
8月2日、アメリカ下院議長を務めるナンシー・ペロシ氏が台湾を訪問しました。翌3日、ペロシ氏は蔡英文総統と会談。「米国は揺るぎない決意で台湾と世界の民主主義を守る」と語りました。ペロシ氏の台湾訪問に対して、中国政府は猛反発。台湾近隣の空・海域で大規模な軍事演習を行い、輸出入品を停止するなど圧力を強めており、予期せぬ衝突が起きかねないと懸念されています。(「ペロシ氏、蔡総統と会談「米台は団結」 台湾離れ韓国へ」/日本経済新聞電子版2022年8月3日)
台湾と台湾と中国の緊張関係については、以前から報道などでよく目にするところです。では、そもそもなぜ中国は台湾に圧力をかけようとするのでしょうか。それを真に理解するためには、両者間の歴史を知っておく必要があります。
そこで、今週は『台湾VS中国 謀略の100年史 なぜ中国共産党は台湾を支配したがるのか?』(近藤大介/ビジネス社)をPick Upします。
著者の近藤大介氏は、『現代ビジネス』『週刊現代』編集次長(特別編集委員)を務めるジャーナリスト。また、明治大学講師として、東アジア国際関係論を教えています。
本書は、台湾と中国の関係史を平易に知ることのできる良書です。特に12人の政治家に焦点をあて、歴史をひもといていきます。その政治家とは、孫文、蔣介石、毛沢東、鄧小平、蔣経国、李登輝、江沢民、陳水扁、胡錦濤、馬英九、習近平、蔡英文。著者は、12人に共通する点を、次のように分析しています。
12人に共通しているのは、「カオスの底なし沼」のような中華圏の近現代史の中で、権謀術数を駆使して、自らの大道を切り拓いてきた点です。
(『台湾VS中国 謀略の100年史』 2ページ)
本書は、大きく2部に分かれています。Ⅰ部は「国民党vs共産党――創建世代の栄枯盛衰」。国民党、共産党の誕生から、国共内戦を経て、蔣介石の台湾への逃避、そして1975年の蔣介石の死去、日中国交正常化までを描きます。そしてⅡ部では、「台湾vs中国――三党の権謀術数」と題して、1975年から現在に至るまでの台湾と中国の関係を語ります。
この本の特色の1つとして、ジャーナリストである著者が、自らの体験や政治家への取材をもとにした、具体的なエピソードを豊富に盛り込んでいることが挙げられます。そのため、通史にありがちな単調さはなく、臨場感のある描写に興味をそそられます。
*
さて、台湾と中国の歴史を踏まえた上で、私たちがこれから気になることは、「中国は台湾を武力統一していくのか」どうかです。この件について、著者はこう推測します。
当面のターゲットを、比較的奪取しやすい台湾が実効支配している「小島」に定めてくるのではないでしょうか。中でも一番リスクが高いのが、太平島です。太平島は、南シナ海の南沙諸島に浮かぶ自然の最大の島です。(中略)太平島を巡る中台戦争なら、アメリカ軍が本格的に参戦してこないという計算も働いています。
(『台湾VS中国 謀略の100年史』 258~259ページ)
そしてもう1つ、リスクの高い島として挙げているのが、「尖閣諸島」です。
いやもう一つ、大変危険な島嶼があります。日本が実効支配している尖閣諸島です。中国側は「台湾の一部だから中国の不可分の領土」と主張しているので、中国にとって尖閣諸島(釣魚島)問題は台湾問題なのです。(中略)日本にとって台湾問題とは、いかに尖閣諸島を死守していくかという問題でもあるのです。
(『台湾VS中国 謀略の100年史』 259~260ページ)
来月9月29日は、日中国交正常化50年の節目です。その日はすなわち、中華民国(台湾)と断交した日でもあります。日本経済にとって重要な位置を占める両者と、日本はこれからどう向き合っていくのでしょうか。
東アジアをめぐる状況は、さらに複雑化していくと思われます。本書は、ビジネスパーソンがその状況を理解し、様々な決断を下していくための指針を与えてくれることでしょう。
(編集部・小村)
* * *
「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。
他のPick Up本
-
2023.9.19
争いや対立を乗り越え 相手と理解し合うためのコミュニケーション手法 NVCのメソッドを学ぶ
-
2022.8.8
終戦直後に日本の敗因を喝破 いまも読み継がれる、敗戦の“真相”
-
2023.8.7
新1万円札の顔・渋沢栄一 “日本の資本主義の父”と称される氏の生涯と偉業を支えた思想を解説