わずか「47万円」の金融資産
日本の40代単身世帯の金融資産保有額は、中央値でわずか47万円――。
そんな投稿が、SNSで注目を集めました。
元となったデータは、金融広報中央委員会が行った「家計の金融行動に関する世論調査[単身世帯調査](令和5年)」の「金融資産保有額(金融資産を保有していない世帯を含む)」と考えられ、平均値が559万円、中央値が47万円となっています。
同じく、30代では平均値が594万円で中央値が100万円。40代が平均値・中央値とも下回っており、いわゆる「就職氷河期世代」の単身者が置かれた状況の厳しさを表すものとして、話題になりました。
一方、株式会社野村総合研究所の調査によると、純金融資産保有額が1億円以上の層は、2021年時点で150万世帯近くに上ります(「野村総合研究所、日本の富裕層は149万世帯、その純金融資産総額は364兆円と推計」/NRI 2023年3月1日)。
文字通り「桁違い」の差であり、日本社会がかつての「一億総中流」から大きく変容していることが窺えます。
今週Pick Upするのは、こうした近年の「格差」について解説した本、『新型格差社会』(山田昌弘 著/朝日新聞出版 刊)です。
著者の山田昌弘氏は、家族社会学の第一人者。「パラサイト・シングル」や「格差社会」といった言葉を世に浸透させたことで有名です。
親の格差の「再生産」
本書で山田氏がまず説くのは、「格差」とは、上記の金融資産のような「経済的な問題」に限られるわけではない、ということです。氏は、「はじめに」でこう書いています。
日本に広がり続けていた格差は経済面だけではありません。実際には「家族」や「仕事」や「教育」といった社会の礎を築く要素にも、格差が広がっていたのです。
(『新型格差社会』 5ページ)
例えば、教育の格差。山田氏は、新型コロナ禍の際に日本政府が出した「一斉休校の要請」への、学校ごとの対応の違いを取り上げています。
それによると、私立の中高一貫校などは早々にリモートスタディの体制を整え、休校期間中でもオンラインで授業を行いました。その一方、多くの公立小中学校は、学校側も家庭側もそうした環境を整えることが難しく、宿題のプリント配布などが主だったといいます。
その結果、子どもたちの過ごし方は、オンラインで勉強を続ける家庭もあれば、ゲームばかりという家庭もあったというように、その差異がはっきりと分かれたというのです。
問題は、こうした義務教育段階の格差が、その後の人生にまで影響を及ぼすことです。
山田氏は、こう指摘しています。
東京大学や京都大学に入学する学生の多くは、中高一貫校の卒業生だといわれます。いわば、「学歴」を決めるのが大学受験ではなく、中学受験だというわけです。小学生のときから受験のために塾通いをし、中高一貫校への入学を果たして偏差値の高い大学を出た彼らは、大手の優良企業や給与の高い外資系企業などに就職し、社会の「上層」の一員となっていくのです。
つまり、小学4年生ぐらいの時点で、毎月5万円以上の受講料がかかる中学受験専門塾に通えるかどうかで、その後の人生ルートがある程度決まってしまう。(『新型格差社会』 77~78ページ)
この現実を、山田氏は「親の所得が子ども世代に影響し、格差が再生産されている状況」だと説きます。
その結果、数十年後には社会階層の固定化がもたらされる――つまり江戸時代のように、「身分」が固定された“階級社会”に日本が向かっていく、と警鐘を鳴らすのです。
富める者はますます富み…
社会学の用語に、「マタイ効果」と呼ばれるものがあります。
『マタイによる福音書』の中の「誰でも持っている人は更に与えられて豊かになるが、持っていない人は持っているものまでも取り上げられる」という言葉に由来するもので、「持つ者と持たざる者との格差はますます拡大する」ことを表した言葉です。
『マタイによる福音書』が書かれた正確な時期は不明ながら、1世紀頃と考えられています。2000年も前の言葉が今なお通用するように、貧富の差は国や時代を超えて、常に存在し続けてきたものです。日本でも、貧富の差は今に始まったことではありません。
ただ山田氏は、日本の問題は、貧富の差が「長期化、固定化、鮮烈化」していることだと説いています。
長期化や固定化については、上述した通りです。
また共同通信によると、2023年度、1億円以上の報酬を得た上場企業の役員は1000人を超えたといいます。報酬額のトップは77億円超で、その会社の平均年間給与の944倍に上るそうです(「役員報酬1億円、初の千人超え 社員との格差最大944倍」/共同通信 2024年10月17日)。
この事例は、日本における貧富の差の鮮烈化の状況を、よく表しているのではないでしょうか。
「マタイ効果」が人間社会を動かす法則であるならば、それとどう向き合うかは、政治が背負った宿命ともいえるでしょう。
人々への介入を控え、自己責任論を徹底するのか。平等を重視し、分配を徹底するのか。あるいは、その中間でバランスを探るのか。
冒頭のように「金融資産保有額47万円」が話題となったことは、政治がこの難問にどう対応するのか、問いかけているように思います。
そしてそれを考える上で、経済・教育・仕事など、日本社会で広がる格差を多角的に解説した『新型格差社会』は、外せない1冊といえるでしょう。
(編集部・西田)
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