2024.4.22

編集部:小村

維新の志士も愛読 変革期を生きた儒学者が綴る珠玉のことば

維新の志士も愛読 変革期を生きた儒学者が綴る珠玉のことば

 今週の土曜日から、ゴールデンウィークが始まります。最長10連休となる今年、皆さまはどう過ごす予定でしょうか。

 旅行に出かける方もいるでしょうし、自宅でゆっくりとくつろぐ方もいるでしょう。自宅でくつろぐ方にとって、お供となるのが「本」。長期休暇は読書にとって最適です。

 

 では、どんな本を読めばいいのか? リスキリングが大事といわれる今日、自らのスキルアップのために資格の本やビジネス書を読むのもいいかもしれません。

 しかし私はあえて、古典を読むことをおすすめします。資格の本やビジネス書といった日常と地続きのものから離れ、古典に接することでその時代へと「心の旅」をしてみる ―― 。そうすることで気持ちに変化が起こり、いつもとは違う視点を得られるのではないでしょうか。

 

 そこで今週は、『TOPPOINT』でこれまでご紹介した古典の中から、長期休暇にふさわしい大部の書、『言志四録 全四巻』(佐藤一斎 著/講談社 刊)をPick Upします。

 

 佐藤一斎(1772-1859)は江戸時代後期を代表する儒学者です。34歳で官学の名家であった林家の塾長となり、70歳で江戸幕府の学問所である昌平黌(しょうへいこう)の儒官(大学長)となりました。

 書名の「言志四録」は一斎が著した語録の総称で、『言志録』『言志後録』『言志晩録』『言志耋(てつ)録』の4篇から成ります。「TOPPOINTライブラリー」に収録している講談社学術文庫版は1篇を1巻にあてて全4巻としており、原文の他、訳注者の川上正光氏による読み下し文や現代語訳、語義などが収められています。そのため、普段古典になじみのない方でも、気軽に一斎の思想に親しめるようになっています。

 

 川上氏による「「言志四録」総説」によれば、佐藤一斎には多くの門人がおり、その数は数千人。有名な門人には佐久間象山や横井小楠などがいました。このうち、佐久間象山の門下からは勝海舟や坂本竜馬、吉田松陰などの志士が輩出、さらに吉田松陰の門下からは高杉晋作や木戸孝允、伊藤博文などが輩出しました。また、『言志四録』は西郷隆盛はじめ、多くの維新の志士たちに愛読されたといいます。

 『言志四録』には、計1133条の思索が収められています。その内容は倫理道徳や学問修養、政治法律、処世の教訓など多岐にわたり、江戸時代の儒学哲学の貴重な遺産であるといわれています。

 時代的な制約があるとはいえ、本書には今の私たちにも参考となる言葉が数多くあります。例えば、『言志耋録』の114条には仕事についての教訓がこう記されています。

 

世間の諸事を処理するには、手をつける前に、まずその事の終局の処を予め考えてその後に手を下すべきである。舵のない船にのってはいけない。的のない矢ははなしてはいけない。

(『言志四録(四)』 114ページ訳文)

 

 「舵のない船にのってはいけない。的のない矢ははなしてはいけない」という言葉は、私の好きな言葉の1つです。こうした優れた比喩は、仕事をしている時に頭に浮かびやすく、作業を進める上で無駄なことを防ぐ役目を果たしてくれます。

 次の115条にも、仕事に関する教訓があります。

 

ゆっくりしていい事は、早くやってしまうがよい。そうでないと、滞って遅れることになるぞ。急ぎの事はゆっくりやるがよい。そうでないと、あわてて失敗することがあるぞ。

(『言志四録(四)』 115ページ訳文)

 

 「急ぎの事はゆっくりやるがよい。そうでないと、あわてて失敗することがあるぞ」も身に染みる言葉です。あわててメールを送信した後で「しまった…」と後悔した経験のある人は少なくないでしょう。余談ですが、昔バイト先の先輩に「あせらんでいいから急げよ」と言われたことがあり、その時はどうすればよいかわからなかったのですが、この条を読んで、ゆっくりやればよかったのだな、と思いました。

 

 また、本書には人の上に立つ者として、身につけておきたい心得も数多く収められています。例えば、『言志録』79条で一斎はこう記しています。

 

上に立つ者は、次のようにありたい。さとく明らかに物事を洞察し、しかも、おもおもしく穏やかであり、その態度は威厳があって、しかも、へり下って、わだかまりがない。

(『言志四録(一)』 104ページ訳文)

 

 部下にとって、このような上司は理想的ですが、上司の立場からしてみれば、なかなかハードルが高い要望です。しかし、部下を率いる方であれば、この言葉を日々思い返すことで、自らの態度を改めることにチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

 また、人の上に立つ者として気をつけねばならないと思える点について、『言志耋録』74条には次のような言葉があります。

 

寒さ暑さの季節と天候が、少しでも暦と違うと、人々は気候の不順を訴えて不平をいう。

しかし、自分の言葉と行動については、常に喰い違いがあっても、自ら反省しとがめることを知らない。何んと、甚だしく考えのないことだろう。

(『言志四録(四)』 80~81ページ訳文)

 

 「まだ4月なのにこんなに暑いのか、やってられん」。暦と天候が異なると、こんな風につぶやいてしまうことはないでしょうか。もし、上司の立場の方がこうつぶやいたのなら、部下に「いつでもいいと言っていたのに、今日中に提出しろというのか。やってられん」と言われるようなことはしていないか、自ら振り返ってみる必要があります。

 ところで、『言志四録』に記された言葉としては、おそらく『言志晩録』60条の言葉が最も有名かと思われます。

 

少にして学べば、則ち壮にして為すこと有り。

壮にして学べば、則ち老いて衰えず。

老いて学べば、則ち死して朽ちず。

(少年の時学んでおけば、壮年になってそれが役に立ち、何事か為すことができる。壮年の時学んでおけば、老年になっても気力の衰えることがない。老年になっても学んでいれば、見識も高くなり、より多く社会に貢献できるから死んでもその名の朽ちることはない。)

(『言志四録(三)』 80ページ 引用は読み下し文。カッコ内は訳文)

 

 何歳になっても学び続けることの大切さを説いたこの言葉は、2001年の春、衆議院本会議において当時の小泉純一郎首相が引用したことで注目を集めました。本条は『言志四録 全四巻』の要約ではご紹介していませんが、「TOPPOINTライブラリー」に収録している、『新装版 左遷の哲学 「嵐の中でも時間はたつ」』(伊藤肇 著/産業能率大学出版部 刊)、『知的余生の方法』(渡部昇一 著/新潮社 刊)、『最強の人生指南書 佐藤一斎「言志四録」を読む』(齋藤孝 著/祥伝社 刊)で言及されていますので、興味がおありの方はそちらをお読みいただければ幸いです。

 先述のように、『言志四録』は維新の志士に愛読されていました。特に西郷隆盛は、本書の中から自分の心にかなう101条を抜き書きし、座右に置いていたといいます(『手抄言志録』)。

 本書を読まれたビジネスパーソンの皆さまも、自らの心に響いた言葉がありましたら、ぜひ抜き書きし、独自の「手抄言志録」を編まれてみてはいかがでしょうか。きっと、人生においてよき財産となるでしょう。

 佐藤一斎の父は、美濃国岩村藩の家老でした。その岩村藩があった地域は、いま岐阜県恵那市岩村町になっています。人口5000人ほどの小さな町ですが、この町にある商店街が2018年のNHK連続テレビ小説「半分、青い。」のロケ地となっており、ご記憶の方も多いでしょう。

 この岩村町では、家々の軒下に佐藤一斎が残した名言を書いた木板が200枚も掲げられているといいます。また名言の碑文も16カ所に建てられています(「佐藤一斎 碑文めぐり」/いわむら一斎塾HP)。佐藤一斎に興味をお持ちの方は、このゴールデンウィークに岩村町へ足を運んでみてはいかがでしょうか。

(編集部・小村)

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 「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。

 

2021年12月号掲載

言志四録 全四巻

幕末の儒学者・佐藤一斎が、倫理道徳や学問修養、処世の教訓などを説いた『言志四録』。幕末から明治にかけて多くの人々に影響を与え、かの西郷隆盛も座右の書としていたという。数々の金言が収められたこの語録を、本書は簡潔な訳文で紹介。時代を経た今もなお、修養の糧として、処世の心得として、貴重な指導書である。

著 者:佐藤一斎、川上正光(全訳注) 出版社:講談社(講談社学術文庫) 発行日:1978年8月
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