2026.6.29

編集部:福尾

ストレスを味方にすれば、もっと健康で幸せになれる! 最新研究が明らかにしたストレスの効用とは?

ストレスを味方にすれば、もっと健康で幸せになれる! 最新研究が明らかにしたストレスの効用とは?

 あっという間に2026年も折り返しを迎えました。『TOPPOINT』編集部のある京都では、6月30日に各神社で「夏越の祓(なごしのはらえ)」が行われます。
 境内に設けられた茅の輪(ちのわ)をくぐり、半年間の穢れや災厄を払い、残り半年の無病息災を願います。この時期になると、和菓子店には「水無月」が並びます。三角形の外郎(ういろう)の上に小豆をのせた京都の伝統菓子で、暑気払いと厄除けの意味が込められています。

 水無月を口にすると、「今年も半分が過ぎたのだな」「あと半年頑張ろう」と気持ちが切り替わります。夏越の祓は、単に災厄を払う行事ではなく、自分自身を見つめ直し、新たな気持ちで後半戦に臨むための節目でもあるのでしょう。

 さて、病気や災厄もさることながら、現代のビジネスパーソンにとって払いたい「穢れ」の代表格は、ストレスかもしれません。

 厚生労働省の2024年「労働安全衛生調査」によると、仕事や職業生活に関することで強い不安や悩み、ストレスを感じている労働者は68.3%にのぼります。強いストレスの内容を見ると、「仕事の量」「仕事の失敗や責任の発生」「仕事の質」が上位を占めていました。

 そうした状況の中で、私たちはつい「ストレスを減らそう」「ストレスをなくそう」と考えがちです。しかし、本当にそれが最善の方法なのでしょうか。
 その常識に一石を投じるのが、今週Pick Upする『スタンフォードのストレスを力に変える教科書』(ケリー・マクゴニガル 著/大和書房 刊)です。

 著者は、米スタンフォード大学で長年ストレス研究に携わってきた健康心理学者。本書は2015年の邦訳刊行以来、多くの読者のストレス観を変えてきたロングセラーです。

ストレスは本当に悪者なのか

 一般的にストレスは、心身を蝕む有害なものとして語られます。実際、「ストレスは万病のもと」といった言葉も広く浸透しています。しかし著者は、ストレスそのものよりも、「ストレスは有害だ」という思い込みのほうが問題だと指摘します。

 そのことを示す例として、本書では1998年にアメリカで約3万人の成人を対象に実施された調査を紹介しています。参加者には、どの程度ストレスを感じているかに加え、「ストレスは健康に悪いと思うか」という質問が行われました。
 それから8年後の追跡調査で判明したのは、興味深い事実です。
 ストレスを多く抱えている人の中で、「ストレスは健康に悪い」と考えていた人の死亡リスクは高まった一方、そう考えていなかった人の死亡リスクは上昇していませんでした。
 著者は次のように述べています。

 

「ストレスは健康に悪い」と思い込んだ場合に限って、ストレスは有害となる

(『スタンフォードのストレスを力に変える教科書』 17ページ)


 つまり、ストレスが人生に与える影響は、それをどう受け止めるかによって大きく変わるといえるでしょう。
 だからこそ著者は、ストレス対策の第一歩として、ストレスへの認識を改めることを勧めます。

 

ストレスを減らそう、避けようとするよりも、ストレスについての考え方を改めて、ストレスを受け入れることです。

(『スタンフォードのストレスを力に変える教科書』 23ページ)


 本書には、そのための具体的なエクササイズや実践法が、豊富な研究事例とともに紹介されています。

ストレス反応を味方につける

 本書で特に印象的なのが、「ストレス反応を味方につける」という考え方です。
 例えば、大切なプレゼンテーションの直前を想像してみてください。

 「心臓がドキドキする」「手のひらに汗をかく」「胃が締め付けられる」
 そんな反応が現れると、「どうしよう」と不安になるものです。しかし著者は、それらを危険信号ではなく、挑戦に向けた準備だと捉え直すよう勧めます。

 

ストレスによって生じるエネルギーは、行動を促すだけでなく、脳を活性化させます。アドレナリンの作用で五感が研ぎ澄まされ、瞳孔が大きく開いて光を取り込み、聴覚が鋭くなります。脳は情報を急速に処理します。注意散漫な状態はストップし、重要でないことは意識から外れます。

(『スタンフォードのストレスを力に変える教科書』 110ページ)

 
 つまりストレス反応は、本来、私たちの能力を引き出すための仕組みでもあります。
 さらに著者によれば、ストレスを経験した後、脳はその体験から学ぼうとします。神経回路を再編し、次に同様の困難に直面した際に、よりうまく対応できるよう準備するのです。こうした積み重ねが「レジリエンス」、すなわち逆境を乗り越える力を育てていくといいます。

 人は生きている限り、ストレスから完全に逃れることはできません。
 そうであれば必要なのは、ストレスを排除する技術ではなく、活用する技術なのかもしれません。

2026年下半期を前に見直したいストレスとの向き合い方

 2026年の前半を振り返ると、「もっと余裕を持てなかったか」「もう少し楽に働けなかったか」と感じる人もいるでしょう。

 もちろん、休息や支援を求めることも欠かせません。一方で、本書は「ストレスをゼロにすること」だけが解決策ではないと教えてくれます。
 「挑戦しているからこそ不安になる」
 「責任を負っているからこそ緊張する」
 「成長したいからこそプレッシャーを感じる」
 そう考えると、ストレスは単なる敵ではありません。自分が何か大切なことに本気で向き合っている証でもあります。

 例えばぶどうや桃といった果物は、適度な環境ストレスを受けることで甘みを増すといわれます。同じように、人もまた困難や緊張を経験することで成長し、人間としての深みを増していくのではないでしょうか。

 2026年下半期のスタートを前に、『スタンフォードのストレスを力に変える教科書』を読んで、ストレスとの付き合い方を見直してみてはいかがでしょうか。
 もしかすると、あなたを苦しめていると思っていたものが、実は前へ進むための力であることに気づくきっかけになるかもしれません。

(編集部・福尾)

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 「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。

2016年11月号掲載

スタンフォードのストレスを力に変える教科書

「ストレスは健康に悪い」。医師や心理学者をはじめ、多くの人がそう信じている。だが、実際はその「思い込み」によって、健康を害しているとしたら ―― ? スタンフォード大学の心理学者が、医学や心理学、神経科学の最新の知見を踏まえ、ストレスに関する誤解、心身にもたらす意外な効用などについて説く。

著 者:ケリー・マクゴニガル 出版社:大和書房 発行日:2015年11月
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