沈黙の春

Original Title :SILENT SPRING

科学・技術・環境社会・政治文化・思想・歴史
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著者紹介

概要

自然を破壊し、人体を蝕む化学薬品。本書は、その危険性に対する認識がまだ十分でなかった1962年に刊行され、化学薬品乱用の恐ろしさを世に訴えた。水や土壌の汚染、害虫の大発生、そして化学物質による発癌…。地球環境問題が深刻化している今、改めて著者の警告に耳を傾けたい。半世紀を超えて読み継がれる名著である。

要約

自然は、沈黙した

 自然は、沈黙した。うす気味悪い。鳥たちは、どこへ行ってしまったのか。みんな不思議に思い、不吉な予感におびえた。

 裏庭の餌箱は、からっぽだった。ああ鳥がいた、と思っても、死にかけていた。ぶるぶるからだをふるわせ、飛ぶこともできなかった。

 春がきたが、沈黙の春だった。いつもだったら、コマツグミ、ネコマネドリ、ハト、カケス、ミソサザイの鳴き声で春の夜は明ける。そのほかいろんな鳥の鳴き声がひびきわたる。だが、いまはもの音一つしない。野原、森、沼地 ―― みな黙りこくっている。

 本当にこのとおりの町があるわけではない。だが、多かれ少なかれこれに似たことは、アメリカでも他の国でも起こっている。このような不幸を少しも知らない町や村は、現実にはほとんどない。

中毒と死の連鎖

 地上に生命が誕生して以来、生命と環境という2つのものが、互いに力を及ぼしあいながら、生命の歴史を織りなしてきた。だが、20世紀というわずかの間に、人間という一族が恐るべき力を手に入れて、自然を変えようとしている。

 ただ自然の秩序をかき乱すのではない。今までにない新しい力で、自然を破壊していく。例えば、自然の汚染。空気、大地、河川、海洋、すべて死そのものにつながる毒によごれている。

 汚染といえば放射能を考えるが、化学薬品もそれに劣らぬ禍いをもたらす。畑、森林、庭園にまきちらされた化学薬品は、放射能と同じようにいつまでも消え去らず、やがて生物の体内に入って、中毒と死の連鎖をひき起こしていく。

自分のことしか考えないで、先を急ぐ人間

 今、この地上に息吹いている生命がつくり出されるまで、何億年という長い時がすぎ去っている。そして、時をかけて ―― それも何千年という時をかけて、生命は環境に適合し、そこに生命と環境の均衡(バランス)ができてきた。時こそ、欠くことのできない構成要素なのだ。

 それなのに、現代からは、時そのものが消え失せてしまった。それは、自分のことしか考えないで、がむしゃらに先を急ぐ人間のせいだ。

 今や人間は実験室の中で数々の合成物をつくり出す。自然とは縁もゆかりもない、人工的な合成物に、生命は適合しなければならない。

 時間をかければ、また適合できるようになるかもしれない。だが、時の流れは、人の力で左右できない、自然の歩みそのものなのだ。1人の人間の生涯の間にかたがつくものではなく、何世代もかかる。何か奇跡が起こってうまくいっても、新しい化学物質が後を絶つことなく実験室から流れ出てくるとすれば、すべてはむなしい。

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