やめることの価値
2025年も残り3日となりました。
今年のうちに、大掃除を予定している方も多いのではないでしょうか。
気づかないうちに溜まった汚れを落とし、不要なものは片づけて、新たな気持ちで新年を迎える…。
年末の大掃除は、捨てることの大切さを再確認するいい機会です。
そして、その大切さが当てはまるのは、掃除だけではありません。
趣味や仕事、人間関係などで、どうしても必要ではないけれど何となく続けている、というものはないでしょうか?
一度始めたことをやめるのは難しいもの。ですが、時にはその決断がよりよい結果につながることもあります。
今週は、そうした「やめることの価値」について教えてくれる本、『QUITTING やめる力 最良の人生戦略』(ジュリア・ケラー 著/日経BP・日本経済新聞出版 刊)をPick Upします。
「石の上にも3年」「継続は力なり」など、やめずに続けることの価値を説く言葉は少なくありません。『QUITTING やめる力』は、この考え方を見直すことを説いた書です。
例えば本書では、動物の生存戦略を取り上げ、こう書いています。
動物たちは、生き延びるという唯一の目標に従って生きている。ある行動がうまくいかなかったり、食べ物を得られなかったりしたら、迷わず、すぐにやめる。それが、生きるために必要だからだ。無駄なことにエネルギーを費やせば、疲れて肉食動物に狙われやすくなってしまう。これは私たち人間にとっても同じなはずだ。つまり、うまくいっていない戦略はすぐに見直し、必要に応じて軌道修正していくことで、最高の結果が得られるはずなのだ。
(『QUITTING やめる力』 14~15ページ)
この理論は、非常にわかりやすいものです。
では、この説明を聞いて、不要なことはどんどんやめようと思うでしょうか?
おそらく、そうはならないでしょう。「そうは言っても…」と、これまで通り続ける方が多いのではないでしょうか。なぜなら、私たちには、「やめることはよくないこと」という考え方が根強く存在しているのです。
『自助論』の影響
では、なぜほかの動物と違い、人間にはこうした考え方があるのでしょうか。
本書が説くのは、19世紀の英国の作家、スマイルズの影響です。「天は自ら助くる者を助く」で有名な『自助論』は彼の代表的著作であり、自己啓発の古典的名著として長く読み継がれています。
『自助論』において、スマイルズは様々な成功者の伝記を繙いています。
曰く、ニュートンは研究への没頭と根気強さのおかげで、大学者としての名声を勝ち得た。曰く、名バイオリニストのジアルディーニは、20年間、1日12時間の練習を欠かさ
なかった…。こうしたことを通じ、スマイルズは「偉大な成果は、決して一瞬のうちに得られるものではない」と語っています。
この本は大評判となり、人々は先を争って買い求めたといいます。
では、スマイルズの何が問題なのか。『QUITTING やめる力』は、その結果、ある思想が世の中に浸透したと説きます。
『自助論』に登場する人々の物語はどれも、「運命は自分自身の手のなかにある」というメッセージを伝えている。お金持ちにも権力者にもなれず、現状に満足していないのなら、それはこの本に登場する人々のような努力が足りないからだ。汗も流さず、犠牲も払っていなければ成功はない。行動すれば運は引き寄せられる。誰かのせいにしてはダメだ、と。
(『QUITTING やめる力』 115~116ページ)
当時の英国は、産業革命によって一握りの人が莫大な富を築く一方で、大半の人は貧困にあえいでいました。そうした状況下で『自助論』は、偉人たちの成功物語を提供することによって読者を刺激し、意欲を高める役割を果たしたのです。
貧富の差は貧しい者自身のせいであり、富裕層のせいではない。両者を分けるのは努力の有無であり、幸せで有意義な人生を送るには自助努力を続けることが必要だ――。
この考えは、今日に至るまで支配的であり続けています。
こうした風潮が100年以上かけて社会に根づいてきた以上、「続ける」ことが正義であり、「やめる」ことは落伍であると考えてしまうのも不思議ではないでしょう。
うまく「やめる」
では、そうした風潮の中でもうまく「やめる」ためにはどうすれば良いのでしょうか。
『QUITTING やめる力』では、様々な方法が紹介されています。
その1つは、自分自身にこう問いかけること。
こう自問してみてほしい。
「もし、誰かに根性なしと呼ばれたとして、それで何か不都合はあるんだろうか?」
「やめること」を失敗と同一視するのではなく、別の視点でとらえるようになれば、新しい可能性が見えてくるはずだ。
(『QUITTING やめる力』 315~316ページ)
このようにして他者の視点を取り去ってみると、今続けていることが本当に自分にとって良いことなのか、冷静に判断できるのではないでしょうか。
*
新年の抱負というと、多くの人は「何をやるか」に焦点を当てるかと思います。
ですが、『QUITTING やめる力』を読むと、もう1つの道もあることがわかります。
このお正月は、「何をやめるか」という観点から、2026年の目標を考えてみてもいいかもしれません。
(編集部・西田)
* * *
「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。
このPick Up本を読んだ方は、
他にこんな記事にも興味を持たれています。
-
緊張が高まりつつある台湾と中国 1世紀にわたる歴史から、両者の複雑な事情を探る
-
『孫子』と『戦争論』 戦略・戦術を論じた不朽の名著を通じて戦争について今一度考える
-
天才は「学習の産物」 古今東西の偉人に学習の極意を学ぶ