2025.12.29

編集部:西田

今こそ心の大掃除 「捨てる」「やめる」ことの力を説く

今こそ心の大掃除 「捨てる」「やめる」ことの力を説く

やめることの価値

 2025年も残り3日となりました。

 今年のうちに、大掃除を予定している方も多いのではないでしょうか。

 気づかないうちに溜まった汚れを落とし、不要なものは片づけて、新たな気持ちで新年を迎える…。

 年末の大掃除は、捨てることの大切さを再確認するいい機会です。

 

 そして、その大切さが当てはまるのは、掃除だけではありません。

 趣味や仕事、人間関係などで、どうしても必要ではないけれど何となく続けている、というものはないでしょうか?

 一度始めたことをやめるのは難しいもの。ですが、時にはその決断がよりよい結果につながることもあります。

 今週は、そうした「やめることの価値」について教えてくれる本、『QUITTING やめる力 最良の人生戦略』(ジュリア・ケラー 著/日経BP・日本経済新聞出版 刊)をPick Upします。

 

 「石の上にも3年」「継続は力なり」など、やめずに続けることの価値を説く言葉は少なくありません。『QUITTING やめる力』は、この考え方を見直すことを説いた書です。

 例えば本書では、動物の生存戦略を取り上げ、こう書いています。

 

動物たちは、生き延びるという唯一の目標に従って生きている。ある行動がうまくいかなかったり、食べ物を得られなかったりしたら、迷わず、すぐにやめる。それが、生きるために必要だからだ。無駄なことにエネルギーを費やせば、疲れて肉食動物に狙われやすくなってしまう。これは私たち人間にとっても同じなはずだ。つまり、うまくいっていない戦略はすぐに見直し、必要に応じて軌道修正していくことで、最高の結果が得られるはずなのだ。

(『QUITTING やめる力』 14~15ページ)

 

 この理論は、非常にわかりやすいものです。

 では、この説明を聞いて、不要なことはどんどんやめようと思うでしょうか?

 おそらく、そうはならないでしょう。「そうは言っても…」と、これまで通り続ける方が多いのではないでしょうか。なぜなら、私たちには、「やめることはよくないこと」という考え方が根強く存在しているのです。

 

『自助論』の影響

 では、なぜほかの動物と違い、人間にはこうした考え方があるのでしょうか。

 本書が説くのは、19世紀の英国の作家、スマイルズの影響です。「天は自ら助くる者を助く」で有名な『自助論』は彼の代表的著作であり、自己啓発の古典的名著として長く読み継がれています。

 『自助論』において、スマイルズは様々な成功者の伝記を繙いています。

 曰く、ニュートンは研究への没頭と根気強さのおかげで、大学者としての名声を勝ち得た。曰く、名バイオリニストのジアルディーニは、20年間、1日12時間の練習を欠かさ

なかった…。こうしたことを通じ、スマイルズは「偉大な成果は、決して一瞬のうちに得られるものではない」と語っています。

 

 この本は大評判となり、人々は先を争って買い求めたといいます。

 では、スマイルズの何が問題なのか。『QUITTING やめる力』は、その結果、ある思想が世の中に浸透したと説きます。

 

『自助論』に登場する人々の物語はどれも、「運命は自分自身の手のなかにある」というメッセージを伝えている。お金持ちにも権力者にもなれず、現状に満足していないのなら、それはこの本に登場する人々のような努力が足りないからだ。汗も流さず、犠牲も払っていなければ成功はない。行動すれば運は引き寄せられる。誰かのせいにしてはダメだ、と。

(『QUITTING やめる力』 115~116ページ)

 

 当時の英国は、産業革命によって一握りの人が莫大な富を築く一方で、大半の人は貧困にあえいでいました。そうした状況下で『自助論』は、偉人たちの成功物語を提供することによって読者を刺激し、意欲を高める役割を果たしたのです。

 貧富の差は貧しい者自身のせいであり、富裕層のせいではない。両者を分けるのは努力の有無であり、幸せで有意義な人生を送るには自助努力を続けることが必要だ――。

 

 この考えは、今日に至るまで支配的であり続けています。

 こうした風潮が100年以上かけて社会に根づいてきた以上、「続ける」ことが正義であり、「やめる」ことは落伍であると考えてしまうのも不思議ではないでしょう。

うまく「やめる」

 では、そうした風潮の中でもうまく「やめる」ためにはどうすれば良いのでしょうか。

 『QUITTING やめる力』では、様々な方法が紹介されています。

 その1つは、自分自身にこう問いかけること。

 

こう自問してみてほしい。

「もし、誰かに根性なしと呼ばれたとして、それで何か不都合はあるんだろうか?」

「やめること」を失敗と同一視するのではなく、別の視点でとらえるようになれば、新しい可能性が見えてくるはずだ。

(『QUITTING やめる力』 315~316ページ)

 

 このようにして他者の視点を取り去ってみると、今続けていることが本当に自分にとって良いことなのか、冷静に判断できるのではないでしょうか。

 新年の抱負というと、多くの人は「何をやるか」に焦点を当てるかと思います。

 ですが、『QUITTING やめる力』を読むと、もう1つの道もあることがわかります。

 このお正月は、「何をやめるか」という観点から、2026年の目標を考えてみてもいいかもしれません。

(編集部・西田)

*  *  *

 「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。

 

2023年7月号掲載

QUITTING やめる力 最良の人生戦略

仕事、勉強、結婚…。辛くても続けた方がよいか、やめた方がよいか。多くの場合、何かを「やめること」は否定的に捉えられる。努力が足りないのだ、と。だが、あきらめることで、人生が劇的によくなる! その理由や、「やめる力」のつけ方を、科学的知見やスポーツ選手の事例などを引きつつ、米国人ジャーナリストが説く。

著 者:ジュリア・ケラー 出版社:日経BP・日本経済新聞出版 発行日:2023年5月
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