2023.1.10

編集部:西田

父から息子へ贈られる“人生の知恵” 人生論のあるビジネス書

父から息子へ贈られる“人生の知恵” 人生論のあるビジネス書

 昨日1月9日は、成人の日でした。各地で成人式(20歳のつどい)が行われ、ニュースなどで人生の節目を迎えた若者たちの姿が報道されました。中には、親としてわが子の成人の日に立ち会った方もおられるのではないでしょうか。
 成人の日は、「おとなになつたことを自覚し、みずから生き抜こうとする青年を祝いはげます」日とされています(国民の祝日に関する法律(昭和23年法律第178号)第2条)。
 これから未来へ歩を進める若者たちに、私たちは先達としてどのような言葉をかけられるでしょうか? 今週PickUpする『ビジネスマンの父より息子への30通の手紙』(G・キングスレイ・ウォード/新潮社)という本に、そのヒントが詰まっています。

 著者のG・キングスレイ・ウォード氏は、苦節を乗り越え成功したカナダ人実業家。いくつかの会社を興して成功した後、息子に会社を譲り渡しています。
 この本は、息子の大学入学から会社の承継まで、約20年の間に書き溜められた30通の手紙をまとめたものです。その内容は、優しく、時に厳しく、わが子を思う気持ちにあふれています。
 中には、思わず笑ってしまうようなものもあります。例えば、大学2年の中間試験で悪い成績をとった息子に宛てた4通目の手紙。それは、次のように始まります。

 

君の中間成績報告が届いた。見ると、D、D⁻、C⁻といった奇妙な文字が並んでいる。私はこういうものを見たことがなかったので、友人に意味を訊いてみた。その返事からすると、君の一年目の成績が出て以来、私たちの目をくらませていたあの自己満足の笑顔は、多少輝きを失ったのではないか。

(『ビジネスマンの父より息子への30通の手紙』 49ページ)

 

 手紙を受け取った息子の、真っ赤になった顔が目に浮かぶようです。
 もちろん、皮肉を言うことがウォード氏の目的ではありません。この手紙は、努力を重ねることの意味を父自身の経験に照らして説いた上で、息子の挽回を願い、その背中を押すような言葉で締めくくられています。

 こうした率直さ、温かさは、30通の手紙の全篇に共通してみられるものです。
 訳者の城山三郎氏による本書の「まえがき」によれば、これらの手紙は、もともとは公にするつもりなどない、「遺書」代わりに書かれたものとのこと(このあたりの経緯については、TOPPOINTの要約でもご紹介しています)。だからこそ、飾らない愛情がその文面の端々から感じられるのかもしれません。

 手紙自体の内容に加え、本書を読む時に注目したいのが、それぞれの手紙の末尾にあるウォード氏の差出人署名です。氏は「〇〇より」と記していますが、「〇〇」の部分は、手紙の内容に応じて毎回異なるのです。
 例えば、1通目は「子煩悩の親父より」。2通目は「君の進路指導教官より」。息子が父の会社に入った後の9通目は「同僚より」で、息子が社長に任命された時の29通目は「元社長より」となっています。
 そして、最後の30通目は「父さんより」。1通目と同じようでまったく違う最後の署名に、2人の間で積み重ねられた時間と、父の教えを少しずつ吸収していっただろう息子の姿、そして父からわが子への深い愛情を感じずにはいられません。

 これらの署名からは、ウォード氏が様々な立場・視点から、息子に人生のアドバイスを贈っていたことがわかります。親から子へ、マネジャーからチームメンバーへ、リーダーから新入社員へ…。そして、それぞれの手紙を自分の身に置き換えて読むことで、読者自身も多くの教訓を得ることができます。本書が「人生論のあるビジネス書」として多くの人々に愛読され、世界的なミリオンセラーとなったゆえんでしょう。

 新年を迎え、気持ちも新たに、仕事や人間関係の構築に向き合っている方もいらっしゃることと思います。この『ビジネスマンの父より息子への30通の手紙』は、ビジネスを引っ張り、後進を指導する立場にある方々にお薦めしたい名著です。

(編集部・西田)

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 「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。

2020年10月号掲載

ビジネスマンの父より息子への30通の手紙

苦節を乗り越え、成功したカナダ人の実業家が、息子に書いた手紙をまとめたものだ。内容は、ビジネスにとどまらず、挑戦、結婚、読書、幸福など多岐にわたる。著者の体験から紡がれた知恵とノウハウは、生き難い世を生きる人々へのアドバイスでもある。“人生論のあるビジネス書”として、世界的なミリオンセラーとなった書。

著 者:G・キングスレイ・ウォード 出版社:新潮社(新潮文庫) 発行日:1994年4月

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