「何か面白い本、ない?」
先日、久しぶりに会った友人からこう尋ねられました。
友人に限らず、この仕事をしていると、あらゆる場面でそう聞かれます。
でも、正直この質問、答えるのがなかなか難しいものです。
相手の読書量も、興味のあるジャンルもわからないことがほとんどです。それに、せっかく薦めるなら最後まで読んでほしいし、読了後には「読んでよかった」と思ってほしい ―― そんなプレッシャーもあります。
そこで私は、いくつかのビジネス書を候補として挙げるようにしています。その中で、ほぼ毎回紹介する本があります。それが今回取り上げる、『上杉鷹山の経営学 危機を乗り切るリーダーの条件』(童門冬二 著/PHP研究所 刊)です。
なぜ『上杉鷹山の経営学』を薦めるのか
『上杉鷹山の経営学』を薦める理由はいくつかあります。
1つは、前提知識がなくても読みやすいことです。
著者の童門冬二(ふゆじ)氏は、戦国武将から幕末の志士まで、多彩な人物を題材にしてきた作家で、どの作品も当時の情景や人間模様が丁寧に描かれています。そのため、歴史に詳しくない人でもスッと読めるのが特徴です。
さらに本書は、文庫で約220ページとコンパクトなので、途中で挫折しにくいのもポイントです。
また、現代のビジネスに活かせる知恵が学べることも魅力です。
本書の主人公は、江戸時代の名君・上杉鷹山(1751-1822)。深刻な財政危機に陥っていた米沢藩(現在の山形県米沢市)を、数々の改革によって見事に立て直した人物です。
その卓越した経営手腕は、キリスト教思想家の内村鑑三が『代表的日本人』で、日本に影響を及ぼした指導者の1人として紹介していることや、アメリカ大統領のジョン・F・ケネディが「尊敬する日本人」として名を挙げていることからも伺えます。
『上杉鷹山の経営学』では、藩の改革を成し遂げるため、鷹山が領民や家臣の意識をどのように変え、改革を推し進めていったのかが具体的に描かれています。そこで示される知恵は、時代を超えて、現代にも通用するものが少なくありません。
愛と信頼の名経営者
例えば鷹山は、米沢藩の経営改革を行うにあたり、「改革は、愛といたわりがなくてはならない」という基本理念を掲げていたと、童門氏はいいます。
鷹山は、「経営改革の目的は、領民(おとくいさん)を富ませるためである」と明言し、その方法展開は、「愛と信頼」でおこなおうとしたのだ。
(『上杉鷹山の経営学』 18ページ)
そのうえで、部下を導く際に重視していたのが、次のような姿勢です。
鷹山の人間管理の原則は、「してみせて、言って聞かせて、させてみる」というものであった。何につけても理屈だけではない、よくその趣旨を説明し、趣旨を分かってもらったところで、今度は自分が実行してやってみせる、手本を見せてそれに従わせるというのが鷹山の方針であった。
そして、自分に出来ないことは、正直に自分の限界を示し、出来る者に協力してほしいと頼むのである。(『上杉鷹山の経営学』 129ページ)
一見すると当たり前のようにも思える考え方ですが、これを実践するのは簡単なことではありません。とりわけ、立場が上がるほど「自分ができなければならない」「弱みを見せてはいけない」と考えがちではないでしょうか。
だからこそ、鷹山の姿勢は示唆に富んでいます。
人を動かすとは、命じることではなく、まず自ら動くこと。そして、自分に出来ないことは素直に認め、周囲の力を借りること ―― 。
こうした行動の積み重ねが、部下からの信頼につながるのだと教えてくれます。
また本書によれば、上杉鷹山は数々の改革を断行する一方で、身体障がい者への虐待を禁じたり、保育手当を支給したりと、領内の弱い立場にある人々への支援にも力を注いだといいます。
単に財政を立て直すだけでなく、また力で押し切るのでもなく、「誰のための改革なのか」を見失わなかった点に、鷹山のリーダーとしての本質が表れています。
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「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」
ドイツの鉄血宰相オットー・フォン・ビスマルクのこの言葉の通り、歴史に学ぶことで、多くの経験を疑似的に得ることができます。
『上杉鷹山の経営学』からは、単なる歴史のエピソードではなく、「危機を乗り切るリーダーの条件」を学ぶことができます。さらに、今の仕事やチームの見方に新しい視点をもたらしてくれる点も、ロングセラーとして読み継がれている理由の1つでしょう。
「本を読んだ方がいいとは思っていても、何を読めばいいかわからない」 ―― 。そんな時には、こうした“読みやすくて、学びもある1冊”から手に取ってみてはいかがでしょうか。新年度を迎え、新たな部下を持つことになった方にとっても、多くの示唆を与えてくれるはずです。
(編集部・油屋)
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「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。
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