2023年のプロ野球ペナントレース。セ・リーグは阪神タイガース、パ・リーグはオリックス・バファローズが2位以下に大差をつけ、優勝しました。
攻撃面では、阪神はほぼ固定の打順、片やオリックスは日替わりの打順と対照的でしたが、両チームとも投手陣がすばらしく、それが優勝の大きな原動力となりました。また、阪神・岡田監督とオリックス・中嶋監督のマネジメント力も特筆に値します。的確な用兵と巧みな言動によって、選手は力を十二分に発揮することができました。
経営者をはじめとするマネジメント層の多くは、岡田監督や中嶋監督のように部下の能力を引き出したいと考えているでしょう。しかし、なかなか思うように部下が成長せず、頭を悩ませている人もまた、多いのではないでしょうか。
今回Pick Upするのは、そうした方に部下育成のメソッドを提供してくれる1冊、『部下の強みを引き出す 経験学習リーダーシップ』(松尾 睦 著/ダイヤモンド社 刊)です。
北海道大学教授(現在は青山学院大学教授)の松尾睦氏が、自らの調査・研究を基に、「育て上手のマネジャー」が実践している具体的な指導法を明らかにしています。
書名にある「経験学習」とは、「経験から学ぶ力」を身につけることをいいます。同じような経験を重ねている部下が何人かいたとしても、成長の度合は一様ではありません。その違いは、「経験から学ぶ力」があるかどうかによって決まります。そして、「育て上手のマネジャー」は、「経験から学ぶ力」をうまく使って部下を指導している、と著者は説きます。
では、この力はどのようにして得られるのでしょうか。
仕事に対する「ビジョン・目標・信念」を持ち(思い)、職場内外の他者と「良き関係」を築き(つながり)、それを土台にして、挑戦的な仕事に取り組み(ストレッチ)、自分の仕事のあり方を振り返りながら(リフレクション)、仕事の中にやりがいや意義を見つけるとき(エンジョイメント)、人は経験から多くのことを学ぶことができます。
(『経験学習リーダーシップ』 2ページ)
「経験から学ぶ力」は上記の文章中にあるように、5つの要素 ―― ①ストレッチ:挑戦する力、②リフレクション:振り返る力、③エンジョイメント:やりがいを感じる力、④思い、⑤つながり ―― から成り立っています。そしてこのうち、ストレッチ、リフレクション、エンジョイメントは相互に関係し合っています。
なお、経験学習、経験から学ぶ力の基本やその身につけ方については、松尾氏の前著『職場が生きる人が育つ 「経験学習」入門』(松尾 睦 著/ダイヤモンド社 刊)で詳しく解説されていますので、より深く知りたい方は、そちらもお読みください。
さて、先述したように、「育て上手のマネジャー」は、「経験から学ぶ力」をうまく使って部下を指導していました。著者の調査からは、それとともに、「普通のマネジャー」が陥りやすい「落とし穴」も見えてきたといいます。
育て上手のマネジャーと普通のマネジャーは、何が違うのでしょうか。著者は両者のアプローチを比較する形で違いを説明しています。読者にとっても、この両者の対比を見ることで、自分が普段、どのように部下を指導しているのかが明確になるのではないでしょうか。
まず、普通のマネジャーのアプローチを見てみましょう。
①弱みを克服させることに重点を置き
②問題や失敗のみを振り返らせ
③マネジャーが職場のすべてを仕切っている
こうした指導方法は、「反省」を重視した、極めて日本的・職人的な育成方法です。
(『経験学習リーダーシップ』 7ページ)
著者は、弱みや失敗など、「できないところ」にスポットをあて、修正するような指導法を「落とし穴」にはまっている、と表現しています。マネジャーが落とし穴に陥ることはよくあるように思います。部下の失敗や弱みばかりを追及し、修正させようとする…。こうした指導を受けた場合、部下は自分の弱点ばかりを気にするようになり、最終的には長所であった点まで生かせなくなってしまいます。
では、育て上手のマネジャーは、どのようなアプローチをとっているのでしょうか。
①強みを探り、成長ゴールで仕事を意味づけ
②失敗だけでなく成功も振り返らせることで、強みを引き出し
③中堅社員と連携しながら、思いを共有している
(中略)このアプローチの中核は「強みを引き出す」指導にあるといえます。
(『経験学習リーダーシップ』 8ページ)
普通のマネジャーのアプローチとは、真逆であることがわかります。育て上手のマネジャーは、「経験から学ぶ力」を上手に取り入れたアプローチをとっています。
まず、成長ゴールを設定し、それと仕事を意味づけることで、部下をポジティブにストレッチします。例えば、今取り組んでいる仕事で身につく能力は、君が将来目指している仕事をするうえで役立つよ、といったアドバイスを与えることが、それにあたるでしょう。
そして、失敗だけでなく成功も振り返らせることで、バランスのよいリフレクションを支援します。その中で部下の強みを引き出し、エンジョイメントにつなげています。
また、中堅社員と連携し思いを共有することで、メンバー間のつながりを強化し、部下が主体的に働く環境づくりを行っています。
本書のタイトルである「経験学習リーダーシップ」とは、こうした職場の環境を整えたうえで、職場メンバーの経験学習を促す指導のことを意味します。
育て上手のマネジャーのアプローチ①~③に関しては、調査結果を基にした事例とともに本書で詳しく解説されていますので、ぜひお読みください。
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『経験学習リーダーシップ』は、部下の育成に悩むマネジャーのみならず、後輩を育成する役割を担う中堅社員、そして新人の育成を任された若手社員を読者対象としてまとめられた人材育成の良書です。1人で読むことはもちろん、勉強会などで取り上げ、皆で議論しながら読み進められることをおすすめします。
1人1人が「経験から学ぶ力」を身につけることができれば、阪神タイガースの「アレ」ではありませんが、それぞれの組織が目標としている「アレ」達成に向けて、戦力を揃えることができるでしょう。
(編集部・小村)
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