2022.11.21

編集部:小村

右派/左派の分類では捉えきれない「ポピュリズム」の歴史と今を解説

右派/左派の分類では捉えきれない「ポピュリズム」の歴史と今を解説

 10月22日、イタリアの首相にジョルジャ・メローニ氏が就任しました。氏は9月に行われた上下院の総選挙で第1党になった極右「イタリアの同胞(FDI)」の党首です。日本経済新聞は、FDIが第1党となった件について、「イタリアにポピュリズム政権 親ロシア、西側結束に影」との見出しを掲げ、報じました(2022年9月27日電子版)。

 ポピュリズム――。日頃、国際政治に関するニュースなどでよく見聞きする言葉です。先述の日経新聞の記事では、「ポピュリズム(大衆迎合主義)」と表記されていました。では、ポピュリズムとは、具体的にどんな政策を掲げる政党を指すのでしょうか。この点については、個々のニュース記事から読み取ることは難しいように思います。
 例えば、イタリアのFDIは右派のポピュリズムと言われますが、同じイタリアの「五つ星運動」などは、左派のポピュリズム政党です。ポピュリズムには、「右派」「左派」「保守」「リベラル」といったイデオロギーでは捉えきれない、別の基準が存在するのです。

 今週Pick Upするのは、こうした捉えにくい「ポピュリズム」の本質を包括的に解説した1冊、『ポピュリズムとは何か 民主主義の敵か、改革の希望か』(水島治郎/中央公論新社)です。
 著者の水島氏は、オランダ政治史やヨーロッパ政治史を専門とする研究者。19世紀末、アメリカで誕生したポピュリズムが徐々に発展し、21世紀になって世界各国で台頭するまでの流れをわかりやすく解き明かします。なお、本書が刊行された2016年は、イギリスでEU離脱を問う国民投票が実施され、アメリカの大統領選挙では“トランプ旋風”が吹き荒れた年でした。

 さて、『TOPPOINT』の要約でもご紹介していますが、本書では、「ポピュリズム」の定義を次のように述べています。

 

ポピュリズムについては、大まかに分けて、これまで二種類の定義が使われてきた。第一の定義は、固定的な支持基盤を超え、幅広く国民に直接訴える政治スタイルをポピュリズムととらえる定義である。(中略)第二の定義は、「人民」の立場から既成政治やエリートを批判する政治運動をポピュリズムととらえる定義である。

(『ポピュリズムとは何か』 6~7ページ

 

 本書では、この2つのうち第二の定義を採用する、と著者は述べます。

 

本書では、後者の定義、すなわち、「エリートと人民」の対比を軸とする、政治運動としてのポピュリズムの定義を採ることとしたい。なぜなら、現在、世界各国を揺るがせているポピュリズムの多くは、まさにエリート批判を中心とする、「下」からの運動に支えられたものだからである。

(『ポピュリズムとは何か』 8ページ)

 

 ポピュリズムとは、「下」からの運動に支えられたもの――これは非常にわかりやすい解説です。つまり、現在の政権を握る層へのカウンターとして存在するのが、ポピュリズム政党だというのです。では、ポピュリズム政党が政権に対抗する時、「保守」や「リベラル」といったイデオロギー的な条件は、どのように作用するのでしょうか。本書は、次のように指摘します。

 

ポピュリズムの特徴はまさにその反エリートの姿勢にあるのであって、具体的な政策内容で特徴づけることはできない。支配エリートの持つイデオロギーや価値観が変われば、ポピュリズムの主張もそれに対応して合わせ鏡のように変わるのである。

(『ポピュリズムとは何か』 12ページ)

 

 現政権が「リベラル」なら「保守」的な政策を唱え、逆に「保守」なら「リベラル」な政策を唱える。こうすることで、ポピュリズム政党は既成政治やエリートをよく思わない「大衆」の人気を獲得していくのです。

 今年に入り、右派ポピュリズムの勢いはさらに増しています。6月、フランスの国民連合は国民議会選挙で議席を大きく増やしました。9月にはスウェーデンで、スウェーデン民主党が第2党に浮上しました(「ポピュリズムは進化する」/日本経済新聞電子版2022年9月24日)。また、アメリカではトランプ前大統領が次の大統領選への出馬を表明しています。日本ではまだ大きな動きは見られませんが、これからポピュリズムの波がやってくる可能性もゼロではありません。

 今回ご紹介した『ポピュリズムとは何か』では、20~21世紀の世界情勢や各国の国民感情の変化など、ポピュリズム躍進の背景にあるものが具体的に示されており、私たちのポピュリズムに対する理解を深めてくれます。これからの政治・政策の行方、それがもたらすビジネスリスクなどを考える上で、大いに参考になる1冊です。

(編集部・小村)

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 「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。

2019年11月号掲載

ポピュリズムとは何か 民主主義の敵か、改革の希望か

トランプ米大統領の自国第一主義、ジョンソン英首相が進めるEU離脱…。近年、世界ではポピュリズム政党・政治家の台頭が著しい。“人気取り政治”といわれ、民主主義に害を及ぼすと見られがちな「ポピュリズム」。本書は、この政治運動・思想を理論的に位置づけた上で、成立の背景、欧州での広がりを分析、その姿を明らかにする。

著 者:水島治郎 出版社:中央公論新社(中公新書) 発行日:2016年12月

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