2022.8.22

編集部:小村

緊張が高まりつつある台湾と中国 1世紀にわたる歴史から、両者の複雑な事情を探る

緊張が高まりつつある台湾と中国 1世紀にわたる歴史から、両者の複雑な事情を探る

 8月2日、アメリカ下院議長を務めるナンシー・ペロシ氏が台湾を訪問しました。翌日、ペロシ氏は蔡英文総統と会談。「台湾と世界の民主主義を守る」と語りました。ペロシ氏の台湾訪問に対して、中国政府は猛反発。台湾近隣の空・海域で大規模な軍事演習を行い、輸出入品を停止するなど圧力を強めており、予期せぬ衝突が起きかねないと懸念されています。

 台湾と中国の緊張関係については、以前から報道などでよく目にするところです。では、そもそもなぜ中国は台湾に圧力をかけようとするのでしょうか。それを真に理解するためには、100年余におよぶ、両者間の歴史を知っておく必要があります。

 そこで、今週のPick Up本は、『台湾VS中国 謀略の100年史 なぜ中国共産党は台湾を支配したがるのか?』(近藤大介/ビジネス社)をご紹介します。

 著者の近藤大介氏は、『現代ビジネス』『週刊現代』編集次長(特別編集委員)を務めるジャーナリスト。また、明治大学講師として、東アジア国際関係論を教えています。

 「肩が凝らずに読める日本語で書かれた通史」がほとんど見当たらないので自分で書いた――著者が述べる通り、本書は台湾と中国の関係史が平易に理解できる良書です。特に12人の政治家に焦点をあて、歴史をひもといていきます。その政治家とは、孫文、蔣介石、毛沢東、鄧小平、蔣経国、李登輝、江沢民、陳水扁、胡錦濤、馬英九、習近平、蔡英文。いずれも、過去100年余りの中国もしくは台湾で「権謀術数を駆使して、自らの大道を切り拓いてきた」人たちばかりです。

 本書は、大きく2部に分かれています。Ⅰ部は「国民党vs共産党――創建世代の栄枯盛衰」。国民党、共産党の誕生から、国共内戦を経て、蔣介石の台湾への逃避、そして1975年の蔣介石の死去、日中国交正常化までを描きます。そしてⅡ部では、「台湾vs中国――三党の権謀術数」と題して、1975年から現在に至るまでの台湾と中国の関係を語ります。

 本書の特色の1つとして、ジャーナリストである著者が、自らの体験や政治家への取材をもとにした、具体的なエピソードを豊富に盛り込んでいることが挙げられます。そのため、通史にありがちな単調さはなく、臨場感のある描写に興味をそそられます。

 例えば、『TOPPOINT』の要約には掲載していませんが、1996年3月に行われた台湾初の総統直接選挙に関する、次のようなエピソードがあります。

 選挙前、中国は3度にわたり大規模軍事演習を行いました。これに対して日本のメディアは連日、今にも戦争が始まるかのような報道を行います。当時、北京大学の留学生だった著者は、「アモイ空港を人民解放軍が接収」との報道を見て、その最前線が見たくなり、台湾海峡に近い福建省アモイに向かいます。
 ところが、アモイ空港には中国の戦闘機の姿はなく、泊まったホテルでは台湾の電機メーカーが展示会を開催していました。人民解放軍の兵士はいたものの、凧あげをしたり、寝転がってラジオで総統選挙の実況中継を聞いていたり…。著者は兵士に声をかけますが、返ってきた答えは、「李登輝が何票差で勝つか、皆で賭けているんだ」でした。
 当時はまだ、米中の軍事力の差が大きく開いていた時代。中国の軍事演習に対して、台湾海峡には米軍の空母が2隻入ってきていました。その時点で、中国はもう白旗をあげていたのです。
 それから4半世紀を経て、米中の軍事力の差が縮まりつつある現在、このエピソードには隔世の感があります。

 さて、台湾と中国の歴史を踏まえたうえで、これから気になることは、「中国は台湾を武力統一していくのか」どうかです。著者はこの問題について、本書で”現実問題として難しい”と述べています。その理由として、武力統一を強行しようとすると、アメリカ軍と全面衝突になるリスクがあること、また、仮に制圧したとしても、統治が順調に進まず「内戦状態」になる可能性があることを挙げます。
 かといって、このまま何もしないで終わることはないでしょう。なぜなら、中国の習近平国家主席は毛沢東の後継者を自任しており、「毛沢東の遺訓」である台湾統一を強く意識しているはずだからです。
 では、どう動くのか。中国は比較的奪いやすい、台湾が実行支配する「小島」に狙いを定めてくるのではないか、と著者は推測しています。そして、最もリスクが高い島として、南シナ海の南沙諸島に浮かぶ「太平島」を挙げます。こうした小島なら、アメリカ軍が本格的に参戦してこないとのもくろみもあるといいます。

 そしてもう1つ、「大変危険な島」として著者が挙げているのが、日本が実効支配している「尖閣諸島」です。中国は、単純に中国の領土である、と主張しているのではありません。尖閣諸島は「台湾の一部」である。その台湾は中国に属するから、尖閣諸島は中国の領土である――。こういうロジックを展開しているのです。

 

日本にとって台湾問題とは、いかに尖閣諸島を死守していくかという問題でもあるのです。

 

 著者はこう締めくくって、本書を終えています。

 来月9月29日は、日中国交正常化50年の節目です。その日はすなわち、中華民国(台湾)と断交した日でもあります。日本経済にとって重要な位置を占める両者と、日本はこれからどう向き合っていくのでしょうか。
 東アジアをめぐる状況は、さらに複雑化していくと思われます。本書は、ビジネスパーソンがその状況を理解し、様々な決断を下していくための指針を与えてくれることでしょう。

(編集部・小村)

*  *  *

 「今週のPick Up本」では、ビジネス書に日々触れている小誌の編集部員が、これまでに要約した書籍の中から「いま改めておすすめしたい本」「再読したい名著」をご紹介します。次回の“Pick Up本”もお楽しみに。

2021年12月号掲載

台湾VS中国 謀略の100年史 なぜ中国共産党は台湾を支配したがるのか?

近年、激しさを増す中国と台湾との対立。この問題を理解するには、過去100年余の歴史を繙く必要がある。中華民国建国、共産党誕生、満州事変…。当時の指導者に焦点を当てつつ、中華圏の近現代史を通観した。中国いわく、尖閣諸島は台湾の一部。つまり中台の問題は日本の問題でもあり、その理解は私たちにとっても大切だ。

著 者:近藤大介 出版社:ビジネス社 発行日:2021年10月

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