
本日8月15日は終戦記念日です。第2次世界大戦の終結から77年がたった今なお、ロシアによるウクライナ侵攻など、世界では戦争・紛争の火は消えていません。1日も早く平和が訪れることを願うばかりです。
先週、編集部・西田が「今週のPick Up本」で紹介した『敗戦真相記』(永野 護/バジリコ)は、第2次世界大戦がなぜ起こったのか、なぜ日本が破れたのか、その“真相”を明かす名著でした。
今回は視点を変えて、英米をはじめとした連合国が第2次世界大戦で勝利した要因にスポットを当てたいと思います。紹介する本は、『史上最大の決断 「ノルマンディー上陸作戦」を成功に導いた賢慮のリーダーシップ』(野中郁次郎、荻野進介/ダイヤモンド社)です。
なお、著者の野中郁次郎氏は、第2次世界大戦における日本軍の敗因を分析した名著『失敗の本質―日本軍の組織論的研究』(戸部良一、寺本義也、鎌田伸一、杉之尾孝生、村井友秀、野中郁次郎/中央公論新社)の執筆者の1人でもあります。
副題にある「ノルマンディー上陸作戦」(別名オーバーロード作戦)とは、1944年6月6日に連合軍がドイツ支配下のフランス・ノルマンディー海岸に反攻上陸した、史上最大の上陸作戦です。連合軍はD・アイゼンハワー元帥の指揮下に、艦艇約4000隻、重爆撃機2500機、戦闘爆撃機7000機、上陸部隊17万5000人を投入しました。
ノルマンディー上陸作戦は成功し、連合国側が勝利を収めます。その要因の1つとして、本書では「実践知」に長けたリーダーの存在を挙げています。実践知とは、次のようなものです。
社会が奉じる「善いこと(共通善)」の実現に向かって、物事の複雑な関係性に目を配りながら、適時かつ絶妙な「判断」を行う力
(『史上最大の決断』 17ページ)
では、実践知に長けたリーダーが備えていたのは、具体的にどのような力なのか。著者らは、重要なのは次の6つの能力だと指摘します。
(1)「善い」目的をつくる能力
(2)ありのままの現実を直観する能力
(3)場をタイムリーにつくる能力
(4)直観の本質を物語る能力
(5)物語りを実現する能力(政治力)
(6)実践知を組織する能力(『史上最大の決断』 18ページ)
こうした能力を持った“実践知リーダー”の代表格として、本書は英国のウィンストン・チャーチル元首相を挙げています。例えば、チャーチルの「(1)「善い」目的をつくる能力」について、次のように解説しています。
チャーチルは第1に、善悪の判断が非常に明快だった。
第1次世界大戦で戦争に倦んだ英国民を前に、チャーチルの前任の首相だったネヴィル・チェンバレンや外相のハリファックス卿は、一貫して対ナチス宥和政策を採っていた。(中略)これに対して、チャーチルは「われわれは文明と自由を守らなければならない」と唱え、ただ一人、本気でヒトラーに対峙したのである。
チャーチルには、英国民がキリスト教文明と自由主義の守護者であるという認識と、人類が長い歴史の中で築き上げた民主主義という共通善を守るという意思があった。彼の演説にはその覚悟と気概が溢れている。彼がつくったその「善い」目的に感動し、全英国民が一丸となったのである。(『史上最大の決断』 18~19ページ)
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ノルマンディー上陸作戦をはじめ、ビジネスや日常生活で役立つ歴史上の成功・失敗事例は少なくありません。私たちは歴史から様々な教訓を得ることができます。
本書では、歴史から教訓を引き出す方法として、「歴史に“IF(もしこうだったら…)”をあえて持ち込む」ことを勧めています。よく、「歴史にIFはない」といわれますが、「もし〇〇という時に、××をしていたらこうなっていただろう」と、史実に基づくシミュレーションを行うことによって、洞察力が高められ、当時の人々が下した決断のプロセスもより深く理解することができるようになるそうです。
もし、第1次大戦後の日本の国策が違うものだったら、もし国際連盟を脱退していなかったら、もし真珠湾攻撃を実行していなかったら…。当時の情勢や敗戦の原因を冷静に分析し、万が一、似たような情勢になった時に日本はどういう行動をとるべきか検討する。実践知を高め、平和であるために何ができるのか考えておくことが、今を生きる私たちにできることの1つではないかと思うのです。
(編集部・油屋)
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「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。
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