
お盆の時期に
今年も、お盆の時期がやってきました。
長期休みが取れて、家族で海外旅行や国内のテーマパークに出かける、という方もいるでしょう。
一方で、実家に帰省してお墓参りをする、という方も少なくないのではないでしょうか。お供え物を用意し、迎え火を焚いて、ご先祖様に手を合わせる…。この時期は1年の中でも、祖先に思いを馳せることが多くなります。
そんな「お盆」ですが、一体、どの宗教に由来する行事でしょうか?
当然、仏教だ――。そう答える方は多いと思います。
そんな方にお勧めしたいのが、今週Pick Upする『大人のための儒教塾』(加地伸行 著/中央公論新社 刊)です。
儒教と仏教の関わり
本書はまず、いろいろな慣習を挙げて、それが「キリスト教」「インド仏教」「儒教」のどれに当てはまるか、と読者に問いかけます。
例えば、次のような慣習です。
・遺体は火葬にする。
・先祖を慰霊する。
・三回忌をする。
「全部仏教では?」と思った方もいるのではないでしょうか。ですが答えは、1つ目が「インド仏教」、残り2つはどちらも「儒教」です。
勘のいい方は、ここでからくりに気づいたかもしれません。そう、与えられた選択肢は「仏教」ではなく、「インド仏教」なのです。
仏教はインド生まれですが、時を経て1世紀頃に中国に伝播しました。そしてそこで、インド仏教とは大きく異なる「中国仏教」へと変貌を遂げます。
そして、その変貌に重要な役割を果たしたのが「儒教」でした。
お盆の由来
すでに儒教が根づいていた中国では、インド的な文化の仏教は受け入れられませんでした。そこでインド仏教は、中国人が仏教に入り込みやすいように、自分たちの経典に儒教の要素を取り込みます。
その結果生まれたものの1つが、お盆です。『大人のための儒教塾』は、こう書いています。
そこで、『盂蘭盆経』という仏典を作りました。中国製で、インドにはありません。ストーリーはこういうものです。目連という人物がいました。おシャカさんの十大弟子の一人です。ところが大変なことになりました。目連の母は生前の行ないが悪かったため、死後、餓鬼道に落ちていたのです。(中略)
目連は居ても立ってもおられません。その母を救うために、仏にすがり、供養をする、という物語です。
そこで、亡き祖先の方々に対して供養するということをしようと、人々に呼びかけたわけです。そこから、お盆という行事が始まったのです。(『大人のための儒教塾』95~96ページ)
祖先崇拝は、儒教の特徴の1つです。その祖先崇拝を「供養」という形で取り入れたことで、仏教は中国で受け入れられるようになったというのです。
こうした経緯を知ると、お盆が仏教由来の行事だというのは、間違いではないにせよ、正確でもないということがわかります。
現代に生きる儒教
中国で儒教的要素を取り入れた仏教は、その後日本に入ってきます。そのため、日本の仏教も儒教の影響を強く受けたものとなっています。
『大人のための儒教塾』は、こう書いています。
私の見るところ、日本仏教の営みの割合は、八割が儒教、一割がインド仏教、一割が道教(中国で生まれた宗教)です。
(『大人のための儒教塾』14ページ)
もちろん、儒教の影響は、仏教にとどまりません。
日本人は無宗教といわれますが、本書を読むと、冠婚葬祭から死生観まで、多くの場面に儒教の要素が顔を出すことがわかります。
長幼の序を重んじ、ルールや秩序を何より大切にして、「分(役割分担と責任)」をわきまえよと説く…。多くの方が持つ儒教のイメージは、そのようなものでしょう。そんな儒教に、ややもすると古臭い、過去のものという印象を持つ人もいるかもしれません。
本書は、そんな方にこそ読んでいただきたい本です。きっと、「これが儒教に由来する慣習、考え方だったのか」と、驚きの読書体験を得られることでしょう。
このお盆休み、ご先祖様に思いを馳せるとともに、本書を読んで、儒教についての理解も深めてみてはいかがでしょうか。
(編集部・西田)
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「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。
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