2024.1.9

編集部:小村

混沌とする世界情勢 その行方を読み解くカギとなる「地政学」を安全保障の専門家が解説

混沌とする世界情勢 その行方を読み解くカギとなる「地政学」を安全保障の専門家が解説

 2024年も、はや1週間が過ぎました。ビジネスパーソンの皆さまは、いよいよ本格的に働き始める頃ではないでしょうか。
 今年はどんな年になるのか ―― 。企業が気になるのは、やはり海外情勢のようです。

 帝国データバンクが昨年11月に約1000社の企業に実施した「2024年の注目キーワードに関するアンケート」によれば、ランキングの1位は2年連続で「ロシア・ウクライナ情勢」でした。また、10位以内には「中東情勢(ハマス・イスラエルの紛争)」(4位)、「チャイナリスク(政治、経済的リスクなど)」(10位)がランクインしており、企業の多くが海外情勢を注視している様子がうかがえます(帝国データバンクHP 2023年11月16日)。

 企業にとって、時には死活問題となる海外情勢の悪化。現在起きている紛争の行方はどうなるのか、また新たな経済的リスクはどこに発生するのか、気になるところでしょう。

 未来を完全に予測することはできません。しかし、世界の国々がどういった理由で動いているのか、その戦略の背景を理解することができれば、今後のリスク管理や、新たなビジネスチャンスの探索にも役立つはずです。

 

 そこで今回は、地理的な環境や歴史に注目して世界各国の戦略を読み解く、「地政学」の良書をPick Upします。英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)日本特別代表を務める秋元千明氏の著書『最新 戦略の地政学 専制主義VS民主主義』(秋元千明/ウェッジ)です。

 

 改めて、地政学とはどのような学問なのか。本書はこう解説します。

 

地政学は、地理的な環境や歴史、文化、伝統が国家の戦略形成にどのような影響を与えているのかを総合的に探求する学問的なアプローチのことであり、未来を見据えて、国家が取り組むべき外交、安全保障戦略を提示することを目的としている。

(『最新 戦略の地政学』 8ページ)

 

 著者によれば、学問として現実の国際関係と地理を体系的にとらえるようになったのは、20世紀に入ってからといいます。

 その先駆者といえるのが、現代地政学の開祖と呼ばれるハルフォード・ジョン・マッキンダー博士です。博士は世界の国家群を、「ランドパワー」と「シーパワー」の2つに類型化しました。

 本書によればランドパワーとは、ユーラシア大陸の内部や欧州東部に位置し、交易や人の移動の主な手段を陸上輸送に依存する内陸国家のこと。ロシアやドイツがこれにあたります。

 そしてシーパワーとは、ユーラシア大陸の外縁などに位置し、交通の手段を海上輸送に依存する海洋国家のことです。イギリスやアメリカ、日本などがこれにあたります。

 両者に対する博士の主張を、本書は次のようにまとめています。

 

①ランドパワーは、土地に対する執着が強く、支配地域を拡大しようとする攻撃的な傾向があること。

②シーパワーは土地の支配権獲得よりも、交易を通じて得た権益を守ろうとする傾向が強く、ランドパワーほど攻撃性が高くないこと。

(『最新 戦略の地政学』 52ページ)

 

 グローバル化と移動手段の高速化が進んだ現代においても、世界の交易や物資の移動は、依然として海が中心。ランドパワー対シーパワーというマッキンダー博士の唱えた地政学は、いまだに世界を読み解くカギである ―― 著者は、そういいます。

 では、今年の注目キーワードのトップである「ロシア・ウクライナ情勢」は、本書ではどう読み解かれているのでしょうか。著者によれば、ロシアの地政学的戦略は13世紀のモスクワ大公国時代以来、形を変えて現在まで受け継がれているといいます。

 その根幹となるのは、次の2つです。

 

第1に、外敵の侵入を阻止するため、ロシア周辺の地域をロシアの勢力圏として事実上の支配下に置き、ロシアの周囲に緩衝地帯をつくること。

第2に、物資を大量に輸送できる海上の輸送手段を確保するため、冬場も凍結しない港を求めて、必要なら外国に進出すること。

(『最新 戦略の地政学』128ページ)

 

 第1の点については、例えば第2次世界大戦後、ロシアは東欧諸国を社会主義の勢力圏に取り込み、西側諸国との緩衝地帯としました。また、第2の点については、東西冷戦時に「南下政策」をとり、海を目指してアフガニスタンやジョージアなどに侵攻しています。

 こうしたロシアの地政学的戦略は、ウクライナ侵攻とどう関係するのか。

 2022年2月、ロシアがウクライナに侵攻した際、プーチン大統領はその目的がネオナチ化したウクライナ政権を排除し、ウクライナ国民を救うことにあると主張しました。だが、それは口実にすぎないと著者はいい、本当の目的が別にあることを指摘します。

 

ロシアがウクライナ侵攻に着手した本当の目的は明白である。それは、ロシアにとって文化の中心地であった独立国、ウクライナを再びロシアの領域とし、ウクライナの港を活用して黒海から地中海につながる海洋権益を獲得することにある。(中略)ウクライナ戦争は単にウクライナの領土をめぐる地域紛争ではない。歴史上何度も繰り返されてきたランドパワーとシーパワーによる、世界を二分する戦争なのである。

(『最新 戦略の地政学』155~156ページ)

 

 ロシアとウクライナの戦闘は、もうすぐ2年が経とうとしています。しかし、ロシアの真の目的を考えると、戦争がいつ終わるのか、出口が見えません。

 プーチン大統領は、今年3月に行われる大統領選への出馬を表明しています。もし当選すれば、最長2期12年、大統領を続けることができます(「プーチン氏、5選出馬を表明 24年ロシア大統領選」/日本経済新聞電子版2023年12月8日)。

 今後も長く続く可能性があるプーチン政権下で、ロシアが今後、どんな動きを見せるのか。またそれに対して、アメリカや西欧諸国がどう対抗するのか。これからの世界の流れを見る上で、地政学的な知見は欠かせません。

 ところで、本書では私たち自身のものの見方、世界観を見直すための簡単な方法を紹介しています。

 それは、世界各国で使用されている「地図」を見ること。

 私たちが普段見ている世界地図は、日本が中心で、欧米が両端にあります。しかし、他の国では違います。

 例えば、本書で紹介するオーストラリアで使われている地図は、南北が逆さになっており、オーストラリアが中心よりやや上の位置にあります。この地図を見ると、オーストラリアがユーラシア大陸のとても近くにあるように感じられます。また日本がインドネシアあたりから続く島々の一部であるようにも見えたりして、いつもとは違う世界が現れます。

 こうした地図を見て育った人は、日本が中心の地図を見て育った人とは異なる世界観をもつことでしょう。他の国の視点をもつことの重要性を、著者はこう説きます。

 

おとなになっても同じ地図を見続けていると、国際情勢を見誤る恐れがある。ある国の子供たちは大西洋が中心の地図を見て育ち、ある国ではインド洋が中心の地図を学習し、南半球では、南北を逆さにした世界地図を教材に使っている。同じ世界に住みながら、違う世界を見ている人が大勢いることを我々は知らなくてはならない。

(『最新 戦略の地政学』45ページ)

 『最新 戦略の地政学』は、今回取り上げたロシアのほか、米中、そして日本の地政学的戦略についてわかりやすく解説しています。本書は地政学という学問、またその知見をもとにした国際情勢の見方がわかる本として、一読をおすすめします。地政学を知った上で、世界の地理や歴史について学び直せば、新たな発見があるかもしれません。

(編集部・小村)

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 「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。

2022年12月号掲載

最新 戦略の地政学 専制主義VS民主主義

「地政学」は、国家の戦略形成に、地理的な環境や歴史などが与える影響を探る学問だ。2022年、ロシアのウクライナ侵攻で、専制主義と民主主義の国々の対立が深まっている。激変する国際情勢。それを理解する上で、カギとなるのが地政学だ。安全保障の専門家が、地政学の視点から大国の地政戦略、“新冷戦”の時代を俯瞰する。

著 者:秋元千明 出版社:ウェッジ 発行日:2022年9月
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