5月13日、ChatGPTの新しいバージョン、「GPT-4o」が発表されました。開発を手掛けたOpenAI社によると、GPT-4oは従来のものよりも音声や画像、映像による入力に素早く反応するようになった他、声のトーンを変えたり、スムーズな音声会話ができたりするそうです(「ChatGPTが、もっと“人間”らしく進化。OpenAIの最新モデル「GPT-4o」の実力」/WIRED 2024年5月14日)。
人と話しているかのように生成AIと会話する ―― 。映画やアニメのような世界がどんどん近づいてきていると感じます。
ビジネスでも、ChatGPTをはじめとした生成AIの利用が広がりつつあります。その一方で、様々なデメリットや懸念点も以前から指摘されています。
その1つが、「フェイクニュース」です。生成AIは言葉による指示で簡単に偽文書やフェイク画像などを作り出すことができます。例えば、ChatGPTはありもしない理論や学説などをでっち上げることがあります。また、生成AIの一種であるMidjourneyで作成された、トランプ前米大統領が警官に取り押さえられている画像などはSNS上で大量に拡散されました。
それだけではありません。情報技術の専門家である中央大学の岡嶋裕史教授は、著書『ChatGPTの全貌 何がすごくて、何が危険なのか?』(光文社 刊)の中で、言語を操るChatGPTに人間が操られる恐れがあると警鐘を鳴らしています。
ELIZA効果というのを耳にしたことがあると思う。コンピュータの動作が人間と似てるなあ、と感じてしまうことだ。(中略)
単にハードディスクへのアクセスに時間がかかっているだけなのに、「今迷ってるんだな」と感じたり、時間的局所性からアルゴリズムに従って選曲しただけなのに「ぼくのiPadは、ぼくの気分をわかってくれてるんだ!」などとすくいとってしまう。
iPhoneやiPadでこうなのだ。言語を操るGPTシリーズなどにかかれば、赤子の手をひねるように転がされてしまうだろう。(『ChatGPTの全貌』130~131ページ)
今後、「GPT-4o」のように生成AIが人と比べても遜色ない反応を返すようになり、クオリティの高い動画や画像を作成するようになれば、情報の受け手が誤回答を見抜くことはより困難となるでしょう。そうした誤った情報に騙されないために、今回のPick Up本では、「デタラメ」な情報の中から真実を見抜く方法を説いた『デタラメ データ社会の噓を見抜く』(カール・T・バーグストローム 他著/日経BP・日本経済新聞出版本部 刊)を取り上げます。
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生成AIによるものに限らず、世の中にはフェイクニュースが多数存在しています。著者らは本書の「はじめに」で、次のように述べています。
世の中には事実ではない情報がたくさん出まわっている。下手すれば、私たちはデタラメの海で溺れてしまう。
政治家は事実など、どこ吹く風だ。科学はプレスリリースだけが一人歩きする。(中略)デタラメの海で溺れそうな私たちに接近してくるのが、広告業界だ。騙されてはいけませんよと甘く囁き、つい警戒心をゆるめた私たちが今度は彼らのデタラメにハマってしまうという悪循環だ。(『デタラメ』3ページ)
広告に関していえば、近頃、FacebookやInstagramに掲載されている“なりすまし広告”(実業家の前澤友作氏や堀江貴文氏などの有名人・投資家を装い、嘘の投資の勧誘を行う広告)が問題となっています。警察庁によると、こうしたSNSを悪用した投資名目の詐欺の被害額が、今年1月からの3カ月で279億円に上るといいます(「SNS悪用 投資名目などの詐欺被害額 3か月で279億円超に 警察庁」/NHK NEWS WEB 2024年5月16日)。
このようなデタラメな情報に騙されないために、どう注意をすべきなのでしょうか。
著者らはその方法の1つとして、ジャーナリストのように「情報源に疑問を持つ」ことをすすめます。
ジャーナリストはどんな情報についても、次の問いかけをするように叩き込まれている。
誰が私にこれを伝えているのか?
その人はどうやってそれを知ったのか?
その人は私に何を売り込もうとしているのか?(『デタラメ』336ページ)
ジャーナリストは物事の本質を見抜き、人々に真実を伝えることが仕事です。AIの進歩により、なりすまし広告などもどんどん高度化する中、騙されないためには上記3つの問いかけを自分に行うことを習慣にする必要があるでしょう。
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著者らはまた、オンライン上のデタラメに騙されないために、次のような技を磨いておく必要があると言います。
1 裏付けを取り、別の視点から確認する。これまで聞いたことのない情報源から驚くべき情報や大ニュースが発信されたら、同様の情報を検索エンジンで探してみる。見つからなければ、かなり怪しい。(中略)
2 どこから出た情報なのかを確認する。(中略)誰が投稿したのかもわからない、情報源も書いていない、そんなファクトイド(擬似事実)、統計、グラフをソーシャルメディアでシェアするのは危険なのに、私たちは平気でやってしまう。(以下略)(『デタラメ』360ページ)
情報の裏付けを取ることは、情報を得る時だけでなく発信する時にも気を付けておきたいポイントです。特にSNSでは簡単に情報の「シェア」が行えます。ただ「話題になっているから」「面白いから」と気軽にシェアすることで、図らずも誤情報の拡散に協力してしまうことになりかねません。デタラメな情報がどんどん巧妙化していく中、騙されないためには少し立ち止まって考える習慣が欠かせないでしょう。
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このようなテクニックの数々が本書では紹介されているのですが、そのどれもが難しいものではなく、誰でも身につけられるものばかりです。それでも「デタラメ」に騙されてしまう人が絶えないのは、きっと「自分は大丈夫」だと信じている人が多いからなのかもしれません。
その意味で本書は、「生成AIには騙されない」「情報を正しく見る目を持っている」という自信をお持ちの方に、特に一読をおすすめしたい1冊です。
(編集部・油屋)
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「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。
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