2024.4.1

編集部:小村

新規顧客の獲得が難しい時代 売上アップの秘訣は 「ファンベース」

新規顧客の獲得が難しい時代 売上アップの秘訣は 「ファンベース」

 今日はエープリル・フール。4月1日を「嘘をついてもよい日」として楽しむこの習慣は、西洋を発祥とし、日本には大正時代に定着したといいます。

 

 これまでに新聞やテレビなどのメディアでも、様々なジョークが披露されてきました。

 有名なものとしては、英国放送協会(BBC)が1957年にニュース番組で放映した「スパゲッティが大豊作」があります。

 これはスイス南部の州で、農家が「スパゲッティの木」からスパゲッティを収穫する様子を報道したものです(「スイスでスパゲッティが大豊作?! 偽映像、誕生の裏側」/swissinfo.ch)。木の枝から垂れ下がった多くのスパゲッティを女性が収穫する様子は、今でもYouTubeで見ることができます。

 

 現在ではSNSを舞台として、各企業がジョークを競いあっています。その中には、「バズった」投稿も数々あります。

 例えば去年のエープリル・フールでは、江崎グリコが「ンチップンリプ」という、プリンとカラメルの比率が逆になったプリンの写真を投稿。17.7万いいねを獲得しました。また、パインアメで有名なパイン株式会社は、「環境に配慮した」パインアメでできたストローの写真を投稿し、11.5万いいねを獲得しています(「【バズった“エイプリルフールネタ”まとめ】1番いいねが多かったのは?」/イエモネ)。

 さて、企業にとってこうした投稿で話題になることは、新規顧客獲得のために望ましいことでしょう。しかし、その注目が一過性のもので終わってしまい、その後の売上につながらないことも多いといいます。

 単発的な施策やキャンペーンなどから、中長期的な売上へとつなぐにはどうすればいいのでしょうか。

 今週Pick Upする『ファンベース 支持され、愛され、長く売れ続けるために』(佐藤尚之 著/筑摩書房 刊)は、そのための戦略を「ファン=支持者」をキーワードとして解説したマーケティングの良書です。

 

 本書は売上が伸び悩んでいる企業に向けて、「ファンベース」の導入・強化を勧めます。コミュニケーション・ディレクターとして活躍する著者によれば、ファンベースとは次のような考え方のことです。

 

ファンベースとは、ファンを大切にし、ファンをベースにして(ベースには、土台、支持母体などの意味がある)、中長期的に売上や価値を上げていく考え方だ。

(『ファンベース』 7ページ)

 

 なぜ、ファンベースの考え方が重要なのか? 本書はその理由の1つとして、売上の大半を支え、伸ばしてくれるのが「ファン」であることを、データをもとに示しています。

 例えば、とある有名飲料メーカーのブランドを取り上げ、売上の5割近くが「コアファン」(企業やブランド、商品が大切にしている価値を強く支持する人)によってもたらされており、コアファンの下の「ファン」も加えると、売上の約90%にも及ぶことを明らかにしています。

 著者はこの他にも百貨店やコンビニエンスストアの売上データも示し、次のように述べます。

 

「パレートの法則」とか「20:80の法則」、「ニハチの法則」と呼ばれている法則をご存じだろうか(中略)自然現象や社会現象など様々な事例に当てはめて語られる法則であるが、ビジネス的には「全顧客の上位20%が売上の80%を生み出している」みたいに使われる。(中略)少数の顧客が売上の大半を支えているという意味において、このパレートの法則は、ほとんどの商品ジャンルに当てはまる。

(『ファンベース』 41~42ページ)

 

 少数のファンが売上の大半を支えている ―― 。こうした事実があるため、著者は企業に「ファンであり続けて」もらうための施策が必要であることを訴えているのです。

 なお、「TOPPOINTライブラリー」には、このパレートの法則をテーマに、「最小限の努力で最大限の効果を上げる」ための方法を紹介した『増補リニューアル版 人生を変える80対20の法則』(リチャード・コッチ 著/CCCメディアハウス 刊)も掲載していますので、興味のある方はそちらもご覧ください。

 

 では、多くの売上をもたらしてくれるファンを育て、彼らの支持を集めていくためにはどうすればよいのでしょう。そのためには、次の3つが必要であると著者はいいます。

 

ファンの支持を強くするための3カ条

    • ・その価値自体を、アップさせること → 「共感」を強くする
    • ・その価値を、他に代えがたいものにすること → 「愛着」を強くする
    • ・その価値の提供元の評価・評判を、アップさせること → 「信頼」を強くする

(『ファンベース』 93ページ)

 

 「共感」「愛着」「信頼」の3つを、地道に強くしていく施策が重要なのです。著者はファンのことを「常連さん」にたとえて、ファンベース施策の要点をこう説明します。

 

ファンベース施策とは、あなたの店の常連さんを大切にし、彼らのLTVを上げていくこと。そして、常連さんを新たに作り少しずつ増やしていくこと、である。

(『ファンベース』 93ページ)

 

 単発施策やキャンペーンなどで新規顧客を獲得した後、共感・愛着・信頼を強める施策を打つことで彼らを常連とし、LTV(ライフタイムバリュー:顧客生涯価値)を上げていく。また同時に新たな単発施策で新規顧客を獲得し、共感・愛着・信頼を強めていく…。

 こうしたサイクルを作り上げることで、企業の価値や売上を中長期的に上げていくというのが、本書が示す「ファンベース」のあり方です。

 消費者の側としては、企業がどこまで意識的にこうした施策を行っているのか把握することは難しいところがあります。ですが個人的に、施策によってファンにさせられたな、と思うものがあります。プロ野球のオリックス・バファローズです。

 おそらく地域限定だと思われますが、同球団では数年前から本拠地開催試合の一部の座席を、小学生とその保護者に優待価格で招待するキャンペーンを行っています。

 小学生の子どもがいる我が家では、それを使って月に1回くらいのペースでここ2年ほど観戦しています。この施策によって、私の家族はバファローズへの「愛着」が強くなり、子どもがファンクラブに入会するなど積極的に応援するようになりました。

 昨年まで3連覇している球団ですので、観戦時の勝率が高いことも満足度を高めてくれる一因ですが、この施策を1年限定ではなく連続して行っているところに、子どもたちに球場へ足を運んでもらおうとする球団の思いの強さがうかがわれて、愛着や信頼が増している、ということもあります。

 昨年は6試合観戦しました。すると、秋には本拠地で開催されたクライマックスシリーズ(ロッテ戦)に、家族で無料招待されるというサプライズが待っていました。ビジター側の外野席でしたが、こうしたサプライズは企業への愛着がより強くなり、信頼が増すことを身をもって知ることができました。もちろん、今年も観戦に行きます。

 その企業が何に価値を置き、何を売りにしているのかによって、「共感」「愛着」「信頼」を強める方法は変わるでしょう。

 しかし、『ファンベース』では様々な企業事例を取り上げ、彼らがいかにして共感・愛着・信頼を築いていったのかを詳しく解説していますので、どの企業のマーケティング担当者が読んでも参考になると思われます。ぜひ一読していただきたい本です。

(編集部・小村)

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 「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。

2018年4月号掲載

ファンベース 支持され、愛され、長く売れ続けるために

副題は、「支持され、愛され、長く売れ続けるために」。人口急減や情報過多などで、新規顧客の獲得が難しい今日、売上を伸ばすカギは「ファンベース」だという。これは、自社の商品やブランドのファンをベース(土台)にして、中長期的に売上や価値を上げる、という考え方。その重要性と具体策を、多様な事例を交えて説く。

著 者:佐藤尚之 出版社:筑摩書房(ちくま新書) 発行日:2018年2月
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