2011年の今日、東日本大震災が起こりました。
東北に未曾有の被害をもたらした震災から13年が経過し、被災地の復興は進みましたが、いまだに福島県を中心に約3万人が避難生活を続けています(避難者の数 [令和6年3月1日]/復興庁HP)。また、福島第一原発の廃炉に向けた取り組みも、道半ばです。
こうした大きな震災が起こった時、行政だけでは手が回りません。東日本大震災の際には、震災救援物資の配布や避難所運営の支援など、発災直後から多くのボランティアが現地に赴き、被災者を支援しました。内閣府防災情報のサイトによると、約550万人がボランティアとして活動したといいます。
数あるボランティア団体の中でも、当時3000人以上を擁する日本最大の総合支援組織として大規模な支援を実現した団体があります。それが「ふんばろう東日本支援プロジェクト」(以下「ふんばろう」)です。「ふんばろう」は複数のプロジェクトが自律的に動く支援活動を行い、2014年には「ベストチーム・オブ・ザ・イヤー」などを受賞しました。
しかし、このプロジェクトを立ち上げた西條剛央氏は、それまでボランティアの経験もなく、プロジェクトを立ち上げたこともなかったそうです。
なぜ、そのような人が大きなプロジェクトを成功に導くことができたのでしょうか? そのカギとなるのは、人間科学の研究者である西條氏独自の「構造構成主義」をもとにした理論でした。
今週は、西條氏が「ふんばろう」での経験をふまえ、構造構成主義をもとにしたチーム作りのあり方を説いた『チームの力 構造構成主義による“新”組織論』(西條剛央 著/筑摩書房 刊)をPick Upします。
では、構造構成主義とはどのようなものでしょうか。
それは物事の本質からなる原理を把握する学問であり、価値の原理、方法の原理、人間の原理といった原理群からなる体系である。ここで言う“原理”とは、いつでもどこでも論理的に考える限り、例外なく洞察できる普遍洞察性を備えた理路を指す。
(『チームの力』 20ページ)
原理とは、普遍性を備えた考え方のことです。いつでもどこでも用いることのできるこの原理によって、震災という緊急事態においても、ゼロベースで実効性の高い支援活動を行えたと著者は述べています。本書では、チーム作りにおける原理の使い方について、「ふんばろう」での経験を交え、具体的に解説しています。
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例えば、「方法の原理」。
「ふんばろう」はベストチームとして高く評価されているわけですが、実はNPO団体ではなく、「チーム名簿」も存在しなかったといいます。あえてNPOにしないことで、NPOや行政、企業の人々が誰でも参加できるプロジェクトにしたのです。
このように、「ふんばろう」では従来の方法ではなく、「小さな力を集めて大きな力」にすることを戦略的指標として、新たな仕組みを考案していきました。著者によれば、その際最も機能したのが「方法の原理」だったそうです。それは次のようなものです。
構造構成主義において、方法とは「特定の状況において使われる、目的を達成するための手段」と定義される。何気ない定義にみえるかもしれないが、これは方法の本質 ―― 最も重要なポイント ―― は、「状況」と「目的」という2点にあることを示している。(中略)どんな状況、目的においても機能する「絶対に正しい方法」はないのだ。換言すれば、これまで「正しい」と思っていた方法も、状況や目的が変われば、「間違った方法」になりうる。この「方法の有効性は、(1)状況と(2)目的に応じて決まる」という“方法の原理”は、いつでもどこでも例外なく妥当する。
(『チームの力』 106~107ページ)
方法は状況と目的に応じて決まるとは、言われてみれば当然のように聞こえるかもしれません。しかし、その通りにできていない組織やチームは多いのではないでしょうか。「これが正しい方法だ」「この方法で成功してきたから、このままでいい」といった形で、状況や目的を考慮しない方法がとられてしまい、そのため仕事がうまく進んでいない、ということはないでしょうか。
「ふんばろう」では、方法の原理を共有し、それを指針に実践したことで、プロジェクトがうまく機能したそうです。例えば、2011年4月頃、宮城県南三陸町では小さな避難所に物資を届ける仕組みや人員がなかったといいます。そのことを地元の鮮魚店の方に話すと、自分のところに物資を届けてくれれば、届いていないところに届けると引き受けてくれました。そこで著者は、次のような物資を届ける「方法」を編み出します。
仙台に戻ると翌日すぐにホームページを立ち上げ、現地で聞き取ってきた必要な物資を掲載し、それをツイッターにリンクして拡散した。同時に、どこの避難所に何をどのぐらい送ったかコメントしてもらい、必要な物資がすべて送られたらそれを消すことで、必要以上の物資が届かないようにした。
(『チームの力』 108~109ページ)
企業においては、震災のように急激に状況が変化することはまれかもしれません。それでも、日々状況は変化する、という意識を持つことが大切ではないでしょうか。変化する状況に合わせて、目的を達成するにはどのような方法がよいのかを模索することが、チームとしての成功へのカギとなるでしょう。
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さて、『チームの力』で私自身が個人的に印象に残ったのは、「人間の原理」について解説した章で、“マネジメントの父”ピーター・ドラッカーの発言を引いていた箇所です。
この章で著者は、組織において「適材適所」を実現させるためには、「すべての人間は関心を充たして生きたいと欲してしまう」という人間の本質を考慮すべきであると説いています。
もちろん、お金という「外発的動機」も有効な手段になるかもしれませんが、それは人間の本質に沿ったマネジメントの上でこそ機能するのです。著者は、金銭的報酬によってモチベーションを高めるという手段が使えないボランティアを運営することで、いかに本質に沿ったマネジメントが大事かを知ったといいます。そして、ドラッカーの次の発言を引いています。
フルタイムの従業員さえ、これからはボランティアのようにマネジメントしなければならない。
(『明日を支配するもの』 23ページ)
企業においても、給料を上げるか上げないかだけではなく、その人の関心に寄り添ったマネジメントをすべきであることを、ドラッカーは説いています。この発言が掲載されている本は、ドラッカーが21世紀を前にして、これからのマネジメントを見通した本『明日を支配するもの 21世紀のマネジメント革命』(P・F・ドラッカー 著/ダイヤモンド社 刊)です。原著が出版されたのは1999年。四半世紀前に書かれたドラッカーのメッセージが、いまだ届いていない組織が少なくないように思います。
なお、『明日を支配するもの』は「TOPPOINTライブラリー」でお読みいただけます。
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『チームの力』の最後で、著者は原理をチーム作りに活用してほしいと語ります。
原理はそれさえ知れば組織が自動的に改善されるといった万能薬ではない。原理はいつでもどこでも必要なときに起動できる、「上手に考えるための視点」なのである。使えば使うほどその使い方も深化していき、その力を実感することができるだろう。
「この組織の不合理は“方法の原理”からみると、どういう風に理解できるだろうか?」「“価値の原理”からみて、この人は何に関心があって、こういうことを言っているのだろう?」(中略)こうした問いを立てながら、ぜひ、ここで学んだ“原理”を活用し、チーム作りに役立てて欲しい。
(『チームの力』 199~200ページ)
震災という厳しい条件下で、チームをどう動かし、機能させることができたのか。またその成功例を企業内でどう活用すればよいのか ―― 。こうした点について詳しく書かれた『チームの力』は、ビジネスパーソンにとって様々な問題を抱える中でのチーム作りに役立つヒントが詰まっています。
(編集部・小村)
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「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。
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