
6月7日、「経済財政運営と改革の基本方針2022 新しい資本主義へ~課題解決を成長のエンジンに変え、持続可能な経済を実現~」(骨太方針2022)が閣議決定されました。
その中で、世間から注目され、メディアで多く取り上げられたものの1つが、“貯蓄から投資”を促す「資産所得倍増プラン」です。本計画には、国民の現金・預金を投資にシフトさせるために、NISA(少額投資非課税制度)やiDeCo(個人型確定拠出年金)の拡充・改革などが盛り込まれています(『経済財政運営と改革の基本方針2022』/内閣府)。
日本人は元来、資産運用に保守的と言われています。
日本銀行が発表している「家計の金融資産構成」のデータを見ると、米国では、国民の全金融資産のうち株式等が占める割合は37.8%。一方、日本のそれはわずか10.0%。現金・預金が金融資産の半分近く(54.3%)を占めています(『資金循環の日米欧比較』/日本銀行調査統計局)。しかし今後は、「資産所得倍増プラン」を受けて“貯蓄から投資”という気運が高まることが予想されます。
とはいえ、投資を始めるにしても何をすればいいのか、また、損をしないために何に気をつければいいのか、不安に思う人も少なくないでしょう。
そこで今回ご紹介したい書籍が、『投資の大原則 [第2版] 人生を豊かにするためのヒント』(バートン・マルキール、チャールズ・エリス/日本経済新聞出版社)です。
著者は、投資のバイブルである古典的名著『ウォール街のランダム・ウォーカー(原著第12版) 株式投資の不滅の真理』(バートン・マルキール/日本経済新聞出版社)と、『敗者のゲーム〈原著第6版〉』(チャールズ・エリス/日本経済新聞出版社)の執筆者です。
本書では、(投資家ではなく)一般の人が将来お金に困らないよう、「貯蓄と投資の大原則」をわかりやすく紹介しています。
例えば、貯蓄する上で重要なこととして、次のように述べています。
金持ちになる早道は簡単だ。支出を収入より少なくすること。そうすれば、もうあなたはお金を持っている。支出以上の収入があるのだから。
(『投資の大原則 [第2版]』29ページ)
「支出を収入より少なくすること」。当たり前のことですが、収入が支出よりも多いと、お金は貯まります。ただ、私たちはボーナスや臨時収入を得た時、普段は買わないようなものを買ってしまいがちです。また、お店で「特売」の文字を見た時などには、ついつい衝動買いをして無駄な支出をしてしまいます。本書は、そういうことを止め、節約する術を紹介しています。
彼らはまた、投資で得た利益を再投資すること(複利)の重要性も説きます。
ゆっくりと、しかし確実にお金を貯める秘訣は、再投資(複利)にある。
(『投資の大原則 [第2版]』35ページ)
この複利の効果を説明するに当たって、「72の法則」を紹介しています。72の法則とは、「X×Y=72」、つまりX(お金が2倍になる年数)とY(リターンの年率)を掛けると72になる式のことです。
たとえば、お金を10年で倍にするには、どのくらいのリターンが必要なのか。答えは、10×Y=72なので、Y=7.2%。
このルール72を使って、あるリターンのとき、自分のお金が倍になるには何年かかるかを計算できる。たとえば、8%のリターンがあるとして、資産が倍になるには何年かかるか。答えは、9年(72÷8=9)。簡単だ。(中略)
72の法則に注目すると、そこから見えるものはとても魅力的だ。10%のリターンなら7.2年で資産が倍になる。とすると、約15年で(正確に計算すると14.4年)資産は4倍(中略)にもなる。(『投資の大原則 [第2版]』36~37ページ)
複利での運用は、金利が高いほど、また期間が長いほど効果を発揮します。そのため、資産運用の上手い人は、複利の効果を最大限活用してお金を増やしています。
本書では他にも、おすすめの投資法や、損をしないためのルールなどが紹介されています。“大原則”と謳っている通り、内容は難しいものではありません。投資経験の有無にかかわらず、誰にでも実践できる手法ばかりです。
「老後の30年間で約2,000万円が不足する」という試算、いわゆる「老後2,000万円問題」が物議を醸したこともあり、現役のうちに資産形成をする必要性は高まっています(「「老後資金2,000万円問題」の解き方」/野村アセットマネジメント)。
マルキールとエリスも、本書の中で次のように記しています。
死ぬよりも辛いことがある。それは、退職後に備えて蓄えたお金以上に長生きすること。
(『投資の大原則 [第2版]』50ページ)
“人生100年時代”と言われる今日、投資をするにせよしないにせよ、投資の賢人たちが語る原則は知っておいて損はありません。ご自身の勉強用に、また若者世代への推薦書として、手に取ってみていただければ幸いです。
(編集部・油屋)
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「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。
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