2025.6.16

編集部:西田

選挙に代わる民主主義の形 “くじ引き”が日本の社会を変える!?

選挙に代わる民主主義の形 “くじ引き”が日本の社会を変える!?

近づく夏の参議院選挙

 夏の参院選が近づいてきました。
 衆議院で少数となっている与党が参議院でも過半数を割り込めば、今後の国会審議に大きな影響が及ぶと見られており、その帰趨に注目が集まっています。

 ただ、選挙という仕組み自体への国民的な関心は、長期的にみると低下傾向にあります。例えば20年前の平成17年衆院選の投票率は67.51%でしたが、昨年(令和6年)10月の衆院選では53.85%。参院選でも傾向は同じで、令和4年7月の選挙の投票率は52.05%にとどまっています。
 その一方で、国の政策に国民の考えや意見が「反映されている」と考えている人は、わずか22.5%にすぎません(内閣府「社会意識に関する世論調査(令和5年11月調査)」)。つまり、政治家が国民の意見を代表しているとは思わないが、選挙にも行こうとは思わない――そんな風に考える有権者の姿が見えてきます。
 投票に行かない理由として、「自分の1票では結果は変わらない」「誰が当選しても社会は変わらない」といった声が聞かれることがありますが、こうした「選挙への幻滅」が、日本の選挙制度を蝕んでいる面があるのではないでしょうか。

 では、どうすればこの現状を打破できるのか?
 今週Pick Upする『くじ引き民主主義 政治にイノヴェーションを起こす』(吉田 徹 著/光文社 刊)はその参考となる本であり、斬新な提言で現行の仕組みに一石を投じています。

くじ引き民主主義

 本書が説く「くじ引き民主主義」とは、その名の通り、投票ではなく無作為抽出の「くじ引き」で国民の代表を選ぶというものです。選ぶ際は、その集団の年齢や性別、収入といった人口構成を再現するように選出します。

 そう聞くと、政治の知識や実力がない人が選ばれたらどうするのか、と心配する人がいるかもしれません。この懸念点について、本書はこう書いています。

 

個人の能力に比して、モノや地位が与えられるべきだという考え方は、新自由主義や自己責任と呼ばれる思考とも相性がよいのだろう。
しかし、人生や世の中は偶然と無縁ではいられない。努力が報われたとして、それはその人の能力だけに帰せられるものではなく、その人が選択することのできない環境と条件(時代、国、地域、家庭、遺伝子、人間関係など)に大きく左右される。

(『くじ引き民主主義』172ページ)


 日本の政治に対する国民の視線が冷ややかなのは、この欺瞞を見破っているからではないでしょうか。地盤・看板・鞄の三バンがある政治家は、労せずして当選できる。そうして「能力ある」政治家として選ばれるが、政治とカネの問題はいつまで経ってもなくならず、物価高騰は続いて国民生活は苦しいまま…。

 

「機会の平等」さえもが不均等に配分されている現代にあって、人智でもってこの平等を取り戻そうというのがくじ引きの役割である。

(『くじ引き民主主義』173ページ)


 こうしたことから考えると、くじ引き民主主義は決して荒唐無稽なものではないでしょう。
 本書では、実際にドイツやフランス、さらには日本でのくじ引き民主主義の実例を豊富に紹介し、その可能性を示しています。
 参院選前に、日本の政治や選挙のあり方を考える上で、好適な本といえるでしょう。特に、「選挙では何も変わらない」と考える人にこそお勧めしたい1冊です。

(編集部・西田)

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 「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。

2022年2月号掲載

くじ引き民主主義 政治にイノヴェーションを起こす

選挙ではなく、「くじ引き」で国民の代表を選ぶ ―― 。荒唐無稽に思えるが、この形態が今、世界で広がっている。背景にあるのは、議会や政治家への不信。ポピュリズムが横行するなど、選挙=代表制民主主義は機能不全に陥っている。これに代わり、政治に革新をもたらす「くじ引き民主主義」の仕組み、哲学、そして可能性を示す。

著 者:吉田 徹 出版社:光文社(光文社新書) 発行日:2021年11月
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