2026.9.14

編集部:小村

悪化の一途をたどる日本の財政 長期金利の上昇は破綻をもたらす?

悪化の一途をたどる日本の財政 長期金利の上昇は破綻をもたらす?

 2026年9月1日、日本の長期金利が一時3%台まで上昇しました。1996年以来、実に30年ぶりの高水準です(「長期金利3%、30年ぶり水準 政府・企業に選別迫る」/日本経済新聞2026年9月2日)。

 金利の上昇は、私たちの暮らしや企業活動に様々な影響を及ぼします。身近なところでは、住宅ローンの利息負担の増加や、企業の資金調達コストの高まりなどが挙げられます。日本政府にとっては、国の借金である「国債」の利払い費が増えることになります。

 財務省の発表によれば、2027年度予算の概算要求では、国債の元本返済や利払いに充てる「国債費」が過去最大の36兆6386億円となりました。さらに、普通国債残高は増え続けており、2026年度末には約1145兆円に上ると見込まれています。

 

 日本の財政は大丈夫なのか――。私だけでなく、多くのビジネスパーソンが不安に思っていることでしょう。その答えを求めて、会社の書棚から手に取った1冊をご紹介します。

財政危機の原因は、規律の欠如にあり

 その本とは、一橋大学教授・佐藤主光氏による『日本の財政 ――破綻回避への5つの提言』(中央公論新社 刊)です。

 政府税制調査会委員などを歴任した佐藤氏が、日本の財政の現状や課題、その対策について、一般読者向けに解説した良書です。本書は2025年、政治経済・国際関係などの分野で優れた著作に贈られる「石橋湛山賞」(第46回)を受賞しています。

 

 佐藤氏は本書で、このまま国の借金がかさめば、いずれ財政が行き詰まり、社会保障や公共サービスが回らなくなる可能性があると警告します。

 では、なぜ日本の財政はここまで危機的な状況に陥ったのでしょうか。佐藤氏はその原因の1つとして「平時から財政規律が欠如してきたこと」を挙げています。

 

財政規律とは、緊縮財政ではなく、財政へのコントロールを意味する。つまり、非常時には財政の総額(規模)を機動的に高める一方、平時には元の水準に戻せることだ。我が国の財政は、このコントロールができていない。

(『日本の財政』 27~28ページ)

 

 財政をコントロールできていない一例として佐藤氏が挙げるのが、2022年から始まった「ガソリン補助金」です。政府は2023年9月末までとした期限を延長し続けました。また、今年3月には中東情勢などに伴う原油価格の高騰を受け、補助を再開しています。

 佐藤氏は、緊急措置としての補助金はやむを得ないが、節度なく期限を延長したりすることは財政状況を悪化させかねない、と述べています。

 国からの補助は、受ける側にとってはありがたい措置です。しかし、こうした補助によって財政が悪化し、国の信用が失われたり、将来世代に負担を先送りしたりすることになるのであれば、私たちは国にどこまで頼るべきか、考えなければならないでしょう。

財政破綻とは、どんな状態か

 財政規律の欠如などを背景に、先述のように普通国債残高は約1145兆円に達する見込みです。今後、長期金利の上昇などによって日本の財政状況が悪化し、「財政破綻」に陥ることはあり得るのでしょうか?

 もっとも、破綻したからといって民間企業のように国が売却されたり消えたりすることはない、と佐藤氏はいいます。財政破綻とは、次のような状態のことだそうです。

 

本書では、財政破綻を政府が資金のやり繰りに窮する状態、つまり、国債の借り替えや新規発行が難しくなり、現行の税負担や社会保障サービスを維持できないという意味で財政が持続しなくなる状態とする。

(『日本の財政』 92ページ)

 

 冒頭に述べた通り、金利が上昇すれば国債の利払い費は増え、国の支出はさらに膨らみます。その穴を埋めるために、政府は新たな国債発行、つまり借金をしなければなりません。こうした状況が続けば、どうなるでしょうか。

 金融市場で国債を買っている投資家や金融機関が、「自分たちが貸したお金は返ってくるのだろうか」と不安に思うようになり、国への信用が低下していくのです。そうすればまた金利が上昇し、国債の利払い費が増え…というふうに雪だるま式に借金が増えることになる、と佐藤氏は解説しています。

財政危機につながる「国債の未達」とは

 現在、金利は上昇傾向にありますが、財政危機につながるような金利の上昇は、「国債の未達」によって始まると佐藤氏はいいます。

 

未達とは投資家や金融機関からの応募額が発行額に満たず、国債が売れ残る状況だ。投資家が政府の返済能力に疑心暗鬼になったり、大規模災害、あるいは戦争などの有事が起きて、経済の復興に巨額な財政コストが見込まれる(中略)ことなどで起こりうる。

(『日本の財政』 93ページ)

 

 国債の未達は、にわかには起こり得ないことのように思えます。しかし個人的には、上記の引用にある「大規模災害」が引き金となり、国債が買われなくなる可能性もあるのではないかと感じています。

 8月31日公開の「今週のPick Up本」『M(マグニチュード)9地震に備えよ 南海トラフ・九州・北海道』(鎌田浩毅 著/PHP研究所 刊)をご紹介したように、日本では今後30年以内に、巨大地震が起きる可能性が高いといわれています。

 もし大地震によって日本各地で甚大な被害が生じ、「もう日本は復興できないのではないか…」と投資家や金融機関が疑うようになれば、国債の未達が起きるかもしれません。そう考えると、財政破綻は決して遠い国の出来事ではないといえるでしょう。

 長期金利の3%突破は、日本経済が新たな局面に入ったことを示しています。佐藤氏が本書で述べているように、これまで「何とかなってきた」ことが、今後もそうである保障はありません。これから起こり得る変化や課題を考えるうえで、『日本の財政』は最良の本だといえるでしょう。

 日々流れてくるニュースは、金利や税制といった個別の事象を扱っています。しかしその背後には、必ず「国の財政」という大きな構造が横たわっています。ビジネスパーソンにとって重要なのは、その構造を俯瞰する視点を持つことでしょう。

 そうしたマクロな視点を持つことで、変化の「兆し」を他の人よりも早く読み取れるかもしれません。これからの変化を先読みする視点を身につけたい方は、ぜひ本書を手に取ってみてください。

(編集部・小村)

*  *  *

 「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。

 

2024年8月号掲載

日本の財政 ――破綻回避への5つの提言

日本の財政が悪化の一途を辿っている。コロナ禍や資源価格の高騰を受けて大型の財政出動を行ったこともあり、2023年度の国債残高は1068兆円になるという。財政破綻の恐れはないのか。わが国の財政政策を検証し、危機的状況を示す。著者は言う。これまで「何とかなってきた」ことは、今後もそうであることは意味しない、と。

著 者:佐藤主光 出版社:中央公論新社(中公新書) 発行日:2024年5月
閉じる

ネット書店へのリンクにはアフィリエイトプログラムを利用しています。

このPick Up本を読んだ方は、
他にこんな記事にも興味を持たれています。

一覧ページに戻る