最近、ビジネスメディアの間で「休む」ことがトレンドになっているように感じます。
『ハーバード・ビジネス・レビュー』2025年9月号は「戦略的に休む」。『ターザン』8月28日号は「休む技術」。そして『プレジデント』10月31日号は「世界最強の「休み方」」 ―― 。立て続けに雑誌で「休む」特集が組まれています。
その背景には、現代社会が「休む力」を失っている現実があるのかもしれません。
そこで、今週は、“戦略的な休息”の必要性を説いた本、『TIME OFF 働き方に“生産性”と“創造性”を取り戻す戦略的休息術』(ジョン・フィッチ、マックス・フレンゼル 著/クロスメディア・パブリッシング 刊)をPick UPします。
「働きすぎニッポン」への警鐘 ―― 燃え尽きは生産性を奪う
著者のひとりマックス・フレンゼル氏は、日本でコンサルタントとして働く中で長時間労働を経験し、休むことの意味を見直したといいます。彼はこう指摘します。
日本は製造業では世界トップレベルだけれど、ナレッジ・ワーク(知識労働)ではかなり劣る。日本の1時間における生産性は、G7の中で、ここ50年間ずっと最下位だ。
疲れ果てて燃え尽きるほどに、創造性も生産性もどんどん落ちる。だから焦って余計に長時間働く。そんな、悪循環にはまりっぱなしなのだ。(『TIME OFF』 6ページ)
近年、日本では「働き方改革」が進んでいますが、2024年の厚生労働省「労働安全衛生調査」によると、仕事や職業生活に関する強い不安、悩み、ストレスを感じている労働者の割合は68.3%だそうです。2023年の82.7%に比べると減ってはいますが、それでも約7割の労働者が強いストレスを抱えていることになります。
制度は整いつつあっても、まだ“心の休息”は置き去りにされているのではないでしょうか。
休息こそ、最も生産的な行為である
『TIME OFF』のメッセージは明快です。
「タイム・オフ(休息)こそが“生産的”な行い」
休むことを悪いことのように感じる人も多いかもしれませんが、本書によると、休んでいるとき、脳はむしろ創造的に働いているといいます。
休んでいるときに活発になる脳の部位はまとめて「デフォルトモードネットワーク(Default Mode Network:DMN)」と呼ばれる。(中略)
休息のとき、脳は記憶をまとめ、問題解決方法を静かに探っている。デフォルトモードネットワークが活発になると、直感が冴え、創造力や問題解決のスキルがさまざまなところと結びつき、線的ではない動きをする。(『TIME OFF』 143~144ページ)
例えば、シャワーを浴びている最中にひらめいたりするのは、デフォルトモードネットワークが働いているためだといいます。
つまり「何もしない時間」は、実は「次の成果を準備する時間」でもあるといえるでしょう。
休みを「守る」ための戦略を
しかし、現代人にとって“休む”ことは意外に難しいものです。スマホの通知、オンライン会議、SNS…。気づけば、休息の隙間にも「仕事」が入り込むことがあります。
そこで、『TIME OFF』は「休息を守る」ための戦略を提唱しています。
僕たちは必ず、集中する時間を設定する。それと同じように、きちんと習慣づけをして、休息をとることを日課にしよう。そのためには、余暇を計画し、仕事が侵入するのを防ぐ戦略をきちんと練らなければならない
(『TIME OFF』 165ページ)
在宅ワークが広まって以降、仕事とプライベートの境界はますます曖昧になりました。
私自身も、かつて在宅勤務の効率に感動したものの、次第に“24時間仕事モード”になり、心身が疲弊していった経験があります。
本書はそんな働き方に警鐘を鳴らし、「終業の儀式」を持つことをすすめています。
仕事時間から休息への切り替えのために、仕事終わりの小さな儀式のようなものを考えてみるといいかもしれない。たとえば翌日すべきことを書き出すとか、机の上の植物の水やりをするとか、日記を書くとか。
(『TIME OFF』 166ページ)
「休む」とは、予定のない時間にだらだら過ごすことではなく、“意識的に余白を設計すること”だといえるでしょう。スケジュール帳に「何もしない時間」を書き込む勇気が、創造性を呼び戻す第一歩になるかもしれません。
在宅ワーカーの皆さんは、仕事と休息の切り替えが難しいと感じたとき、この本のアドバイスを参考にしてみてはいかがでしょうか。
「ひとりぼっち」が生み出すひらめき
もう1つ、この本の中で私が強く共感したのが「ひとりの休息」のすすめです。
本書は、ひとりの時間をネガティブに捉えるのではなく、「クリエイティブな時間」として積極的に確保すべきだと説き、作家ゲーテの次のような言葉を取り上げます。
「社会で指図を受けることはできる。だが、ひらめくことができるのは、ひとりのときだけだ」
(『TIME OFF』 238ページ)
みんなでアイデアを出し合うブレインストーミングも大切ですが、ときには“ひとりぼっち”になることこそ、最高の発想環境になるのではないでしょうか。
思い返してみると、私も、原稿の構成や企画のアイデアが湧いてくるのは、ひとりの時間 ―― 朝、鴨川沿いを自転車で走るときや、昼休みに会社の周囲を散歩するときが多い気がします。
休むことは、働くことの一部である
『TIME OFF』には、哲学者や科学者、アーティストなど古今東西の「タイムオフ実践者たち」のエピソードが数多く紹介されています。
例えば、チャールズ・ダーウィンの仕事時間は、1日に90分間×3回で、その他の時間は、散歩したりぼーっとしたりしていたそうです。また、数学と科学の世界で多岐にわたる業績を残したアンリ・ポアンカレは、毎日朝10時~正午、午後5時~7時までを仕事の時間に当て、それ以外は無意識を稼働することに費やし、アイデアを温めていたといいます。
彼らに共通するのは、“休むことも仕事のうち”という発想です。
日本では、最近、高市早苗首相の「ワーク・ライフ・バランスという言葉を捨てる」という発言が波紋を呼びました。高市首相の力強い決意を称賛する声もある一方で、「時代錯誤だ」といった批判もありました。
この「ワーク(仕事)で成果を挙げるには、ライフ(生活)を捨てる必要がある」ともとれる発言が賛否を呼ぶのは、まだまだ日本社会が「働く」と「生活(休み)」を対立概念のように捉えている証拠かもしれません。
ワークとライフはむしろ補い合う関係にあるように思います。仕事から離れて、心身を癒し、視野を広げる時間があってこそ、次の仕事の質が高まるのではないでしょうか。
『TIME OFF』は、そんな“休み方の再発明”を促してくれます。
忙しさを美徳とする日本のビジネスパーソンの皆さまに、手に取ってほしい1冊です。
(編集部・福尾)
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「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。
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