知事の「パワハラ疑惑」
某県知事の「パワハラ疑惑」が、世の中を騒がせています。
曰く、県職員を叱責する際に、机を叩いたり、ふせんを投げたりした。予約が必要な夕食を当日に求めて断られ、「俺は知事だぞ」と激怒した…。
にわかには信じ難い事例が多数報じられ、県議会では辞職を求める動きも出ています。
こうした「怒りぶり」を見聞きして、日々職場で部下を指導する立場にある皆様はどう思われるでしょうか。「とんでもない奴だ」と思う方もいるでしょうが、「自分も程度の差こそあれ、カッとなってしまうことがあるかも…」と思う方もいるのではないでしょうか。
今週Pick Upするのは、そんな「怒り」のコントロールに不安がある方にお勧めしたい本、『アンガーマネジメント』(戸田久実 著/日経BP・日本経済新聞出版本部 刊)です。
怒りは“自分が生み出した”感情
本書の著者、戸田久美氏は、怒りとうまく付き合うための心理トレーニングである「アンガーマネジメント」に長年携わってきた方。年間100回以上、管理職向けのセミナーを実施されています。
そんな氏は、よく次のような相談を受けるそうです。
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- 「あの人のせいでイライラする」
- 「部下がミスばかりするから腹が立つ」
これは、誰しも思いあたる悩みではないでしょうか。部下が段取り通りに進めてくれないせいで今後の見通しを修正せざるを得なくなった、任せた資料の数字にミスがあったせいで大事なプレゼンが台無しになった、など、物事が自分の思い通りに進まない時、怒りを抑えるのは難しいものです。
ですが戸田氏は、こうした悩みに対し、「怒りは、誰かのせい、何かのせい、出来事のせいで生まれる感情ではありません」と説きます。
アンガーマネジメントでは「怒りは自分が生み出した感情だ」と考えます。自分以外の要因のせいにしたままでは、アンガーマネジメントはできません。
というのも、何かのせい、誰かのせいにした状態でいると、「わたしの感情は誰かにコントロールされます」(中略)そう宣言しているのと同じだからです。自分が生み出した感情だからこそ、うまく扱うこともでき、感情もコントロールできるのです。(『アンガーマネジメント』 46~47ページ)
怒りを「自分が生み出した感情」と捉えるということは、自分の感情に責任を持つ、とも言い換えられるのではないでしょうか。
イラっとして怒鳴ってしまったり、物に当たってしまったりする。これらの行動は、「自分を怒らせている相手」を攻撃することで、怒りを発散し、自分の思い通りに物事を進めようとするものです。
そうではなく、自分を怒らせているのは、目の前の人や物ではなく、自分自身。自分の怒りの責任を相手に転嫁することなく、自分の中で受けとめてみる――。このことができない限り、いかに個別の事案を反省したところで、また同じようなことが繰り返されるのではないでしょうか。
イヤなことがあった時には、一呼吸おいて、「自分を怒らせているのは、自分自身だ」とつぶやいてみる。そのわずかな時間をとることが、取り返しのつかない失敗を避ける助けになってくれるかもしれません。
怒りに対処するためのテクニック
とはいえ、頭ではわかっていても、実際に怒りの感情が湧きあがると、うまく対処するのは難しいもの。
本書は、そうした場面で役立つテクニックを多数紹介しています。
例えば、怒りを感じたらその怒りが0~10のうち何点だったか数値化するという「スケールテクニック」や、100から数字を3ずつ引いて頭の中で計算する(97→94→91…)という「カウントバック」などです。
怒りを感じた時に、「これは○点かな?」などと考えていると、その間は怒りに任せた行動はできません。頭の中で引き算に意識が向いている間も同様です。
これらのテクニックを頭の引き出しに入れておけば、怒りに駆られた時、衝動的な行動に走るのを抑えるブレーキになってくれるかもしれません。
さらに本書は、こうした即効性のあるテクニックに加え、日々の生活の中で心がけることで、自身の「体質」を少しずつ怒りにくいものに変えていくテクニックも多数紹介しています。
短期と長期、両方の目線でアンガーマネジメントに取り組んでみることで、自身の怒りとよりうまく付き合っていくことができるでしょう。
怒りはなぜ生じるのか
ところで、怒りはなぜ生じるのでしょうか。
『アンガーマネジメント』では、怒りは自分の「べき」が侵されることによって生じると説いています。
「べき」とは、「自分にとって譲れない価値観、信条」のこと。これを本書は、「コアビリーフ」という言葉で表現しています。例えば、「こういう時はこうするべきだ」という考え方が、コアビリーフです。
部下に任せた資料の数字に誤りがあったせいでプレゼンが台無しになり、怒り心頭に発した上司の例で考えてみましょう。この上司からは、部下であれば当然間違いのない資料を作る「べき」という価値観が読み取れます。
こうしたコアビリーフは、自身の仕事をより良いものにしていく上で欠かせないものです。ただ、注意すべきは、自分の「べき」を絶対視して他人の「べき」を否定することは、誰にもできないということ。
本書は、次のように書いています。
人それぞれ、さまざまなコアビリーフを持っているので、どの人のコアビリーフが正解・不正解ということはありません。もし、自分の「こうあるべき」という思いが叶わなかったとき、「普通」「当然」「常識」「当たり前」「正しい」といった言葉を使っていたら要注意です。たとえば、「普通こういうふうにするよね」「当然こうするべきだよね」(中略)など、こういった言葉を言いながら、感情的な発言をしてしまうことがあるなと感じたら黄色信号だと思ってください。
(『アンガーマネジメント』 72~73ページ)
怒りを感じた時、努めて冷静に話をしようとして「普通は~だよね」という言い方をしてしまうのは、ありがちな光景です。ですが、上司・部下という対等でない関係の中でそう言われてしまうと、部下は何も言えなくなってしまいます。
自分は「べき」を相手に押しつけていないだろうか…。職場での人間関係を円滑なものにするため、このことについても常に自問したいところです。
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アンガーマネジメントと聞くと、できるだけ怒りを「抑える」ことをイメージする方もいるかもしれません。ですが、それは必ずしも正しくありません。
戸田氏は、アンガーマネジメントについて、次のように書いています。
アンガーマネジメントは、怒る必要があることと、怒る必要がないことを見極め、線引きができるようになりましょうというものです。そして怒る必要のあることに対しては、適切な怒り方ができるようにしていきます。
(『アンガーマネジメント』 129~130ページ)
戸田氏は本書でアンガーマネジメントを「怒りとうまく付き合う」ためのトレーニングと位置づけていますが、その背後にはこうした思想があるのでしょう。
つい怒ってしまう人、逆に嫌われるのを恐れて怒れない人。『アンガーマネジメント』は、そうした「怒り」に関する悩みを抱えるすべての人に一読をお勧めしたい1冊です。
(編集部・西田)
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「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。
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