憲政史上初の女性首相
高市早苗氏が、2025年10月21日に日本憲政史上初の女性首相に就任してから1カ月余りが経ちました。
活動で目立ったのは外交面です。就任直後から精力的に各国首脳との会談を行っており、10月26日の東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会談に始まり、訪日したトランプ大統領との日米首脳会談、アジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議と、過密な外交日程をこなしています。
直近では、11月22日からのG20首脳会議に出席し、英国やドイツ、インドの首脳などとも会談しました。イタリアのメローニ首相と笑顔でハグをする姿は、日本の首脳外交の新たな姿として、印象に残った方もいるのではないでしょうか。
そんな高市首相は、ジェンダーの面からも新たな道を開くかもしれません。
今週Pick Upするのは、そのことがわかる本、『ジェンダー格差』(牧野百恵 著/中央公論新社)です。
高市首相就任の影響としてまず考えられるのは、多くの女性が彼女を女性政治家の新たなロールモデルとみるようになることです。ロールモデルの重要性について本書は、「アスピレーション」という概念と絡めて説明しています。
ロールモデルに関係する概念に、アスピレーション(Aspiration)があります。身近にロールモデルがいると、それに憧れて、自分もそうなりたいと思う、そういう将来への期待を指します。ロールモデルは、それが自分の身近にいて、自分もそうなることが十分想像できるときに、重要な役割を果たすことがわかってきました。
(『ジェンダー格差』 93ページ)
その一例として、『ジェンダー格差』では、アメリカの空軍士官学校の学生を対象にした研究を挙げています。数学やサイエンスの担当教官が女性だと、教官が男性の場合に比べて、女性の学生が数学を専攻する割合が高くなったというのです。
こうした現象は、高市首相の就任によって日本の政治の世界でも起こる可能性があります。現状でも積極的に情報発信をする女性政治家は少なくありませんが、それでも首相としての活動は、注目度も報道の頻度も大きく異なるからです。
人は、ある物や人に繰り返し接すると好感度や印象が高まるとされています。日々の報道で高市首相の発言や行動を頻繁に見聞きすることで、「自分もああなりたい」と思う女性が増え、政治の道を志すことにつながるかもしれません。
ジェンダー政策の注意点
こうしたことの延長上で、今後、ジェンダー関連政策の議論も盛んになる可能性があります。
ただ、俎上に載せた政策が実際に効果を挙げるものになるかどうかは、慎重に見極める必要があるでしょう。
例えば、日本は男女の格差が国際的に見ても大きいと言われることがありますが、この問題は、単純に「女性の賃金を上げる」といったことで解決できるとは限りません。
本書は、インドの農村で行った次のような実験を挙げています。
エマニュエル・スコウフィアス世界銀行首席エコノミストの研究に、インド農村で女性の賃金が上昇した効果を実証したものがあります。賃金上昇によって、女性の労働参加を促したことは予想どおりですが、その結果何が起こったのでしょうか。
母親が外で働くようになったために、家事の担い手が女の子に移ったのです。その結果、彼女たちの学校での学習時間が、男の子に比べて大きく減ったのです。(中略)ここではジェンダー格差解消を目指した制度が、かえって長期的な男女格差を生み出すことになりかねないことを示唆しています。
(『ジェンダー格差』 14~15ページ)
従って、ジェンダー格差の解消を議論するに当たっては、因果関係をきちんと把握し、それに基づいて議論を行うことが必要です。
この点、『ジェンダー格差』は、そうした因果関係のエビデンスを示した研究を豊富に用い、感情論ではなくデータに基づいて、どのような政策がどんな結果を生むのかを紹介しています。
ジェンダーに関する政策は、内容によっては、一方が不当に優遇されていると見なされ、対立と分断につながるおそれもあります。だからこそ、エビデンスに基づき、両性が活躍できるような政策を立案していく必要があるでしょう。これは、もちろん政治の世界のみならず、企業においてもいえることです。
本書は、そうした取り組みのための材料を与えてくれる良書として、お勧めしたい1冊です。
(編集部・西田)
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「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。
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