2022.7.11

編集部:西田

自分だけは間違わない、という思い込みを捨てよう

自分だけは間違わない、という思い込みを捨てよう

 2019年12月に中国で確認されて以降、世界中で爆発的な感染を引き起こした新型コロナウイルス。2020年3月にはWHO(世界保健機関)がパンデミックを宣言し、その後の世界は文字通り一変しました。
 ですが、当時WHOが警鐘を鳴らしたのは、パンデミックだけではありません。パンデミック宣言に先立ち、WHOは「インフォデミック」の危険性について警告を発しています(令和2年版情報通信白書(総務省))。同白書は、インフォデミックを次のように定義しています。

 

インフォデミックとは、information(情報)とepidemic(伝染病)の2つの言葉を組み合わせた言葉で、信頼性の高い情報とそうではない情報が入り混じって不安や恐怖と共に急激に拡散され、社会に混乱をもたらす状況を指す。

(『令和2年版情報通信白書』 139ページ)

 

 コロナ禍の広がりとともに、日本でも様々な疑わしい情報が拡散しました。総務省が2020年6月にまとめた「新型コロナウイルス感染症に関する情報流通調査」には、いわゆるフェイクニュース・デマに関する調査結果が掲載されています。それによると、「こまめに水を飲むと新型コロナウイルス予防に効果がある」「ビタミンDは新型コロナウイルス予防に効果がある」といった誤情報やフェイクニュースに接した時、1つでも「正しい情報だと思った・情報を信じた」「正しい情報かどうかわからなかった」を選んだ人の割合は76.7%に上っています。

 こうしたフェイクニュースに騙される人と、騙されない人の違いは何か? それを考える助けになるのが、今週Pick Upする『The Intelligence Trap なぜ、賢い人ほど愚かな決断を下すのか』(デビッド・ロブソン/日経BP・日本経済新聞出版本部)です。

 本書のはじめに、こんな問題が掲載されています。ぜひ考えてみてください。

 

ジャックはアンを見ており、アンはジョージを見ている。ジャックは既婚だが、ジョージは違う。1人の既婚者が1人の未婚者を見ているのか。
「イエス」「ノー」「判断するのに十分な情報がない」のいずれかを選べ。

(『The Intelligence Trap』 10~11ページ)

 

 いかがでしょうか。これを読んだ時、私はこう考えました。
 ――ジャックは既婚でジョージは未婚だが、ジャックがジョージを見ているわけではない。アンが既婚か未婚かわからなければ、1人の既婚者が1人の未婚者を見ているかどうかはわからない。だから答えは「判断するのに十分な情報がない」だ――
 あなたの答えはどうだったでしょう。
 もし私と同じように「判断するのに十分な情報がない」だったなら、あなたは“要注意”です。お気づきかもしれませんが、これは出題者の狙いにはまった「誤答」。正解は「イエス」です(※)。

(※)なぜ? と思われた方へ。本書では、図を描いてみることが勧められています。本書が説くように、以下のような図(本書400ページの図をもとに作成)を描いてみると、アンが既婚/未婚、いずれのケースでも、1人の既婚者が1人の未婚者を見ていることがわかります。

ジャック(既婚) → アン(既婚) → ジョージ(未婚)

ジャック(既婚) → アン(未婚) → ジョージ(未婚)


 この問題で、一体何がわかるのか? 本書は、次のように説いています。

 

このテストは「認知反射」と呼ばれる特性(自らの思い込みや直感を疑う傾向)を測定するものだ。このテストのスコアが低い人はくだらない陰謀論や虚報、フェイクニュースに騙されやすい

(『The Intelligence Trap』 11ページ)


 まさか自分が騙されやすいなんて…と、ショックを受けたことを覚えています。
 そして、実は「間違えた」ことよりも、この「ショックを受けた」ことの方が大問題なのかもしれない、とも感じました。自分はフェイクニュースに踊らされないと、疑いもせず思い込んでいた(つまり、自分を買いかぶっていた)ということだからです。

 自分の知識や能力を過大評価する「自信過剰」。これこそ本書が説く“インテリジェンス・トラップ”(知性の罠)の1つです。気づかないうちに自分がこの罠にはまっていないか、時々意識してみることで、怪しい情報に踊らされる可能性を下げられるのではないでしょうか。
 そうしたことも踏まえると、上述の問題は、もし正解したとしても油断は禁物。自分だけは騙されない、と過信しないように気をつけたいものです。

 本書『The Intelligence Trap』は、こうしたクイズ的な質問や古今東西の“天才”たちの失敗談をふんだんに交えながら、なぜ人は誤った判断を下すのか、なぜ知識も経験もある専門家が時に素人よりもお粗末な結論に至るのか、その理由を探っていきます。
 名探偵『シャーロック・ホームズ』シリーズの作者コナン・ドイル、相対性理論を生み出したアインシュタイン、発明王エジソン…。錚々たる面子を反面教師として挙げ、インテリジェンス・トラップを避けるヒントを授けてくれるこの本。目に留まったエピソードを気の向くままに読んでいくだけでも、知的に謙虚であり続けることの重要性がわかる1冊です。

(編集部:西田)

 「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。

2020年10月号掲載

The Intelligence Trap なぜ、賢い人ほど愚かな決断を下すのか

優秀なあの人がなぜバカな判断を下すのか? この謎を解くには、知性とは何かを正しく捉え直す必要がある。高い知力があっても、それを適切に使いこなす知恵 ―― オープンマインド思考や知的謙虚さがなければ思考は偏るだけだ。科学ジャーナリストが、賢い人ほど陥りやすい知性のワナを暴き、それを避けるためのヒントを示す。

著 者:デビッド・ロブソン 出版社:日経BP・日本経済新聞出版本部 発行日:2020年7月
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