悪化する日中関係
日中関係が悪化しています。
高市早苗総理の「台湾有事」関連の発言をきっかけに、中国側からは様々な措置が相次いでなされました。日本への渡航自粛の呼びかけや、日本産水産物の輸入禁止、中国国内での日本映画の公開延期や、日本人ミュージシャンのコンサートでの突然の中断…。
最近では、レアアースを含む軍民両用物資の対日輸出規制も始まるなど、中国側の対応はエスカレートを続けています。
なぜ中国は、これほど強硬な立場を取り続けるのか。
今週は、その理由が見える本、『習近平政権の権力構造 1人が14億人を統べる理由』(桃井裕理、日本経済新聞社データビジュアルセンター 著/日経BP 刊)をPick Upします。
2027年の「奮闘目標」
先述の高市総理の発言への中国の過剰な反応からは、中国にとっての台湾問題の重大さがうかがえます。『習近平政権の権力構造』は、台湾を中国に組み入れる「中台統一」が中国共産党の「1丁目1番地」であると指摘し、こう書いています。
中国共産党には、「2つの100年」という奮闘目標がある。1つは、「中国共産党建党100年」に当たる2021年、2つ目は「新中国建国100年」となる2049年をめざした目標だ。(中略)
習氏は、(中略)「中台統一」を「中華民族の偉大な復興」や「中国の夢」と直接結びつけた。「中華民族の偉大な復興」や「中国の夢」は、中国共産党においては「建国100年の奮闘目標」と重なる。習氏はこう語った。(中略)
「中華民族の偉大な復興の過程において、台湾同胞は当然、欠かすことができない」
これらの言葉は、中国が「社会主義現代化強国」を実現した2049年、「中国の夢」の実現を祝う場に台湾も共にあることを強く示唆している。
(『習近平政権の権力構造』 244・249ページ)
ただ、2049年といえばまだ20年以上も先の話です。今日の台湾をめぐる習氏の強硬姿勢を読み解くに当たって、もう少し時間軸の近いものはないのでしょうか。
本書は、この疑問について、さらにもう1つの視点を提供しています。
中国には中国共産党が掲げる「2つの100年奮闘目標」に加え、もう1つの100年目標がある。人民解放軍の建軍100年に当たる2027年に向けた「建軍100年の奮闘目標」だ。(中略)
しかし、不思議なことに、一度も「建軍100年の奮闘目標」の具体的な内容は明らかにされたことはない。2027年は、習氏の3期目政権の最終年にも当たる節目の年だ。いったい、習氏はそこで何を実現しようとしているのか。(中略)
習氏は決して台湾の武力侵攻を決めたわけではない。しかし、2049年の「建国100年」や2035年の目標よりもずっと早い建軍100年の2027年の段階で、「いざという時にはいつでも台湾侵攻ができる実力」を手にいれることを決めた可能性が高い。
(『習近平政権の権力構造』 258~260ページ)
2026年になった今、改めて読むと、この指摘は非常に重いものと言わざるを得ません。1年後には習近平政権の3期目が終わりを迎え、かつ、「台湾侵攻ができる実力」を身につける期限が来る、と考えると、日本側の動きいかんにかかわらず、台湾をめぐって何らかの大きな動きがあっても不思議ではありません。
等身大の台湾統一方針
一方で本書は、台湾侵攻に関して、次のようにも書いています。
武力侵攻とそれに続く台湾の都市や人々の制圧、占領は、現実には非常に難易度が高い。中国にとっても、「平和的な手法で統一を果たしたい」というのは偽らざる本音だ。
(『習近平政権の権力構造』 250ページ)
中国共産党の使命は、台湾を焦土にすることではない。「台湾が独立を強行する」「習政権が崩壊寸前に追い込まれる」など特殊な状況にならない限り、台湾侵攻が早期に起こる蓋然性は極めて低いといえるだろう。
(『習近平政権の権力構造』 274ページ)
現状、台湾は独立を強行しているわけではありませんし、中国も国内経済が低調とはいえ、習政権が崩壊寸前になっているような状況にはありません。だとすると、台湾侵攻自体を過剰に警戒する必要はないといえそうです。
日本としては、理不尽な経済的威圧には抗議の声を上げた上で、米国などと連携し、中国が「いざという時にはいつでも台湾侵攻ができる実力」を手に入れることを牽制していくのが重要となるでしょう。2026年は、その行く末を決める大事な年になるかもしれません。
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本書が扱う内容は、もちろん台湾問題にとどまりません。習氏があらゆる権限を一手に握る体制をいかに作ったかや、今後の中国の対世界戦略などについて、幅広く分析しています。綿密な取材に基づいたその内容は、習近平政権下の中国を理解する上で好適な本といえるでしょう。
日中関係が難しい局面を迎えている今こそ、改めて読みたい1冊です。
(編集部・西田)
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「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。
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