2022.7.8

編集部:小村

1世紀近く前に暴かれたはずの “戦時の噓”は、今なお生き続ける

1世紀近く前に暴かれたはずの “戦時の噓”は、今なお生き続ける

 今年5月9日、ロシアの戦勝記念日に演説を行ったプーチン大統領は、ウクライナ侵攻について次のように言及しました。

 

ネオナチとの衝突は避けられなかった。NATO(北大西洋条約機構)は最新兵器を定期的に提供し、危険は日増しに高まった。攻撃はやむを得なかった。時宜を得た、唯一の正しい決定だった。

(「「祖国防衛は常に神聖」プーチン大統領演説要旨」/日本経済新聞電子版2022年5月9日)


 日本で様々な情報に接していると、プーチン大統領の発言は「都合のいい噓」「プロパガンダ」であるように聞こえます。しかし、情報が統制されたロシア国内では事情が異なります。国民はこうした発言を繰り返し耳にすることで、相手国に怒りと憎しみを抱き、強い愛国心を持つようになるのです。
 では、私たちがプロパガンダに乗せられないようにするにはどうすればよいのか。そのためには、そこに隠された「噓」がいかなるものかを見極めなければなりません。

 そこで今週は、世論を巧みに操る「戦争プロパガンダ」の手法を解説した『戦争プロパガンダ10の法則』(アンヌ・モレリ/草思社)をPick Upします。ベルギーの歴史学者である著者は、アーサー・ポンソンビーの古典的名著である『戦時の噓』(1928年刊)が指摘した戦争プロパガンダの「10項目の法則」に基いて持論を展開しています。その法則は、本書では以下のように各章のタイトルとしても用いられています。

 

第1章「われわれは戦争をしたくはない」
第2章「しかし敵側が一方的に戦争を望んだ」
第3章「敵の指導者は悪魔のような人間だ」
第4章「われわれは領土や覇権のためではなく、偉大な使命のために戦う」
第5章「われわれも意図せざる犠牲を出すことがある。だが敵はわざと残虐行為におよんでいる」
第6章「敵は卑劣な兵器や戦略を用いている」
第7章「われわれの受けた被害は小さく、敵に与えた被害は甚大」
第8章「芸術家や知識人も正義の戦いを支持している」
第9章「われわれの大義は神聖なものである」
第10章「この正義に疑問を投げかける者は裏切り者である」

(『戦争プロパガンダ10の法則』 目次)


 先に紹介したプーチン大統領の発言は、これらの法則に沿ったもの、と言ってもいいかもしれません。

 『戦争プロパガンダ10の法則』は、ポンソンビーの指摘する法則が、紛争が起こるたびに繰り返し使用されている実情を明らかにしています。ポンソンビーは第一次世界大戦中のイギリス政府の「噓」を批判しましたが、その噓が第二次世界大戦や湾岸戦争、NATO軍によるユーゴスラヴィア空爆の際にも用いられていることを、この本は教えてくれます。

 現在、『戦争プロパガンダ10の法則』の原著の刊行から20年、『戦時の噓』刊行からおよそ100年が経過しました。にもかかわらず、戦争やプロパガンダが止むことはありません。
 SNSが発達した今日、プロパガンダはますます巧妙に世論を操り、私たちは好むと好まざるとにかかわらず、その影響を受ける状況に置かれています。こうした点において、本書を読む価値は、より一層高まっているといえるでしょう。

(編集部:小村)

*  *  *

 「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。

2015年4月号掲載

戦争プロパガンダ10の法則

我々は戦争をしたくはない。しかし敵側が一方的に戦争を望んだ ―― 。戦争を始める前、どの国の国家元首もこう言い、自己を正当化する。両次世界大戦の時も、現在のあらゆる紛争においても。世論を巧妙に操る、こうした「戦争プロパガンダ」の基本的な手法について、英国ポンソンビー卿の古典的名著『戦時の噓』の指摘に沿いつつ、具体例を挙げて検証する。

著 者:アンヌ・モレリ 出版社:草思社(草思社文庫) 発行日:2015年2月

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