フェイスブックやインスタグラムなどを運営するメタが、ファクトチェックを終了する ―― 。年明け早々、そんなニュースが流れてきました。
日本経済新聞の記事によれば、メタが米国内においてこれまで行ってきた、投稿の信頼性を第三者が評価するファクトチェック機能を終了するとのこと。今後はX(旧Twitter)のように、誤情報と思われる投稿に他の利用者がコメントできる機能を搭載する予定のようです(「メタがファクトチェック廃止 トランプ氏接近へ方針転換」/日本経済新聞電子版2025年1月8日)。
トランプ新政権との関係改善をはかるためといわれる今回の施策は、X同様に誤情報や偽情報といったフェイクニュースが拡散しやすくなる可能性をはらんでいます。
近年では、SNSで拡散されたフェイクニュースを既成メディアがそのまま報道してしまう事例も見られます。1人1人が情報を吟味し、物事を冷静に客観的に判断するスキルを身につけることが、改めて求められているといえるでしょう。
今回は、そうした物事の考え方の基礎を教えてくれる本として、『クリティカル シンキング《入門篇》』(E・B・ゼックミスタ、J・E・ジョンソン 著/北大路書房 刊)をご紹介します。心理学の教授2人によって書かれた本書は、1996年の刊行後、30年近くにわたって読まれ続けているロングセラーです。
クリティカルな思考とは?
さて、本書がテーマとするクリティカルシンキング=「クリティカルな思考」とは、どのようなものでしょうか。
クリティカル(批判的)と聞くと、相手の欠点を批判したり、不備を暴いたりするようなものに思うかもしれません。ですが本書は、クリティカルにはもともとはそうした意味はない、と説きます。そして、クリティカルとは何か、またクリティカルな思考とは何かについて、次のように定義しています。
クリティカルということばは、分ける、判断するといった意味を表わすギリシャ語を語源とし、その本来の意味は「ものごとを規準に照らして判断する」ことである。ここから、クリティカルな思考とは、適切な規準や根拠に基づく、論理的で、偏りのない思考であると定義しておこう。
(『クリティカル シンキング《入門篇》』 4ページ)
このクリティカルな思考には、次の3つの主要な要素が含まれるといいます。
① 問題に対して注意深く観察し、じっくり考えようとする態度
② 論理的な探究法や推論の方法に関する知識
③ それらの方法を適用する技術
(『クリティカル シンキング《入門篇》』 5ページ)
態度・知識・技術。これらのうち、何が最も重要でしょうか?
本書は、①の思考への「態度」が重要であると述べます。いくら知識を蓄えたとしても、じっくり考えようとする態度や習慣がなければ活用できないからです。
しかし、この「じっくり考えようとする」態度を持つことが、今、私たちの間で失われつつあるのではないでしょうか。スマホを開けば次々と目に飛び込んでくる新しい情報に、多くの人が思考の時間を奪われているように思います。クリティカルな思考を身につけるためには、まずは1日のうちで「考える時間」を設けたり、考えるべき情報を取捨選択したりすることが大事でしょう。
クリティカルな思考を伸ばすには
では、クリティカルな思考を伸ばすには、どうすればいいのでしょうか。
本書は、難解で抽象的な学問を学ぶ必要はなく、「思考の原則」を学べばよいといいます。それは、次のようなものです。
思考の原則とは何か。それは思考を導き、思考に方向性を与えるためのルール、枠組、あるいは方略といってよいものである。
(『クリティカル シンキング《入門篇》』 12~13ページ)
思考の原則について、本書では「クリシン原則」(クリシンはクリティカルシンキングの略)と名付けて40の原則を紹介しています。そのうち、クリティカルな思考の基本として知っておくべき原則として、「原因帰属」のあり方に関する原則を挙げます。
原因帰属とは、「Aが生じた原因はBにある」というような、出来事の原因を特定することをいいます。実は人間は、身の回りで起こる様々な出来事を原因帰属によって解釈し、理解しようとする傾向があるのです。
この「何が原因で何が起こった」ということについて、私たちは偏った考えをしがちであり、それによって人間関係で誤解を生むことがある、と本書は言います。それはどのような場合でしょうか。例えば、自分が階段を下りている時に足を踏み外してケガをしたとします。その時、階段が滑りやすかったとか、角度が急だったなど、周囲の状況にその原因があると考えるのではないでしょうか。
では、足を踏み外したのが自分ではなく、他人ならばどうでしょう。階段が滑りやすかったのかな? などと周囲の状況に思いを巡らすよりも先に、「ドジだなあ」「他のことを考えていたのではないか」などとその個人の性質(性格や能力など)を原因と考えてしまうのではないでしょうか。こうした思考の偏りを、心理学では「基本的帰属錯誤」と呼ぶそうです。私にもそうした傾向があり、特に自分の子供に対してはその傾向が強いことを反省しています。
もし、あなたが上司の立場にある人であれば、部下が失敗した時、個人の性質ばかりを原因にしていないか、改めて考えてみてはいかがでしょうか。そこにあなた自身の思考の偏りを発見するかもしれません。
ここで大事な点は、個人の性質が原因となることはない、ということではありません。私たちに、こうした思考の偏りがあることを「自覚」することです。その自覚が何をもたらすのか、本書はこう説きます。
この原則を心得ておくことによって、われわれは知らず知らずに陥りがちな思考の偏りから逃れ、個人と状況の両面を慎重に考えることで、より正しい結論へ達する可能性が高くなるわけである。
(『クリティカル シンキング《入門篇》』 19ページ)
思考の偏りから逃れ、正しい結論に達する可能性を高める「思考の原則」の数々を紹介した『クリティカル シンキング《入門篇》』は、真偽不明の情報が多い世の中にあって、よりよく生きるためのヒントに満ちた1冊です。
新しい年を迎え、資格を取得するなど様々な「今年の目標」を掲げている方は多いでしょう。その目標の1つに、本書をじっくり読み、「良質な思考」を身につけることも入れてみてはいかがでしょうか。
なお、本書は「入門篇」とあるように、「実践篇」も刊行されています。入門篇を読まれた方は、ぜひ実践編の方もお読みください。
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ところで、『クリティカル シンキング《入門篇》』では、クリティカルな思考の必要性を説いたものとして、天文学者のカール・セーガンの言葉を引用しています。今から約40年前に書かれたものですが、その言葉は、今のフェイクニュース溢れる社会状況を見通しているようで示唆に富んでいます。
(クリティカルな思考の必要性は)われわれの死活問題に関わるといえる。なぜなら、たわごと、ペテン、無思慮、事実を装った願望などは(中略)不幸なことに、あらゆる国において、政治、社会、宗教、経済上の問題という本流の中で大波を立てている。(中略)もしわれわれがこういった(クリティカルな)思考という力強い習慣を身につけなければ、われわれが今直面している深刻な問題の解決は望めず、次々と現われ出るペテン師にまんまとひっかかってしまう赤子同然の民になってしまうだろう。
(『クリティカル シンキング《入門篇》』 7ページ)
SNSの投稿1つ1つによって、自らの価値判断が揺れ動いてしまう「赤子同然の民」にならないためにも、クリティカルな思考は身につけておきたい習慣といえるでしょう。
(編集部・小村)
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