2025年7月20日に行われた参議院選挙の結果は、社会に大きな衝撃を与えました。
自民、公明両党の与党が大敗。非改選を合わせて参議院の過半数を失うことにより、衆議院・参議院ともに与党は過半数割れという事態に陥りました。
対して野党は、国民民主党が改選4議席の4倍超となる17議席を確保、参政党が13議席増となる14議席まで伸びるなど、一部の党の躍進が目立ちました。
こうしたことにより、今後、本格的な「多党制」時代が到来するかもしれません。
一般的に、多党制は多様な意見が政治に反映されやすいメリットがあります。しかし、予算などの重要な決定事項に対して各党がバラバラな意見を表明することで、決定が遅れてしまうデメリットもあります。デメリットの影響をできるだけ少なくし、多党制のメリットを生かした国会運営を期待したいところです。
こうしたことは国会に限らず、企業にもあてはまるのではないでしょうか。組織においても何かを決定する時、「話し合い」がもたれますが、うまくいかないことが多々あります。リーダーが自分の意見を押し通そうとする、参加者が人の話を聞かない…。
今回は、こうした残念な話し合いを有意義な場に変えるためのヒントを説いた、『「対話と決断」で成果を生む 話し合いの作法』(中原淳 著/PHP研究所 刊)をPick Upします。著者の中原氏は立教大学教授。20年にわたり、人材開発を研究してきた方です。
話し合いの2つのフェイズ
本書では、話し合いを「2つのフェイズ」から成立するものとしています。「①対話する」フェイズと、「②決断(議論)する」フェイズです。
①の対話とは、お互いの意見のズレや違いを表出させ、認識し合うようなコミュニケーションのこと。この対話の効果について、著者はこう述べます。
「この問題については、Aという意見とBという意見がある。この2つはこういう部分で違いがある」ことを明らかにして、いったん、メンバーの間で共有することです。結論をただちに出すのではなく、まずは相互の「違い」の理解を深めるコミュニケーションを「対話」というのです。
(『話し合いの作法』 92ページ)
各自が多忙な中で開催される社内の話し合いでは、時間を惜しむあまり各々が直観的に意見ABの良し悪しを判断し、その上で議論することも少なくないでしょう。しかし、それでは良い結論を導くことはできません。まずは意見の“違い”を認識し、メンバー間で共有する時間を設けることが大事です。
2つ目のフェイズは「②決断(議論)する」です。いくら対話を重ねても、最終的に「決めること」ができなければ、物事は前に進みません。著者は決めるために「議論」が必要であると説きます。
「議論」とは、もともと「勝ち負け・白黒をはっきりさせる」という意味を持ちます。(中略)AとB、どちらかの意見がもう一方の意見よりも「優れている(マシである)」かを理性的に比較検討(ディスカッション)し、最後に決めることです。対話の後、議論をするからこそ、決断ができるのです。
(『話し合いの作法』 93ページ)
「小田原評定」という言葉をご存じでしょうか。「時間ばかりたって、結論の出ない会議」を意味する言葉で、北条勢の小田原城が豊臣秀吉に攻められた時、城内で和戦の評定がなかなか決定しなかったことに由来します。会社の話し合いを「小田原評定」にしないためにも、「②決断(議論)する」フェイズは不可欠といえます。
対話の作法、決断の作法
『話し合いの作法』では上記のフェイズを踏まえ、対話と決断に必要な作法を解説しています。詳しくは本書をお読みいただくとして、私が読んで大事に思ったポイントをご紹介します。
まず、対話においては「ケリのついていないテーマ」が必要であることです。著者は、「皆が重要だと思っているけれども、まだ答えの出ていない問題について、それぞれの『私』の意見や考えを出し合うコミュニケーション」が対話だと言います。
ここで重要になるのが、「当事者性」です。
重要なのは、対話に参加しているすべてのメンバーが、何らかのかたちで、ケリのついていない課題に対して「自分と関係がある(当事者である)」と思えていることです。
(『話し合いの作法』 135ページ)
自分には関係のない議題だけれども、同じ部署の人たちのほとんどが参加するから、自分もとりあえず参加する。あるいは、あの人は関係ないけれど、1人だけ呼ばないのもよくなさそうだから、とりあえず呼んでおこう ―― 。そんな経験をした人もいるのではないでしょうか。実りのある話し合いは、本当に必要なメンバーの選定から始まることを本書は教えてくれます。
次に、決断においては「『いつ決めるか』を決める」点です。これは、「どれくらい対話・議論をしてから決めるか」ということなのですが、それはいつなのでしょうか。著者はテーマや状況によって変わるので一概にはいえないが、目安はあるといいます。
「いつ決めるか」のタイミングにおいて参考となるのは「意見が飽和した瞬間」です。対話を尽くして、メリット・デメリットも共有し、これ以上はそうそう他の意見が出てこない。そこまでいったら、「じゃあ、そろそろ決めましょうか」と最後の決断へと移行するのです。
(『話し合いの作法』 270ページ)
話し合いのファシリテーターは、このタイミングを見逃さないことが大事です。もし見逃すと、いつまでたっても決まらない「小田原評定」になってしまいます。だからといって急いで決めようとすると、のちのち文句が出て振り出しに戻るリスクがあります。
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『話し合いの作法』は、話し合いの技法を多くのイラストや事例とともに解説した良書です。ですが、これさえ読めば明日から話し合いがうまくいくわけではありません。著者は「話し合いは書籍だけで学ぶことはできない」と言います。学んだ知識を実践して、その成果をフィードバックしていかなければ、本当に身につけることはできません。
ビジネスパーソンの皆さまは本書を読み、ぜひ会社で実践していただきたいと思います。また、社内のメンバーと本書の読書会を開くなどして知識を共有できれば、話し合いは今よりもさらに有意義なものになるでしょう。
(編集部・小村)
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「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。
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