今週、9月21日(木)は国際平和デー。国連ではこの日を「世界の停戦と非暴力の日」として、この日一日は敵対行為をやめるよう、世界に働きかけています。また国連は、マハトマ・ガンジーの誕生日である10月2日(月)を国際非暴力デーとして、非暴力のメッセージを広めるための機会としています(「「国際平和デー」に関する参考資料」「国際非暴力デープレスリリース」/国際連合広報センター)。
ロシアのウクライナ侵攻をはじめ、世界がますます争いと暴力の方向に向かう中、非暴力の可能性について改めて考えることは、意義のあることのように思います。争いや暴力、対立は、国や集団の間だけに起こるものではありません。企業や組織の中でも起こりますし、職場や友人、家族など、人間同士がかかわるあらゆる場面で起こり得るものです。そうした状況下で、力に頼らず、問題を解決に導こうと試みることは、これからの時代、ますます重要となるでしょう。
では、争いや対立において、「力」以外の解決策として何が考えられるでしょうか。その1つが「対話」です。対立者同士が対話を重ねることは、お互いが持つ偏見や誤解を解き、真の理解へと導きます。
今回は、そうした対話のメソッドを説いた、世界60カ国以上で読まれているベストセラー、『NVC 人と人との関係にいのちを吹き込む法 新版』(マーシャル・B・ローゼンバーグ 著/日本経済新聞出版社 刊)をご紹介します。
マイクロソフトのサティア・ナデラ氏は本書に感銘を受け、2014年にCEOに就任した際、最初の幹部会議で全員にこの本を手渡したといいます(「殺伐とした企業カルチャーを変えるために、マイクロソフトCEOが幹部に勧めた1冊」/Business Insider Japan2018年10月20日)。
書名のNVCとは、著者のローゼンバーグ氏が提唱する「Non-violent Communication(非暴力コミュニケーション)」のこと。人に本来備わっている「思いやりの気持ち」を引き出し、相手と理解し合うためのコミュニケーション手法です。
NVCは、次の4つの要素で構成されています。
・自分の人生の質を左右する具体的な行動の「観察」
・観察したことについて抱いている「感情」
・そうした感情を生み出している、価値、願望、「必要としていること」
・人生を豊かにするための具体的な行動の「要求」
(『NVC 人と人との関係にいのちを吹き込む法 新版』 26ページ)
これらの要素を使用した例として、本書では母親が息子に投げかけた次のような言葉を挙げています。
「フェリックス、まるめた靴下がコーヒーテーブルの下にふたつ、テレビの脇に3つもあると、お母さんはいらいらしてしまうの。みんなで使う部屋はもっと片づいた状態にしておきたいわ(中略)脱いだ靴下は、あなたの部屋か洗濯機に入れておいてくれないかしら?」
(『NVC 人と人との関係にいのちを吹き込む法 新版』 25ページ)
上記の言葉に含まれた4つの要素を見てみましょう。まず、「まるめた靴下がコーヒーテーブルの下にふたつ、テレビの脇に3つもある」という部分は、行動の「観察」にあたります。次に、観察したことについて抱いた感情を「いらいらしてしまう」と伝えています。その後の「みんなで使う部屋はもっと片づいた状態にしておきたいわ」は、自分が必要としていることの表明。そして最後の「脱いだ靴下は、あなたの部屋か洗濯機に入れておいてくれないかしら?」が、具体的な行動の「要求」となっています。
この例のように、筆者も自宅で、子どもに片付けをするよう注意することがあります。その時、4つの要素をうまく使って話そうとするのですが、どうしても感情的になってしまい、「とにかくやれ」となってしまいがち。対話のメソッドについて、頭で理解をしていても、実際の場面でそれを上手に使うのは難しいと痛感します。
さて、上記の4つの要素の解説を読む中で、筆者が特に気をつけねばならないと感じた箇所がありました。それは行動の「観察」において、観察と評価とを切り離すこと。これができていない場合、相手は言葉を批判として受け取り、反発してしまう、と本書は述べています。では、評価をまじえない観察の表現とは、どのようなものでしょうか。例えば ―― 。
NVCは時間と状況を特定して観察を表現する。たとえば、「スミスは20試合に出場してゴールを一度も決めていない」と表現するが、「スミスはへぼなサッカー選手だ」という言い方はしない。
(『NVC 人と人との関係にいのちを吹き込む法 新版』 66~67ページ)
「へぼなサッカー選手」という発言は、観察と評価を混同し、スミスは能力が劣った選手であると決めつけています。職場だと「あなたはいつも仕事が遅い」といった発言になるでしょう。こんなふうに言われた相手は、それについて建設的に考えることができません。
それに対して、「スミスは20試合に出場してゴールを一度も決めていない」とか、「あなたはこの1カ月間で期日通りに進められていない作業が3つある」などと観察したことを率直に表現すると、相手は冷静にメッセージを受け取ってくれるようになるのです。
もし、職場に対立している人がいれば、相手とのこれまでの会話を思い出してみてはどうでしょう。あなたと相手のどちらかが、もしくはお互いが観察と評価を一緒にした発言をしている、ということはないでしょうか。それによって、相手への反発が生じているのかもしれません。このように、同僚や上司とのこれまでの会話を振り返ることも、コミュニケーション改善のための有効な方法です。
*
争いや対立を抱える中で、お互いの真の理解に向けた対話を行うことは容易ではありません。失敗しても、繰り返し実践することが、理解への道を開くこととなるでしょう。
ローゼンバーグ氏はNVCを使い、これまでに様々な紛争の解決を図ってきました。『NVC 人と人との関係にいのちを吹き込む法 新版』では、氏が世界各地で行ったワークショップや対話の事例が数多く紹介されています。恋人や家族の間の対立から、労使間の紛争、そして異民族同士の争いまで。その経験から、どんな紛争でも解決が可能であることを学んだといいます。その言葉を励みとし、身近にある争いを対話によって収めるべく、本書を活用していただければ幸いです。
(編集部・小村)
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