来週からお盆休みに入るという方も多いのではないでしょうか。帰省して墓参りをしたり、仏壇に手を合わせたりする機会も増えるでしょう。
ところで、ご自分の家の宗教や宗派をご存じでしょうか?
「よくわからない」という人も少なくないでしょう。一般的に、日本人は「自分は無宗教」と考える人が多いといわれています。それでも、多くの日本人はお盆や初詣、葬儀などの宗教的な慣習を大切にしています。なぜこうした行動を続けているのでしょうか。
SBNRとは
実は、この一見矛盾するような日本人の姿を理解する上で、参考になる考え方があります。それが、近年注目されている「SBNR」です。
このSBNRについて解説したビジネス書、『SBNRエコノミー 「心の豊かさ」の探求から生まれる新たなマーケット』(株式会社博報堂ストラテジックプラニング局 他編著/宣伝会議)によると、それは次のようなものです。
SBNRは「Spiritual But Not Religious(宗教的ではないがスピリチュアル)」の頭文字をとった略語で、「特定の宗教を信仰しているわけではないが、仕事・人間関係や暮らしの価値観・ライフスタイルにおいて精神的な豊かさを求める」人たちのこと
(『SBNRエコノミー』 30ページ)
著者らによれば、ここでいう「スピリチュアル」とは、心霊現象などを信じるという意味ではありません。目に見えない精神的な価値をもたらすものへの関心が非常に高いことを指すといいます。例えば、「ヨガを健康法として楽しんでいるけれど、宗教的な教えには関心がない」といった感覚を持つ人たちは、SBNR層に該当するのだそうです。
また、著者らの調査によると、日本人の約4割がこのSBNR層に当てはまるそうです。お盆の墓参りや初詣に加え、ヨガで心身を整えること、サウナでリラックスすること、自然の中で過ごすことなども、精神的な豊かさを求めるSBNR的な営みだといいます。
SBNRの実践:「脱・宗教」と「転・精神文化」
著者らの分析によれば、SBNRの取り組みは大きく2つに分けられるそうです。
1つは「脱・宗教」です。
「脱・宗教」とは、宗教や精神文化がかつて持っていた社会的な権威や地位が、世俗的な価値観や実践に置き換えられ、それが個人や社会の精神的充足のために用いられることを指します。
(『SBNRエコノミー』 113ページ)
日本では神道に由来する初詣や、キリスト教に由来するクリスマスが、宗教行事というより生活文化として広く親しまれています。こうした現象も脱・宗教の一例といえるでしょう。
本書では、この脱・宗教のポイントは、宗教の「苦行」を日常の「楽行」へと転換して、誰でも実践できるようにする点にあると説明されています。例えば、坐禅という宗教的な修行はマインドフルネスへと転換され、誰もが気軽に楽しめる体験へと姿を変えています。こうしたものを、著者らは脱・宗教と捉えています。
もう1つは「転・精神文化」です。
「転・精神文化」はもともと宗教的な行為ではなかったものに、宗教のルーツや考え方などを取り入れることで、より高い体験価値や効用を生み出し、日常行為をリチュアル化するというアプローチ。
(『SBNRエコノミー』 136ページ)
本書によれば、リチュアル化とは「日常を特別なものに変える」ということです。その例として、サウナを「ととのう体験」として楽しむことや、自分の好きな芸能人やキャラクターを応援する「推し活」などを挙げています。そしてSBNR層にとって、これらは単なる活動ではなく、日常を豊かにする特別な体験だと著者らは述べています。
SBNRをマーケティングに活かす
「無宗教なのに、お盆を大切にする日本人」。『SBNRエコノミー』は、この一見矛盾するように見える姿を、「SBNR」という概念を通してわかりやすく説明しています。また、マインドフルネスやサウナが近年注目されている背景には、「心を整えたい」「精神的な豊かさを得たい」という共通した価値観があることも示しています。
本書の魅力は、それを紹介するだけで終わらせない点です。SBNR層が何を求め、どのような体験に価値を感じるのかを分析し、商品開発やマーケティングへどう生かせるかまで具体的に示しています。
消費者が商品やサービスそのものだけでなく、そこで得られる体験や精神的な豊かさといった目に見えない価値を重視するようになった今、経営者やマーケターにとって多くの示唆を与えてくれる1冊です。まだお読みでない方は、ぜひ手に取ってみてください。
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なお、TOPPOINTライブラリーの「おすすめの特集」では、「お盆に知りたい日本の宗教」と題し、日本に根付いた宗教を解説した良書5冊をご紹介しています(2024年8月9日公開)。日本人の宗教観や精神文化の背景を知ることで、本書で語られるSBNRへの理解も一層深まるはずです。お盆休みに読む本を探している方は、是非こちらも併せてご覧ください。
(編集部・油屋)
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「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。
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