
昨今、「新しい資本主義」が話題になっています。
令和4年6月7日、岸田内閣はその実現に向けて、「経済財政運営と改革の基本方針2022」(いわゆる骨太方針)と「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」を閣議決定しました。
内閣は同計画において、新しい資本主義を貫く基本的な思想の1つとして、「課題解決を通じて新たな市場を創る、すなわち社会的課題解決と経済成長の二兎を実現すること」を掲げました。そして、新しい資本主義の実現においても、「徹底して成長を追求していく」と明言しています。
このような成長を前提とする新しい資本主義については、賛否両論があります。成長の鈍化した日本が今後、どう変わっていくのか。その未来は、これらの基本方針や実行計画がいかに実行されるかよって左右されることでしょう。いずれにせよ、こうした取り組みは資本主義のあり方について様々な議論を引き起こしました。
資本主義は、そしてビジネスは、今後どうなっていくのか ―― 。
それを考えるうえで貴重なヒントを示してくれるのが、今回Pick Upする『ビジネスの未来 エコノミーにヒューマニティを取り戻す』(山口 周/プレジデント社)です。初版刊行後3日で3刷が決定するほど大きな反響を呼び、小誌「2021年上半期TOPPOINT大賞」(読者が選ぶベストビジネス書ランキング)でも3位に入賞しました。
本書は、次のような書き出しで始まります。
ビジネスはその歴史的使命をすでに終えているのではないか?
(中略)
答えはイエス。ビジネスはその歴史的使命を終えつつある。(『ビジネスの未来』 12ページ)
ビジネスの必要性など疑ってもみなかった自分にとって、これはのっけから衝撃的な問題提起でした。
なぜそう言えるのか? もしそれが本当ならば、ビジネスがすることはもう無いのか? 資本主義は終わったのか…。浮かび上がる様々な疑問に、著者の山口周氏は明快に答えを提示します。読み終えると、副題「エコノミーにヒューマニティを取り戻す」の意味するところが自然と理解できます。
*
上述の問題提起もそうですが、本書をおすすめしたい理由は、私たちの固定観念や思い込みを180度ひっくり返してくれる、「気づき」に満ちた書であることです。
一例を挙げると、「低成長」という言葉。この言葉がポジティブな意味で使われることは、あまりないのではないでしょうか。それを、本書はこう喝破します。
私たちが「低成長」という言葉を用いて社会を表現するとき、そこには最初から「社会には高成長と低成長の二つの状態しかない」ということが前提として織り込まれています。最初から「高成長」と「低成長」の二つの状態しかないという前提をおいて、どちらかを選べと迫れば「高成長が良い」と答えるのは当たり前のことでしょう。しかし、これは一種の誘導尋問です。その証拠に、この対比を別の言葉、たとえば「未熟と成熟」におき換えて、どちらかを選べと迫れば、誰もが「成熟が良い」と思うはずです。「成熟」はそのまま「低成長」を意味しますし、「未熟」は往々にして「高成長」と表裏一体の概念です。
(『ビジネスの未来』 15~16ページ)
低成長とはすなわち社会が成熟したということ ―― 。無限に成長を追い求める発想からは、出てこない考え方です。
本書は、全編を通してこうした「気づき」に満ちており、その射程は経済のみならず文化・思想・歴史にまで及びます。様々な観点から資本主義やビジネスのあり方について考える視座を提供してくれる良書であり、同時に読み物としても楽しい本です。
それまで当たり前のように受け入れていた前提を疑うことを教えてくれる『ビジネスの未来』。ぜひ、要約だけでなく実際に本を手に取っていただければと思います。
(編集部:西田)
* * *
「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。
他のPick Up本
-
2022.9.12
マーケティング戦略の両巨頭が語る! ビジネスの成否を左右するマーケティング「不変の法則」
-
2023.1.30
人材ファーストの組織へと自社を変革するには? 「人的資本経営」実現へのヒントを示す
-
2022.7.8
1世紀近く前に暴かれたはずの “戦時の噓”は、今なお生き続ける