2025.12.15

編集部:油屋

なぜ年越し蕎麦? なぜ冬至にカボチャ? 日本の食文化の由来を専門家に学ぶ

なぜ年越し蕎麦? なぜ冬至にカボチャ? 日本の食文化の由来を専門家に学ぶ

 年末年始は、いつもより和食を味わう機会が増える時期です。おせち料理や鍋料理などを楽しみにしている方も多いのではないでしょうか。
 しかし、その由来や背景を深く知る機会は、意外と多くないかもしれません。
 そこで今回は、農学者の小泉武夫氏の著書『食と日本人の知恵』(岩波書店 刊)をご紹介します。日本人が創造してきた、様々な“食”にまつわる知恵をわかりやすく紐解いた本です。

年越し蕎麦(そば)はなぜ食べる?

 年末に食べる代表的な料理といえば、「蕎麦」です。
 著者の小泉氏によれば、蕎麦を今のように麺状で食べ始めたのは江戸時代初期、小麦粉をつなぎに入れる技法が広まってからだといいます。それ以前の日本人は、蕎麦を粒のまま煮て食べたり、粉を熱湯でこねて蕎麦がきにしたりしていたそうです。
 そんな蕎麦は、非常に栄養価値の高い食べ物でもあります。小泉氏は次のように述べています。

 

小麦よりもタンパク質が多く、アミノ酸の構成も良質であるうえに、ビタミンではB1やB2が豊富で、中でもビタミンP(毛細血管の透過性を正常に維持する重要な作用を持つ)のひとつであるルチンが極めて多く含まれている。

(『食と日本人の知恵』 24~25ページ)


 また、蕎麦には「五臓の停滞物を除く」という言い伝えがあり、旧年の穢れを払うために年末に食べるようになった、とも氏は述べています。こうした由来を知ると、今年の年越し蕎麦がいつもより少し特別に感じられるかもしれません。

冬至にカボチャを食べる理由

 季節に根づく食の知恵は、年越し蕎麦だけではありません。
 来週12月22日(月)に迫った「冬至」は、1年のうちで最も昼が短く、夜が長くなる日です。この日には、カボチャを食べたり、ゆず湯に入ったりするという習わしが今も残っています。
 冬至にカボチャを食べる理由には、昔から「“ん”が2つ付く食べ物を3つ食べると中風(現在の脳卒中)にならない」という言い伝えがあり、きんかん、れんこん、はんぺんなどと並んで、「なんきん(南瓜)」もその1つと考えられてきたことがあるそうです。そのため、煮物や味噌汁の具など、様々な形でこの時期に食べられてきました。
 しかし著者は、その背景には、より理に適った知恵があると述べています。

 

カボチャは有色野菜の代表的なもののひとつで、野菜がほとんどとれなくなるこの時期には、貴重な栄養食品となる。(中略)

何といってもビタミンAの含有量は抜群である。ビタミンAは動物の成長、皮膚や粘膜組織の保護、視力の正常化(特に夜盲症)などに関係するビタミンで、人間にとって極めて重要なものである。

(『食と日本人の知恵』 26~27ページ)

 

 寒さが深まるこの時期は体調を崩しやすく、また日が短くなることで目も疲れやすくなります。そんな季節に食べるカボチャ料理は、非常に合理的な食事といえます。
 無病息災を願いながら、冬に不足しがちな栄養を無理なく補うことができる ―― まさに、先人の知恵にかなった食習慣ではないでしょうか。

熱燗(あつかん)のススメ

 寒さが募るこの時期、日本酒を熱燗で楽しむ方も多いのではないでしょうか。
 熱燗とは、日本酒を主に50℃前後に温めた飲み方で、平安時代には季節に応じて燗をしていたといわれています。著者によれば、寒い時に早く体が温まるようにしたのが第一の理由だろうといいます。
 さらに著者は、熱燗には“酒飲みの知恵”ともいえる、次のような目的があると説明します。

 

酒飲みの知恵から生まれた酔いの速さと深さのコントロールである。
冷酒は口当たりが良いから、ついついピッチも速くなり、短時間に多くの量の酒が体に入る。そのため酔いが飲酒量に追いつかず、しばらくしてから急激にくるから「冷酒と親の意見は後から効く」などと皮肉のひとつもいわれることになる。
これが燗酒だと、アルコールが鼻にきつく感じ、また味も強く感じるから、そう急激に飲めず、ついつい、チビリチビリということになる。このような飲み方であると飲酒の速度と酔いのきかたがよくかみ合って、突然に深酔い気分になることはない。すなわち、燗をすることによって、飲む間隔と酔いの速度とをうまくコントロールしているわけである。

(『食と日本人の知恵』 214~215ページ)


 年末は会食や納会などでお酒を飲む機会が増える季節です。楽しい場ではつい飲みすぎてしまうという方は、先人の知恵が詰まった熱燗を注文し、ゆっくり味わってみるのも良いかもしれません。

 『食と日本人の知恵』にはこの他にも、漬物や巻き寿司など、食にまつわる日本人の知恵が数多く紹介されています。年の瀬に、日本の食文化とそこに宿る知恵を見つめ直すきっかけに、ぜひ手に取っていただきたい本です。

(編集部・油屋)

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 「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。

2014年6月号掲載

食と日本人の知恵

春夏秋冬の四季がある、山紫水明の国日本では、独自の食文化が発達した。塩辛、佃煮、蕎麦、煎餅…。日本の食べ物は味はもちろん、香り、色、形、音までがおいしい。2013年12月には、和食(日本の食文化)がユネスコ無形文化遺産に登録された。本書では、食にまつわる日本人の知恵の数々を紹介。発酵学専攻の著者の蘊蓄は楽しく、読むほどに食欲をそそられる!

著 者:小泉武夫 出版社:岩波書店(岩波現代文庫) 発行日:2002年1月
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