
1月8日より、NHKで大河ドラマの新番組「どうする家康」の放送が始まりました。誰もがよく知る徳川家康の生涯を、新しい視点でどのように描いていくのか、楽しみです。
こうした歴史ドラマを見たり、時代小説を読んだりする時、私には2つの楽しみがあります。1つは、登場人物の生涯や歴史の流れがすでにわかっている状態で、それをどのように再現するのかという演出面での楽しみ。もう1つは、自分を登場人物と重ね合わせ、歴史上の大きな決断を行った人たちの気持ちを体験するという楽しみです。
このうち後者である、自分と登場人物を重ね合わせるという体験は、私自身の意思決定にも影響を与えているように思います。例えば、こんな時、家康ならどう決断するか…といった、自分の考えとは違う「もう1つ」の判断が思い浮かぶようになりました。
このように、歴史上の人物の決断や振る舞いは、時代が変わっても現代を生きる私たちにとって参考となるところが多くあります。
今回は、そうした歴史的なエピソードからリーダーシップを学べる本、『[新装版]指導者の条件』(松下幸之助/ PHP研究所)をPick Upします。本書はリーダーシップに関する古典的名著として、1975年の初版刊行以来、半世紀近くにわたって読み継がれているロングセラーです。
著者の松下幸之助氏(1894-1989)は、松下電器産業株式会社(現パナソニック)の創業者であり、昭和の時代において「経営の神様」と呼ばれるほどの手腕を発揮しました。没後30年を経過した今もなお、氏は経営者の模範と仰がれています。「プレジデント」2022年9月2日号では、読者が選ぶ「尊敬する経営者」ランキングで1位に、また「週刊ダイヤモンド」2023年1月7・14日新春合併号でも、「社長が選ぶ現代の名経営者」ランキングで3位に選ばれています。
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徳川家康や豊臣秀吉、孔子や諸葛孔明、リンカーンやケネディ…。本書は古今東西の優れた指導者の逸話を挙げ、そこから指導者たる者の、ものの考え方や姿勢、行動などを導き出す構成となっています。項目は全部で102あり、それぞれ見開き2ページで解説されています。本書について、松下氏は「まえがき」でこう述べます。
本書は一面において、いわば自分の勉強のための教科書のようなものでもあり、私自身これを座右において、日々自分を正す資としていきたいと考えています。
(『[新装版]指導者の条件』 2ページ)
「自分のための教科書」と氏は語っていますが、本書は「すべての社会人のための教科書」であると言えるでしょう。この本に書かれていることは、経営者だけでなく、管理職やリーダーなど、人を指導する立場にあるすべての人にとって有用であるとともに、これから人の上に立つであろう若い人たちにとっても参考になるからです。
私も本書を読み、ためになった話はいくつもあります。『TOPPOINT』でも紹介している安藤直次のエピソードは、その1つです。
安藤直次は、徳川家康が自分の息子紀州藩主頼宣の後見役に特に選んだ人物で、若い頼宣をきびしく訓育し、名君たらしめた人である。
その直次のところへ、のちに幕府の大老となった土井利勝が政務の見習いにやってきた。利勝が見ていると、いろいろな人が直次のところへ決裁を仰ぎにくる。それに対して直次は、「よろしい」とか「いけない」としかいわない。そして「いけない」といわれた人がまた別の案を持ってきても、それが気にいるまで、何度でも「いけない」とくり返すだけであった。(『[新装版]指導者の条件』 76ページ)
このことを不審に思った土井利勝は、安藤直次にその理由を尋ねます。直次はどう答えたのか、そして松下氏は、そこから何を考えたのか ―― 。詳しくは本書をお読みいただければと思います。ちなみに、この話のタイトルは「自主性を引き出す」です。
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ところで、本書には巻末に「人名索引」と「内容索引」がついており、これらが本書をより使いやすくしてくれています。
とりわけ、「内容索引」は使い勝手のよいものです。102の項目が、内容に応じて、「指導者のものの考え方」「自分を高めるために」など9つのテーマに分類され、読みたいテーマの事例がすぐに引けるようになっています。
一度通読した後、自分がその時々に抱えている悩みや問題について本書を参照したい時、2つの索引はとても役に立ちます。このような工夫も、本書の価値を高めているように思います。
『[新装版]指導者の条件』は文庫本サイズのコンパクトな本です。そのため携帯にも便利で、いつでもどこでも、私たちの「人の上に立つ者」としての悩みに応えてくれるでしょう。自分だけの「ポケットの中の相談役」として、活用されることをお薦めします。
(編集部・小村)
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「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。
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