2026.2.24

編集部:西田

この情報の発信者は「ジャーナリスト」か? 情報の真偽を「人」から見抜く

この情報の発信者は「ジャーナリスト」か? 情報の真偽を「人」から見抜く

偽情報に惑わされないために

 先日の衆院選で、自由民主党が歴史的な大勝を納めました。

 戦後最短の選挙期間、投開票日には広い範囲で雪が降るなどといった要因にもかかわらず、投票率は前回2024年の衆院選を上回るなど、国民的な関心の高さが伺えました。

 

 一方で、そうした関心の高さに比例するように、問題になったのが「偽情報」です。特定の政党を支持したり、批判したりする架空のニュース番組や偽のインタビュー動画などがSNS上に投稿され、中には何万回、何十万回と再生されたものもあります。

 特に若年層の投票行動にSNSが及ぼす影響力が強まる今日、こうした偽動画・画像の問題は、今後の選挙でもつきまとうでしょう。

 

 そんな偽情報に惑わされないための知恵を授けてくれる本を、『TOPPOINT』では過去にたびたびご紹介してきました。例えば、『「ネット世論」の社会学 データ分析が解き明かす「偏り」の正体』(谷原つかさ 著/NHK出版 刊)では、「事実に基づいて考える」「絶えず「出典」を問う」といったことが挙げられています。

 今週は、そうした本の1つとして、『ジャーナリストの条件 時代を超える10の原則』(ビル・コバッチ、トム・ローゼンスティール 著/新潮社 刊)をご紹介します。2001年に刊行され、四半世紀にわたり読み継がれてきた世界的ロングセラーの最新版です。

「ジャーナリスト」とは

 『ジャーナリストの条件』が参考になるのは、情報を出す「人」に着目している点です。

 この本では、書名をはじめ、折に触れて「ジャーナリスト」という言葉が出てきますが、これを単に新聞や雑誌などの編集者・記者と解釈するのは適当ではありません。本書は、「ジャーナリズム」についてこう書いています。

 

ジャーナリズムの最大の目的は、市民が自由であり自治ができるよう、必要な情報を提供することである。(中略)

ニュースは私たちのコミュニティがどういうものか知るのに役立つ。現実に基づいた共通の言葉、共通の知識を形作る。そしてコミュニティの目標、すごい人、悪い者を明示する。

(『ジャーナリストの条件』 42~43ページ)

 

 このジャーナリズムを体現するのが「ジャーナリスト」だとすれば、ジャーナリストかどうかは、職業や情報媒体によって決まるわけではないことがわかります。

 では、ジャーナリストかどうか、つまり「市民が自由であり自治ができるよう、必要な情報を提供」しているかどうかは、何によって決まるのか。

 本書では、タイトル通り「10の原則」を挙げてこの疑問に答えていますが、その中から印象的なものを1つご紹介します。

 

ジャーナリストは、取材対象から独立を保たなければならない。

(『ジャーナリストの条件』258ページ)

 

 本書によれば、この「ジャーナリズムの独立」という考え方が生き残るかどうかは、「21世紀の最大の問題の1つ」です。日本ではしばしば、「オールドメディア」という言葉が新聞やテレビに対する批判の言葉として、偏向報道などとセットで使われますが、こうしたことは日本に限りません。例えば本書では、海外のあるウェブサイトのネットワークが「事実と一次情報が私たちの北極星です」と主張しつつ、一方ではSNSの広告枠を買って政党色が強いコンテンツを広めている、と指摘しています。

 

ジャーナリストの役割とは、人々への特別な種類の関わり方――物事を知らせること――に献身することであり、何かの側に立って、あるいは特定の政治的結論を目指して、運動家の役割を直接果たすのではない。(中略)

ジャーナリストは、(中略)サーチライトであり、みんなの利益に関係する物事に注意を呼び掛け、問題を記し、解決策になり得るものに注目を集め、社会的議論のテーマを形成する。

(『ジャーナリストの条件』 293ページ)

 

 ある情報を目にした時に、発信者が見る人の「サーチライト」になっているのか、それとも「運動家」として特定の見方をすすめようとしているのか考えてみる。そうした意識を持つことは、情報をフィルタリングする上で有用となるでしょう。

事実確認の規律

 とはいえ、「サーチライト」か「運動家」なのかは、実際には判断が難しいことも多いものです。そこで重要となるのは、やはり「事実確認」です。

 この点、『ジャーナリストの条件』は次のように書いています。

 

ジャーナリズムの本質は、事実確認の規律にある。

結局は事実確認の規律が、ジャーナリズムと、エンターテインメントやプロパガンダ、フィクション、芸術とを区別する。エンターテインメント――あるいはその親戚に当たる「インフォテインメント」――は、何が最も人の気を引くかに重点を置く。プロパガンダは、事実を選び、あるいはでっち上げ、真の目的、つまり信じさせ操ることに使う。(中略)

ジャーナリズムだけが、起きたことを正しく捉えるためにはどんなプロセスを経るかを重視する。ネットワークテレビの報道局の仕事であっても、市民が1人でSNSに目撃証言を投稿する仕事であっても同じだ。

(『ジャーナリストの条件』 174ページ)

 

 そして、これらをより具体化して、「起きなかったことを付け加えてはならない」「読者・視聴者を誤信させてはならない」といったことを挙げています。

 今回の衆院選では、特定の候補者の発言の切り抜きや、実際の会見のAIによる改変などが問題となりました。こうしたことは、本書の説くジャーナリストの条件には反するものでしょう。インフォテインメントやプロパガンダは、わかりやすく感情に訴え、熱狂を生み出すからこそ、本当に「事実確認の規律」を満たしているかを確認することが、偽情報に振り回されないために有用でしょう。

 『ジャーナリストの条件』の示す10の原則は、もちろん自身が情報を発信する時にも有用です。誰でも手軽に情報を拡散できる時代だからこそ、投稿ボタンを押す前に自分が「ジャーナリスト」たりえるのか問うてみることが、偽情報の拡散防止には大切でしょう。本書は、その自省の方法を示してくれる1冊です。

(編集部・西田)

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 「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。

2024年7月号掲載

ジャーナリストの条件 時代を超える10の原則

SNS上を飛び交うフェイクニュース、権力者による情報操作、等々。怪しい情報が満ちあふれる今日、報道が果たすべき役割とは ―― 。ジャーナリストが踏まえるべき原則を、本書は説く。真実の追究や取材対象からの独立など、その内容はどれも普遍的。2001年の刊行以来、世界中で読まれてきたジャーナリズム論の最新版だ。

著 者:ビル・コバッチ、トム・ローゼンスティール 出版社:新潮社 発行日:2024年4月
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