子に乗せることが非常に大切なモチベーションなのです。(中略)ところが、日本では「調子に乗る」という言葉は非常に悪い意味の言葉になっており、人をたしなめるために用意されているようですが、それが非常に大きな意欲のもとになって爆発的に意欲が出るのだということは誰しも認めません。

(『石橋を叩けば渡れない[新版]』 146ページ)

 

 「調子に乗る」ことでモチベーションが上がり、意欲が爆発的に出る、と著者は説きます。しかし一方で、それを認める人は少ない、とも。これは、「調子に乗る」人を認めない、日本の組織のあり方への問題提起といえるでしょう。著者はこの後で、上司が部下の創造性を阻むことへの懸念を次のように語っています。

 

もうひとつ非常に重要なのは――たとえいい方向に向かっていても――その意欲が高まると、おのずからその人の創造性、能力がものすごく増えるということを、無意識に知っていて、「こんなことで、部下が能力を高めて成功すると、上役たるおれの立つ瀬がないぞ」というねたみの気持が「調子に乗る」ことを嫌わせるのではないだろうか、ということです。つまり、上役は部下よりも能力的に高いということを前提としているような立体組織とでもいいますか、(中略)そういうものは創造性開発ではもっとも害のあるものではないでしょうか。

(『石橋を叩けば渡れない[新版]』 146~147ページ)

 

 部下には「創造性を発揮しろ」と言いながらも、本当に部下が創造性を発揮しだしたら、押さえつけてしまう ―― 。思い当たる節のある方もいらっしゃるのではないでしょうか。創造性の高い組織を作るためには、硬直した上下関係の見直しも必要であることを本書は指摘します。
 『石橋を叩けば渡れない[新版]』では、こうした主張を補強する形で、著者が自ら行ってきた創意工夫の数々を紹介しています。いずれも、「ここまで発想できるのか」と感心するものばかりです。

 著者の西堀栄三郎氏は、1903年京都市に生まれました。京都帝国大学理学部の助教授だった1936年に大学を去り、東京電気株式会社(現東芝)に入社。同社で真空管の研究などを行い、1954年には品質管理普及の功績によりデミング賞本賞を受賞しています。
 氏が南極へ赴いたのは、デミング賞を受賞した2年後、50代半ばの時でした。これまでの経歴と南極とが結びつかないように思いますが、実は、そのきっかけは氏の子ども時代にありました。日本人として初めて南極大陸に上陸した白瀬中尉の探検報告を直接聞く機会があり、以来、南極へのあこがれを持ち続けていた、と述べています。そして、「降ってわいたような」チャンスを手にして、南極へと向かうのです。
 もちろん、こうしたチャンスを手にするには、理由があります。西堀氏には「登山家」としての顔がありました。中学から大学まで山岳部に所属。後には日本山岳会の第13代会長を務め、1980年にはチョモランマ登山総隊長として登頂を成功に導いています。
 余談ですが、西堀氏は南極越冬隊隊員の間で、「真夜中のニワトリ」と呼ばれていたそうです。第1次南極越冬隊隊員だった北村泰一・九州大学名誉教授は、雑誌のインタビューでその理由を語っています。

 

西堀さんのあだ名は「真夜中のニワトリ」と言うんですよ。西堀さんという人はね、はじめは憎まれるんです。ニワトリは明け方に「コケコッコー」と鳴くから良いのであって、夜中に鳴かれては迷惑で仕方ない。(中略)西堀さんが夜にワーワー言っているのを聞かされると最初はものすごく反発する。ところが、その人物が聡明であれば「あれは西堀が言う通りかもしれん」と明け方になると気づかされることになる。西堀さんの考えていることは、常に人より先を見ていて先見性が一段深いんですよ。

(『公研』2015年1月号「私の生き方」)


 こうしたエピソードや本書からは、西堀氏のバイタリティーあふれる人物像をうかがい知ることができます。

 なお、本書は2023年3月に【新装版】が刊行されました。新装版のカバーには「1972年初版から、60刷を重ねた不朽の書」と記されています。
 初版刊行から半世紀を経た今も、西堀氏が語る創造性開発のアドバイスは有用です。ロングセラーとして読まれ続けているこの書は、自らが行動しなければ何も生まれないことを、教えてくれます。

(編集部・小村)

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 「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。

2012年6月号掲載

石橋を叩けば渡れない[新版]

第1次南極越冬隊の隊長を務めた西堀栄三郎氏の講演をまとめたもの。創意工夫する能力を駆使して日本初の南極越冬を成し遂げた氏の、創造的な生き方が披露される。人間は経験を積むために生まれてきた、リスクがつきものだからこそ新しい、調子に乗らなければだめ…。バイタリティー溢れる言葉の数々は、我々に未知の世界にチャレンジする勇気を与えてくれる。

著 者:西堀栄三郎 出版社:生産性出版 発行日:1999年3月
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