
AI(人工知能)に仕事が奪われる ―― 。そんな心をざわつかせるニュースが増えたように思います。
例えば、アメリカのベンチャー企業OpenAIが開発した、対話型AI「ChatGPT」。質問を投げかければ、まるで人間が回答したかのようなリアルな文章を返してくるこのAIは、現在世界中で注目を集めています。また、AIによるアート作品も次々と誕生しています。なかには一般のコンテストで優勝した作品もあり、そのクオリティの高さに驚かされます。
AIの進化がこれほど速いと、未来社会への期待が高まる反面、冒頭のような不安に駆られる人も少なくないのではないでしょうか。
今後、人が担う仕事は残されているのか。この先、どんなスキルを身につけておくべきか…。今回はそんな疑問に答えてくれる書籍、『AI時代の勝者と敗者 機械に奪われる仕事、生き残る仕事』(トーマス・H・ダベンポート、ジュリア・カービー著/日経BP社)をご紹介します。
本書の特徴はタイトルの通り、AI時代に、機械に奪われる仕事や生き残る仕事について、詳しく解説している点です。例えば、今後人間が担うべき仕事については、次の5つの選択肢があるといいます。
- ・ステップ・アップ(上へ進む)
自動システムの上を行く。コンピュータやロボットには処理できない、構造化されていない範囲の広い問題に対して、より大局的な洞察や意思決定をする。
- ・ステップ・アサイド(脇に寄る)
コンピュータが得意でない非決定作業に移る。非決定作業には、人間に製品やサービスを販売する、人間を説得する、コンピュータの決定をわかりやすく伝える、といった仕事がある。
- ・ステップ・イン(中に入る)
コンピュータの自動意思決定システムに携わり、それを理解し、監視し、改善する。
- ・ステップ・ナロウリー(すき間に分け入る)
自分の仕事の中に、誰も自動化しようとしないほど範囲の狭い専門領域を見つける。自動化しても経済的効果がないような領域である。
- ・ステップ・フォワード(前へ進む)
特定の分野で、知的な意思決定や行動を支援する新しいシステムやテクノロジーを開発する。
(『AI時代の勝者と敗者』 112~113ページ)
本書はこのように、人間の強みを活かしつつAIに対応する5つの領域を明示しています。
これに従えば、物事を大局的に考えるのが得意な人は、1つ目の「ステップ・アップ(上へ進む)」を検討してもいいかもしれません。また、人とコミュニケーションを取るのが好きだったり、クリエイティブな仕事に携わっていたりする人は、2つ目の「ステップ・アサイド(脇に寄る)」が適しているといえるでしょう。
とはいえ、今のAIは、これまで人間の専売特許と思われてきたクリエイティブな仕事、例えば冒頭でもご紹介したように、芸術作品を生み出すこともできるようになっています。その点についてはどう考えればよいのでしょうか?
本書では「ステップ・アサイドで人間は解放される」とし、次のように述べています。
(IBMの)ワトソンは最近、おいしい料理を生み出す食材の新たな組み合わせを見つける能力を手に入れた。(中略)まず、すでに高い評価を得ているレシピのデータベースをインプットされた。そして次に、広告メッセージ作成ソフトウェアと同じように、「そのレシピを混ぜ合わせたり、何かを代用したり、そのほかありとあらゆる修正をして、新しいレシピのアイデアを何百万と」生み出した。(中略)
こんなコンピュータが現れたら、きわめて繊細な舌を持つ今話題の料理人フェラン・アドリアや、常連客からいつも新作料理を待ち望まれているシェフはどうなるだろう? クビになるのだろうか? いや、おそらくクビにはなるまい。(中略)三ツ星レストランのシェフであれ、自分はまだあらゆる可能性を試していないことを知り、創作意欲を沸き立たせることだろう。(『AI時代の勝者と敗者』 181~182ページ)
つまり、AIをうまく活用して、新たな作品を創造することが求められるということです。そしてそのためには、AIにできることはAIに任せ、人間にしかできないものは何か探すこと、そしてその仕事に注力することが今後重要となりそうです。
個々の適性に応じて、将来どんな仕事を担うことができそうか。今からどんな準備(リスキリング)をしたらよいか。本書にはそのヒントが詰まっています。また、経営者や管理職の方にとっては、AIと社員の役割分担・共存する職場環境について検討するうえでも参考になるはずです。
本書は2016年の刊行ですが、5つの仕事の選択肢は今日でも有効です。まだ読まれていない方には、迫りくるAI時代に備えて、ぜひ一度手に取っていただきたい良書です。
(編集部・油屋)
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「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。
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