2023年も残り1週間となりました。今年5月に新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけが「2類相当」から「5類」に移行されたこともあり、この冬は久しぶりに忘年会や新年会に参加する予定の方も多いでしょう。
忘年会や新年会の開催にあたり、ビジネスリーダーが悩むのは、乾杯の挨拶・スピーチではないでしょうか。この機会に、1年の締めくくりとして(あるいは年初めの挨拶で)、自分の思いを部下にしっかり伝えたいとお考えの方もいるかと思います。
そこで今回は、人の心を惹きつける「つかみ」ネタの数々を紹介した『プロ講師が使っている 朝礼・スピーチの「つかみ」話材』(安宅 仁 著/日本実業出版社 刊)をPick Upします。
著者は、これまで5000件超の講演・研修の企画をしてきたプランナーである安宅仁氏。安宅氏によれば、講演や研修では本題以上に、それをわかりやすく説明するための「比喩」が印象に残るといいます。特に、自然の営みとリンクさせた話は不思議と“腑に落ちる”のだそうです。
そのため本書では、動物や植物などの説を絡めた「つかみ」話を多数紹介しています。例えば、ムササビの特性を交えて語った、次の話。
ムササビは、羽がないのに飛ぶことができる。木の枝から一気に飛び降り、飛膜と呼ばれる膜を広げて飛んでいく。(中略)ムササビはなぜ飛べると思ったのだろう。
初めて飛び降りるときには相当の勇気が必要だったはずだ。一気に急降下した一瞬は失敗と感じたかもしれない。しかし、ムササビは飛べることを信じて疑わなかったのだろう。“はじめの一歩”がなければ、ムササビは飛ぶことのできない無駄な膜がついた動物であったかもしれない。いや、もしかしたら絶滅していたかもしれない。
われわれが何かに挑戦するときも同じであろう。最初はムササビのように急降下していくのかもしれないが、挑戦するときは自分を強く信じることが大切である。
(『朝礼・スピーチの「つかみ」話材』 16~17ページ)
「新しいことに挑戦しよう!」「はじめの一歩が大事だ!」とだけ語るよりも、説得力があるように感じないでしょうか? 来年、新規事業に取り組む予定がある場合などは、上記のムササビの話を参考に、後半部分を自分の言葉に変えてスピーチを行うと、聞き手の納得感も高まるかもしれません。
また、個々の強みを活かすことや、事業の「選択と集中」の重要性などについて話す時には、次のスズムシの話が参考になります。
スズムシは成虫になりたてのときは翅が4枚あるが、途中で自ら2枚の翅を捨ててしまう。鈴のようなきれいな声で鳴くためには、後ろの翅が邪魔になるのである。
われわれは、それぞれ複数の持ち味を持っている。(中略)しかし、成功するためには複数の持ち味の中で優先順位をつけて強みを活かしていくことが必要である。(『朝礼・スピーチの「つかみ」話材』 44ページ)
新たな挑戦を行い、あるべき姿に向かうために、何かを捨てる ―― 。このメッセージが、スズムシを例に出すことによって、より聞く人の心を惹きつけるものになっていると感じます。このように、イメージが思い浮かぶ自然界の情報と、自分の伝えたい話とをうまくリンクさせると、その内容が相手の心により強く伝わるようになるのです。
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『朝礼・スピーチの「つかみ」話材』で取り上げられている話に限らず、動物のたとえを用いた好例は様々なところで聞かれます。例えば、本田宗一郎氏の自著『ざっくばらん』(PHP研究所 刊)。本田氏は、農村の青年団主催の講演会で、「牛の角はどこについているか」と問いかけたところ、普段牛と接しているはずの彼らが正しい位置を答えられなかったといいます。そして、その話を例に氏は、創意工夫には見学ではなく観察、すなわち「観る」目が重要だと説いています(詳しくは、『ざっくばらん』の要約をご覧ください)。
また動物に限らず、スポーツや歴史を例に、うまい挨拶・スピーチをする方は多数おられます。人前での挨拶が苦手という方は、自分の伝えたいメッセージと共通する事象はないか、たとえるならどう表現できるかと考えて、自分なりの「つかみ」ネタを用意しておくと、発表の場でも緊張せずに話ができるかもしれません。
ただ、ネタ作りの際に留意すべきは、話を詰め込みすぎたりウケを気にしすぎたりするのではなく、極力「シンプル」にすることです。著者は「おわりに」で次のように述べています。
「つかみ」はシンプルでないといけないのです。つかみネタを複雑にしすぎて、結局何がいいたいのかわからないのでは本末転倒になってしまいます。(中略)
多少強引でもメッセージ性があれば「つかみ」としてはOKです。そもそも「つかみ」は右脳で感じるものです。独自の考え方や行動の指針などを、イメージしてもらうために使うものです。(『朝礼・スピーチの「つかみ」話材』 172~173ページ)
「つかみ」のうまさが伝わると、その場が盛り上がるだけでなく、今後のコミュニケーションも円滑なものになっていくことでしょう。もしかすると、次回の参加希望者が増えたり、別の飲み会から声がかかったりするかもしれません。すでに「つかみ」ネタをお持ちの人もそうでない人も、一度目を通していただきたい良書です。
(編集部・油屋)
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「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。
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