2026.4.20

編集部:西田

世界を読み解くカギは “エネルギー” にあり? その影響力を歴史を辿り明らかにする

世界を読み解くカギは “エネルギー” にあり? その影響力を歴史を辿り明らかにする

混迷の中東情勢

 中東情勢が混迷を極めています。

 2026年2月末、アメリカ・イスラエルがイランに先制攻撃を行い、これにイラン側は徹底抗戦。4月に一度は停戦合意に至ったものの、その直後にイスラエルがレバノンを攻撃し、同国の武装組織ヒズボラを支援するイランは猛反発しています。

 その後もアメリカのバンス副大統領とイランのガリバフ国会議長をトップとする高いレベルの協議が行われたものの物別れに終わっており、今後の見通しは依然不透明なままです。

 こうした中、原油調達の9割以上を中東に依存している日本にも影響が及んでいます。短期的には輸入物価や燃料費、中長期的には電気代や食料費など、生産から消費まで幅広い局面で影響があるとみられ、政府や各企業は対策に追われています。

 メディアも連日大きく取り上げており、エネルギーがいかに国民生活に大きな影響を与えるのか、改めて思い知らされた方も多いのではないでしょうか。

 そこで今週は、このエネルギーに着目して近現代の歴史を解説した本、『秩序崩壊 21世紀という困難な時代』(ヘレン・トンプソン 著/東洋経済新報社 刊)をPick Upします。

エネルギーが世界を動かす

20世紀から21世紀初頭にかけての経済・政治史は、石油と天然ガスの生産・消費・輸送から起こった事態を理解することなしには成り立たない。

(『秩序崩壊』28ページ)

 

 これは、『秩序崩壊』の「序論」で語られている言葉です。

 そしてその言葉通り、本書では石油や天然ガスの供給力がいかに世界に影響を与えてきたのか、様々な事例を挙げつつ解説しています。

 例えば、『TOPPOINT』の要約でもご紹介した、1956年のスエズ危機。エジプトのナセル大統領がスエズ運河を国有化し、イスラエル船舶の通航を禁止したことで始まったものです。

 当時、西ヨーロッパの石油の約70%はスエズ運河を経由して輸入されていました。運河の閉鎖に危機感を持ったイギリスやフランスは、イスラエルとともにエジプトに軍事行動を開始、同時にアメリカに石油備蓄の放出を求めます。これに対し、大統領選挙を間近に控えたアメリカのアイゼンハワー大統領は、国民感情を考慮してこの要求を拒否しました。

 結果として、欧米の結束力は弱まり、さらに西ヨーロッパがソ連産の石油に依存することにもつながったといいます。

 

 今回のアメリカ・イスラエルとイランの戦闘でも、トランプ大統領はNATO加盟国などが非協力的だと繰り返し不満を述べており、欧米の結束力の弱体化が懸念されています。さらに、中東からの原油の供給が停滞する中、ロシアが産油国として大きな利益を上げているとされ、その存在感を強めています。

 こうしたことを考えると、エネルギーという観点から見れば、スエズ危機から70年を経過した今も世界の構造はあまり変わっていないことがわかります。だとすると、本書の内容は、今後の世界が向かう方向を予想する助けにもなるでしょう。

 振り返れば、2026年はアメリカによるベネズエラ攻撃で幕を開けました。ねらいはベネズエラ産の石油にあるとされ、トランプ大統領はSNSに「我々から盗んだ石油や土地、その他の資産をすべて返還するまで」ベネズエラを包囲し続けると投稿しています。

 それから3カ月後、イランを攻撃したトランプ大統領はフィナンシャル・タイムズ(FT)のインタビューで「私が最も望むのはイランの石油を手に入れることだ」と述べ、ここでもやはり石油に対する執着を見せています。

 こうした意味で、2026年は「エネルギー」が世界秩序を左右する最大の要因の1つになった年といえるでしょう。

 エネルギーという視点から世界を読み解く『秩序崩壊』は、ぜひ今年読んでおきたい1冊といえます。

(編集部・西田)

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 「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。

2025年6月号掲載

秩序崩壊 21世紀という困難な時代

近年の世界の混乱を読み解くカギは“エネルギー”だ。石油や天然ガスなど、化石燃料は常に世界の政治経済を左右してきた。20世紀のアメリカの工業大国化しかり、2022年からのウクライナ・ロシア戦争しかり。歴史を繙きその影響力を明らかにしつつ、グリーンエネルギーなど、近年のエネルギー転換が及ぼす影響を考察する。

著 者:ヘレン・トンプソン 出版社:東洋経済新報社 発行日:2025年4月
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