2022.7.11

編集部:西田

自分だけは間違わない、という思い込みを捨てよう

自分だけは間違わない、という思い込みを捨てよう

 突然ですが、こんな問題について考えてみてください。

 ジャックはアンを見ており、アンはジョージを見ている。ジャックは既婚だが、ジョージは違う。1人の既婚者が1人の未婚者を見ているのか。
 「イエス」「ノー」「判断するのに十分な情報がない」のいずれかを選べ。

 いかがでしょうか。
 この問題は、今回Pick Upする『The Intelligence Trap(インテリジェンス・トラップ) なぜ、賢い人ほど愚かな決断を下すのか』のはじめに取り上げられているものです。これを読んだ時、私はこう考えました。
 ――ジャックは既婚でジョージは未婚だが、ジャックがジョージを見ているわけではない。アンが既婚か未婚かわからなければ、1人の既婚者が1人の未婚者を見ているかどうかはわからない。だから答えは「判断するのに十分な情報がない」だ――
 あなたの答えはどうだったでしょう。
 もし私と同じように「判断するのに十分な情報がない」だったなら、あなたは“要注意”です。お気づきかもしれませんが、これは出題者の狙いにはまった「誤答」。正解は「イエス」です(※)。

    • (※)なぜ? と思われた方は、以下のような図を描いてみてください。アンが既婚/未婚、いずれのケースでも、1人の既婚者が1人の未婚者を見ています。
    • ① ジャック(既婚) → アン(既婚) → ジョージ(未婚)
    • ② ジャック(既婚) → アン(未婚) → ジョージ(未婚)


 上記の問題は、「認知反射」と呼ばれる特性を測定するテストの1つだそうです。
 認知反射とは、自らの思い込みや直感を疑う傾向のこと。一見それらしい回答が浮かんだ時、すぐに飛びつかず本当にそれで正しいのかと「問い直す」ことが、この問題では求められているのです。
 ちなみに本書によると、認知反射のテストのスコアが低い人は、くだらない陰謀論や虚報、フェイクニュースに騙されやすい、とのこと。まさか自分がそんな…と、ショックを受けたことを覚えています。
 そして、実は「間違えた」ことよりも、この「ショックを受けた」ことの方が大問題なのかもしれない、とも感じました。自分はフェイクニュースに踊らされないと、疑いもせず思い込んでいた(つまり、自分を買いかぶっていた)ということだからです。

 自分の知識や能力を過大評価する「自信過剰」。これこそ本書が説く、“賢い人”(知識や経験がある人)が誤りを犯す原因の1つです。
 本書で紹介されている別の問題を見てみましょう。

 ヨハネス・デフルートやブノア・セロンは有名な数学者なのか?

 この問いに「イエス」「ノー」「わからない」で回答するとして、何と答えますか?
 「わからない」と答える人が多いのではないでしょうか。特に数学の世界に詳しい人でなければ、そう答えるのは自然なことでしょう。
 一方、同じ質問を数学者にすると、「イエス」と答える人が多かったといいます。この結果には問題があります。実は、ヨハネス・デフルートは実在の数学者ですが、ブノア・セロンは実験者がでっち上げた架空の人物だったのです。
 実在しない人間について聞かれて「イエス」(知っている)と答える…。専門家は、「わからない」と無知を認めるより、自分の知識の豊富さを「過度に主張すること」を選んだというのです。
 自分の得意分野だと知ったかぶりをしてしまい、結果的に後で困ったことになる――「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥」とはよく言われますが、改めて振り返ると自分にも思い当たる節が多々あり、ドキリとさせられました。
 こうしたことも踏まえると、冒頭に挙げた問題に、もし正解したとしても油断は禁物。自分は騙されない、と過信しないように気をつけたいものです。

 本書『The Intelligence Trap』は、こうしたクイズ的な質問や古今東西の“天才”たちの失敗談をふんだんに交えながら、なぜ人は誤った判断を下すのか、なぜ知識も経験もある専門家が時に素人よりもお粗末な結論に至るのか、その理由を探っていきます。
 名探偵『シャーロック・ホームズ』シリーズの作者コナン・ドイル、相対性理論を生み出したアインシュタイン、発明王エジソン…。錚々たる面子を反面教師として挙げ、「インテリジェンス・トラップ(知性のワナ)」を避けるヒントを授けてくれるこの本。目に留まったエピソードを気の向くままに読んでいくだけでも、知的に謙虚であり続けることの重要性がわかる1冊です。

 『TOPPOINT』の要約では、デカルトの『方法序説』を引用した部分から「秀でた知性を有するだけでは十分ではない。大切なのは、それを正しく使うことだ」というフレーズをご紹介しました。『The Intelligence Trap』では、その後さらに『方法序説』を引いて、こう続きます。
 「最高の知性を有する者は、最高の美徳とともに最大の悪徳をも成しうる。拙速に進み、道を誤る者より、歩みはきわめて遅くとも常に正しい道を歩む者のほうがはるかに先まで到達できる」
 意思決定に際して、心の片隅に置いておきたい言葉です。

(編集部:西田)

 「今週のPick Up本」では、ビジネス書に日々触れている小誌の編集部員が、これまでに要約した書籍の中から「いま改めておすすめしたい本」「再読したい名著」をご紹介します。次回の“Pick Up本”もお楽しみに。

2020年10月号掲載

The Intelligence Trap なぜ、賢い人ほど愚かな決断を下すのか

優秀なあの人がなぜバカな判断を下すのか? この謎を解くには、知性とは何かを正しく捉え直す必要がある。高い知力があっても、それを適切に使いこなす知恵 ―― オープンマインド思考や知的謙虚さがなければ思考は偏るだけだ。科学ジャーナリストが、賢い人ほど陥りやすい知性のワナを暴き、それを避けるためのヒントを示す。

著 者:デビッド・ロブソン 出版社:日経BP・日本経済新聞出版本部 発行日:2020年7月

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