「あの人、空気を読むのがうまいよね」「今はそういう話を持ち出せる雰囲気じゃない」「あの場では断れないムードだった」…。
日本では会議や会話の中などで、“空気”あるいはそれに近い言葉が頻繁に使われます。例えば最近、熱中症のリスクがあるにもかかわらず、ほとんどの人は屋外でもマスクを外しません。それは、「みんながマスクをしているのに、自分だけ外すような“空気”じゃない」と考えるからではないでしょうか。
今回取り上げたいのは、そんな“空気”について考察した名著、『「空気」の研究』(山本七平 著/文藝春秋 刊)です。著者は、作家・評論家として活躍された山本七平氏です。
“空気”とは、一体何なのか ―― 。山本氏は本書で、次のように説明しています。
それは非常に強固でほぼ絶対的な支配力を持つ「判断の基準」であり、それに抵抗する者を異端として、「抗空気罪」で社会的に葬るほどの力をもつ超能力
(『「空気」の研究』 22ページ)
一般的に、私たちは物事を論理的に決めています。筋の通った話や、理由、結論を基に判断を下します。しかし時として、どう考えても論理的とはいえない“空気”的な判断によって物事を決めてしまうことがあります。
その一例として山本氏が挙げているのが、第二次世界大戦中の戦艦大和の特攻出撃に関する話です。戦艦大和の特攻出撃とは、神風特別攻撃隊のように、大和がアメリカの戦艦に体当たりする作戦のこと。この作戦については、当時、軍の中でも意見は二分していたそうですが、最終的に“空気”によって実施が決まったそうです。
大和の出撃を無謀とする人びとには、それを無謀と断ずるに至る細かいデータ、すなわち明確な根拠がある。だが一方、当然とする方の主張はそういったデータ乃至根拠は全くなく、その正当性の根拠は専ら「空気」なのである。従ってここでも、あらゆる議論は最後には「空気」できめられる。最終決定を下し、「そうせざるを得なくしている」力をもっているのは一に「空気」であって、それ以外にない。
(『「空気」の研究』 16ページ)
つまり、軍の首脳らによる議論の場では、「全般の空気により」大和出撃が決断されたということです。しかもこの場に参加していたのは、素人ではなく、戦場を知り尽くした専門家たちでした。専門家でも、また出撃が失敗に終わるという根拠があっても、「作戦を実行するしかない」という“空気”の前では無力だったのです。
本書が単行本として刊行されたのは、1977年(『TOPPOINT』で紹介しているのは、1983年刊の文庫版)。戦時中も、この書が刊行された当時も、そして今も、“空気”は日本人を拘束し続けています。非論理的な意思決定がその場の“空気”で下されるだけでなく、ニュースやSNSを見ていると、社会一般の常識から外れている人になら攻撃してもよい、という“空気”がはびこっているような気もします。
『「空気」の研究』は、周りの“空気”がおかしいと感じた時、また“空気”を読むことに疲れた時に、ぜひ手に取っていただきたい1冊です。
(編集部・油屋)
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