
飲食店が唐揚げなどの揚げ物をする際に使用した後の油、いわゆる「廃食油」が今、“争奪戦”になっています。しかも、その行き先は海外の航空会社で、飛行機の「ジェット燃料」として使われる ―― 。こんな事実を知り、驚きました。
NHKニュースによれば、廃食油などから作られる燃料を「SAF」(Sustainable Aviation Fuel=持続可能な航空燃料)と呼びます。原料に石油を使用しないSAFは、従来のジェット燃料より8割ほど二酸化炭素の排出量を削減できるとのことです。
飛行機は二酸化炭素の排出量が多く、「航空機を利用するのは恥だ」という意味の「飛び恥」という言葉が生まれるほど。航空業界は排出量削減の切り札として、SAFに注目しているようです。(「“揚げ油”争奪戦?」/NHK NEWS WEB ビジネス特集2022年11月21日)
現在、先進国を中心に脱炭素社会を目指す動きが進んでいます。上記のニュースはその一例ですが、企業各社も様々な形で脱炭素への取り組みを行っています。
なぜ、地球温暖化対策に取り組まなければならないのでしょうか? この大きな問いに対する理解を深めることは、私たちビジネスパーソンにとっても重要でしょう。
今週ご紹介するのは、そうした知識を与えてくれる本、『気候カジノ 経済学から見た地球温暖化問題の最適解』(ウィリアム・ノードハウス/日経BP社)です。極論に偏ることなく、冷静な筆致で地球温暖化の仕組みからその対策方法までを綴っています。
著者のウィリアム・ノードハウス氏は、イェール大学経済学部教授。30年以上にわたり、地球温暖化の分野で幅広い研究と執筆活動を行っています。2018年にはその活動が評価され、ノーベル経済学賞を受賞しました。
書名の「気候カジノ」の意味するところについて、著者はこう語っています。
本書では、「我々は気候カジノに足を踏み入れつつある」という比喩を使う。この表現を通じて私が言おうとしているのは、経済成長が気候システム(中略)と地球システムに意図せぬ危険な変化をもたらしているということだ。(中略)我々は気候のサイコロを投げている。その結果は数々の「サプライズ」を引き起こし、場合によっては深刻な事態を招く恐れもある。だが、気候カジノには足を踏み入れたばかりだ。今なら向きを変え、そこから出ることができる。
(『気候カジノ』 7ページ)
カジノでサイコロを振ると、大当たりすることもあれば、大ハズレすることもあります。同様に、経済成長は、気候システムと地球システムに思いがけない重大な影響――この場合、ハズレの可能性が大――を与える可能性がある。だが、今なら引き返せる。著者は警鐘を鳴らすとともに、まだ私たちに希望が残されていることを説きます。
ところで、なぜ経済学者が地球温暖化問題を扱うのでしょうか。著者はその理由を、第2章で次のように述べています。
地球温暖化は人間の活動に始まり、人間の活動に終わる。それは、作物を栽培する、部屋を暖める、学校に通うなどの経済活動の意図せぬ副作用として始まるのである。経済活動と地球温暖化の関係性を知るには、社会システムの分析が必要になる。そして社会システムとは、経済学をはじめとした社会科学の管轄なのだ。
(『気候カジノ』 22ページ)
地球温暖化は、人間の経済活動を主な要因とする。だから、温暖化を考えるには、私たちの社会システムを分析することが必要だ。そして社会システムは、経済学などの社会科学の管轄である ―― 著者は、そう述べます。地球温暖化がなぜ起こっているのか。気候変動は人間にどんな影響を与えるのか。そして、この変動を回避する方法にはどのようなものがあるのか。その回避策の経済学的側面や、障害となるものは…。こうした問題について、本書は明解に論じています。
企業が脱炭素に舵を切る中、11月20日に閉幕した第27回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP27)では、温暖化ガス削減に関して目立った進展はありませんでした。今年の議長国はエジプトでしたが、同国と産油国とが親密な関係にあることが影響したと、会議参加者から不満の声が上がっています。(「COP27閉幕、産油国の影響力色濃く 来年の課題に」/日本経済新聞電子版2022年11月24日)
今なら「気候カジノ」から引き返すことができる、とノードハウス氏は本書で訴えています。ですが、まだまだカジノに居残ってサイコロを振り続ける人たちはいるようです。
本書はA5判で400ページを超える本ですので、通勤途中に読むことは難しいかもしれません。年末年始の読書のラインアップに加えて、じっくりと読まれてみてはいかがでしょうか。
(編集部・小村)
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「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。
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