2023.12.4

編集部:油屋

「顧客価値×収益化」 顧客を満足させながら、企業が利益を得る仕組みをつくる方法とは?

「顧客価値×収益化」 顧客を満足させながら、企業が利益を得る仕組みをつくる方法とは?

 早いもので、もう12月。2023年も残り1カ月となりました。
 今年を振り返ると、バスケットボールとラグビーのW杯が開催されたり、野球では阪神タイガースとオリックス・バファローズによる関西ダービーが行われたりと、スポーツで日本が盛り上がった1年だったように思います。私はサッカーが好きでよく試合を見るのですが、先月、ヴィッセル神戸が悲願のJ1リーグ初優勝を達成した時は感極まりました。

 そんなサッカーで、現在(11月30日時点)、J1昇格プレーオフを戦っている清水エスパルスに関する興味深い新聞記事を目にしました。2023年シーズンの平均観客動員数は2022年並みにとどまったものの、興行収入は過去最高を更新する見通しだというのです(「サッカーJ2清水、興行収入過去最高へ 変動価格制奏功」/日本経済新聞2023年11月16日)。
 清水エスパルスは22年シーズンJ1での成績が振るわず、J2に降格したクラブです。元日本代表選手も所属する歴史あるクラブとはいえ、なぜJ1にいた時よりも多い興行収入を記録することができたのでしょうか?
 記事では、その一因として、入場料金の「ダイナミックプライシング(変動価格制)」が功を奏したことを挙げています。ダイナミックプライシングとは、需給状況に応じて料金を上下させる手法のこと。宿泊料金や航空券の値段が繁忙期と閑散期とで大きく異なるように、人気のある試合の時にはチケットの価格を上げ、平日開催などで集客が少ない時には下げることで、全体収益の向上を目指すものです。現在、AIやビッグデータの活用とともに、ダイナミックプライシングは様々な企業・業界へと広がりを見せています。

 清水エスパルスのように、価格設定を見直すことで収益を向上させる企業がある一方で、自社の商品・サービスの適正価格の見極めに悩む企業は少なくないのではないでしょうか。自社の商品・サービスは良いのになかなか売れないからと、競合他社の価格を目安に売値を下げた結果、売れても利益が薄くなってしまった ―― 。このような事例を少なからず見かけます。
 そこで紹介したいのが、「マネタイズ」(収益化)のポイントをわかりやすく説いた『マネタイズ戦略 顧客価値提案にイノベーションを起こす新しい発想』(川上昌直 著/ダイヤモンド社 刊)です。今回はこちらの本をPick Upします。

 経営学者である著者の川上昌直氏は、「はじめに」で次のように述べています。

 

ビジネスモデルとは「顧客を満足させながら、企業が利益を得る仕組み」である。(中略)しかし、ほとんどの企業において、「顧客を満足させる」という顧客価値提案ばかりに関心と注目が行き、肝心の「企業が利益を得る」というマネタイズがおざなりになっている。

(『マネタイズ戦略』 3ページ)


 つまり、売上に悩む企業の多くは、「マネタイズ」がうまくできていないと指摘します。
 そして氏は、魅力的な価値創造を行うには、顧客への価値提案とマネタイズの両方をそろえる必要があるといいます。
 では、どのように顧客価値提案とマネタイズを両立させればいいのでしょうか?
 本書ではそのポイントを伝えるために、価値提案とマネタイズを複合的にとらえて成功した8つの事例を紹介しています。例えば、電気自動車(EV)を製造するテスラは、EV販売時だけでなく、先進機能を後から購入してアップグレードできるようにしました。こうして、販売後も収益機会を設けながら「常に進化する車」を実現させています。また、インターネット映像配信サービスを手がけるNetflix(ネットフリックス)は、ユーザーからの「サブスクリプション」(定額課金)によって得られる安定した収入をもとに質の高いオリジナルドラマや映画を制作し、人気を得ることに成功しました。
 この他、辛口の批評雑誌として人気の『LDK』や、地域コミュニティの形成に成功した千葉県のパン屋・ピーターパンなど、多様な成功事例について解説しています。

 『マネタイズ戦略』で紹介される事例は、いずれも価値提案とマネタイズが相互に補完しあい、ブレークスルーを実現しています。ただ、成功事例を見ても、値上げや課金方法の変更にはまだ抵抗があるという人はいるかもしれません。日本経済がインフレになる今も、価格転嫁せずできるだけ安く商品・サービスを提供することが、顧客のためになるという考え方もあります。
 こうした考えについて、著者は次のように指摘しています。

 

単なるマネタイズの変更は、金の亡者にでもなったかのような誤解を人々に与えることがある。その場合は往々にして、顧客価値が調整されていないことで起こる問題である。(中略)
マネタイズの変更は、ビジネスの全体像を変更するきっかけであると考えたほうがいい。うまくいっているビジネスのマネタイズ法をまねて自社に取り入れる場合は、必ず価値提案も調整する必要がある。

(『マネタイズ戦略』 208ページ)


 例えばネットフリックスは、広告収入で成り立つテレビ番組とは異なり、サブスクリプション型であるがゆえに、スポンサーに配慮せずに尖ったコンテンツを生み出し続けています。そのコンテンツが支持されているからこそ、全世界で約2億4700万人のユーザーを抱えるまでに成長できたのでしょう。冒頭で触れた清水エスパルスは、増えた収益を新たな選手獲得や、来場者を楽しませる企画などに活用していくものと予想されます。マネタイズの見直しは、提供する商品・サービスの価値向上へとつなげていくことが求められるのです。
 顧客満足と利益を両立させる方法について知りたいという方には、ぜひ一度『マネタイズ戦略』を手に取っていただければと思います。成功事例に目を通すことで、価値提案とマネタイズを融合させる際のヒントが得られるはずです。

(編集部・油屋)

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 「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。

2018年2月号掲載

マネタイズ戦略 顧客価値提案にイノベーションを起こす新しい発想

ビジネスは、顧客への「価値提案」と「マネタイズ」(収益化)の両輪からなる。しかし企業の多くは、顧客を満足させる価値提案には熱心だが、「利益を得る」ことはおざなりにしがち。このマネタイズのポイントを、テスラ社等の先進事例を交えて説いた。顧客価値とマネタイズ。両者が融合すれば、ブレークスルーも夢ではない!

著 者:川上昌直 出版社:ダイヤモンド社 発行日:2017年12月
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