2024年1月号掲載
宗教の起源 私たちにはなぜ〈神〉が必要だったのか
Original Title :HOW RELIGION EVOLVED (2022年刊)
著者紹介
概要
宗教には、大きな力がある。救いになる時もあれば、国と国との争いに至ることも。古くより今日まで、人の心から決して離れない宗教。これは、いつ生まれ、どのように進化したのか? なぜ、人は信仰するのか? 人類学や心理学、神経科学など、様々な視点から「宗教」を考察する。著者は、世界的に知られる進化心理学者。
要約
アニミズム時代と教義時代
どんな社会にも、何らかの宗教が存在する。これは普遍的な真実である。
そしてすべての宗教の土台となっているのが、感情を揺さぶられる感覚、トランス状態(常軌を逸した心理状態)の時に覚える至高の感覚である。信仰の道に入るきっかけとなるのは感情面の体験であり、知性に訴える理論ではない。
事実、宗教の歴史をひもとけば、その始まりはすべて、宇宙の真理を見つけたと主張するカリスマ指導者と、それを取り巻く小さなカルトであることがわかる。そしてそのすべてに、トランス状態をつくりだす儀式や慣習があり、信者に驚嘆を与え、強烈な忠誠心を生み出していた。
また、世界的な規模の宗教は、その歴史を通じて内部の信者集団が形成するカルトの存在に悩まされてきており、それは今日まで続いている。
非常に成功したカルトは時に、その母体となる宗教から離脱して新たな宗教を生み出す。キリスト教はユダヤ教のごく小さなカルトから始まっているし、イスラム教も、キリスト教とユダヤ教、それに現在のサウジアラビアで信仰されていたアラブの伝統宗教が融合して誕生している。
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宗教の歴史は、初期のアニミズム時代とその後の教義時代に分かれるというのが定説である。
原始宗教
「アニミズム」は「原始宗教」を指す。この言葉は、18~19世紀にヨーロッパ人探検家が遭遇した部族の多くが、人間以外の生物はもちろん、泉や川、山や森にも霊(ラテン語でanima)が宿っていると信じていたことに由来する。
アニミズム的信念は今も身近で、例えば「ウィッシング・ウェル(願いの井戸)」がそうだ。泉や井戸を神聖視する北欧の伝統は、遠くケルト人やゲルマン人の時代にまでさかのぼる。硬貨を泉に投げて願をかける慣習は今も盛んに行われる。
迷信を信じる傾向は様々な場面で見ることができる。霊やそれに類する何かが存在し、人を病気にしたり、逆に病気を治したりするというものだ。そうした信仰は魔力と結びつくことも多い。
教義宗教
こうした宗教も、徐々に形式的な宗教へと移行していった。信仰の場が常設になり、神を拝むようになる。祭司が登場し、神学が体系化され、神から道徳律が与えられた。モーセは十戒が刻まれた石板を神から授かり、預言者ムハンマドは神からクルアーン(コーラン)を聞きとった。