日々の仕事に追われる中、「このままで本当にいいのだろうか」と立ち止まりたくなる瞬間はありませんか?
かつて私自身も、そんな迷いの中にいました。仕事は嫌いではない。むしろやりがいを感じていた。けれど、結婚・出産・育児と生活が変わるにつれて、「今までと同じ働き方は続けられない」と思い悩むことも増えていったのです。
そんな時に出会ったのが、『静かな働き方 「ほどよい」仕事でじぶん時間を取り戻す』(シモーヌ・ストルゾフ 著/日経BP・日本経済新聞出版 刊)でした。慌ただしい日常の中で、自分にとって本当に大切なものを見つめ直す ―― そんな“静かな時間”をくれる1冊です。
現代に広がるワーキズム(仕事主義)
パソコン、スマホ、生成AI…。私たちの仕事環境はますます効率化されているのにもかかわらず、タスクを片付けても、片付けても、すぐに次のタスクがやってくる。TODOリストが永遠に終わらないような感覚に、心が疲弊していませんか?
仕事は楽しくて、やりがいもある一方で、「なんでこんなに頑張っているんだろう」と、ふと虚しさに襲われる。 ―― そんなモヤモヤは、行き過ぎた「ワーキズム(仕事主義)」の現れだと本書は指摘します。
ホワイトカラーの労働者にとって仕事は宗教的なアイデンティティに近いものとなっている。仕事は給料だけでなく、人生の意味や目的、コミュニティへの帰属意識をもたらすものとなっているのだ。
(『静かな働き方』 12ページ)
アメリカのホワイトカラーを中心に広がっているというワーキズムという概念。日本でも「ワーカホリック」や「社畜」という言葉があるように、決して無縁ではないように思います。
「好きなことを仕事にしよう」「仕事に情熱を」という、一見ポジティブに思えるスローガンが、知らぬ間に私たちを縛っている可能性もあるのです。著者は、「仕事に満足感を求めすぎれば、失望や燃え尽き症候群につながる」と警鐘を鳴らします。
「ほどよく働く」という知恵
とはいえ、仕事を否定する必要はありません。大切なのは、自分にとって「ちょうどいい働き方」を見つけることだと著者は言います。本書はそのヒントを「ほどよい」という言葉に込めています。
「ほどよい」は仕事で得られるものを美化することもなければ、仕事を絶え間ない苦行であるとするものでもない。「ほどよい」は、あなたなりの「足るを知る」ことを勧めている。あなたの価値は仕事で決まるのではなく、人生における仕事の役割はあなた自身で決められることを示しているのだ。
(『静かな働き方』 21ページ)
この考え方は、単なる理想論ではありません。本書では、ミシュランシェフ、ウォール街の銀行家、Googleの駐車場で寝起きしていたエンジニアなど、かつて“仕事に人生を捧げていた人々”が、自らの働き方を問い直していく実例が語られます。
彼らのストーリーを追ううちに、自分自身の働き方も、まるで写し鏡のように浮かび上がってくるのです。
さらば、仕事中心の生活
私もまた、本書を通して「自分の価値は仕事で決まるわけではない」という、あまりにシンプルで、しかし見落としがちな事実に気づかされました。そして「今の自分にとって“ほどよい働き方”に変えることは、決して“逃げ”ではない」と思えるようになったのです。著者は、仕事との関係づくりを次のように語ります。
仕事との関係づくりは1日で終わるものではない。「1時間残業しようか」とか「休みだけどメールをチェックしようか」と頭によぎるたびに向き合わなければならない問題なのだ。
(『静かな働き方』 24ページ)
私たちの働き方は、一度決めたら終わりではありません。生活の変化に応じて、何度でも見直していい。むしろ、そうあるべきなのです。
『静かな働き方』は、働く意味を見失いかけているビジネスパーソンに、読んでほしい1冊です。夏休みやお盆休みなどで一息つけるこの時期に、仕事との関係を見直してみてはいかがでしょうか。仕事を軸に生活するのではなく、生活を軸に仕事をする。その一歩を踏み出すきっかけになるかもしれません。
(編集部・福尾)
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