2025.7.14

編集部:西田

“沸騰する”日本列島 酷暑の夏に地球温暖化の影響を考える

“沸騰する”日本列島 酷暑の夏に地球温暖化の影響を考える

猛暑日が続く

 暑い日が続いています。
 2025年6月の日本の平均気温はこれまでの記録を大幅に上回り、「史上最も暑い6月」になりました(「6月の日本の平均気温は過去最高 以前の記録を大幅に更新」/ウェザーニュース 2025年7月1日)。
 7月に入ってからも35℃を超える猛暑日が続出。10年に1度程度しか起きないような著しい高温の可能性があるという「高温に関する早期天候情報」を気象庁が発表するなど、多くの地域で厳しい暑さに見舞われています。

 “沸騰する”日本列島に暮らしていると、嫌でも感じるのが地球温暖化の影響です。
 そこで今回は、この地球温暖化にまつわる本をPick Upします。『地球に住めなくなる日 「気候崩壊」の避けられない真実』(デイビッド・ウォレス・ウェルズ 著/NHK出版 刊)です。

地球温暖化で起きること

 地球温暖化対策といえば、有名なのは「パリ協定」でしょう。産業革命前と比べた気温上昇幅を1.5℃以内に抑える努力をするとして、2015年に採択されました。
 ですが報道によると、現在のCO2排出量の水準が続けば、あとわずか3年でこの1.5℃の上昇幅を突破する恐れがあるといいます(「地球の気温上昇、抑制目標の「1.5度」突破まであと3年……著名科学者らが警告」/BBC NEWS JAPAN 2025年6月20日)。

 長期的には、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が2023年に公表した統合報告書によると、政策の強化なしでは2100年までに3.2℃の地球温暖化が予測されるそうです。

 では、こうした傾向が続き、さらに加速すると何が起きるのか。『地球に住めなくなる日』は、次のようなシナリオを掲げています。

 

地球の気温が2℃上昇すると、いったいどういうことになるのか。
・地表部を覆う氷床の消失が始まる。
・4億人が水不足に見舞われる。
・赤道帯に位置する大都市は居住に適さなくなる。
・北半球でも夏の熱波で数千人単位の死者が出る。
(中略)
4℃では?
・デング熱感染者がラテンアメリカだけで800万人になる。
・地球規模の食料危機が毎年起きる。
・酷暑関連の死者が全体の9パーセント以上を占めるようになる。
・河川の氾濫被害がインドで20倍、バングラデシュで30倍、イギリスで60倍に増える。
(以下略)

(『地球に住めなくなる日』 20~21ページ)


 こうして列挙してみると、地球温暖化は、単に暑いだけでなく私たちの生活に大きな影響を与えることがわかります。
 例えば「食料危機」といえば、今年、日本ではコメ価格の高騰が大きな問題になりました。その原因の1つには、前年の記録的な猛暑による不作が挙げられています。
 今年の夏も例年以上に暑くなると見込まれ、しかも少雨も心配されています。備蓄米の放出等により、いったんは落ち着きつつあるように見えるコメ価格ですが、来年、再来年どうなっているかは予断を許しません。「令和のコメ騒動」が2年、3年と続く可能性も、決してゼロではないのです。

 また、「酷暑関連の死者が全体の9パーセント以上を占めるようになる」というのも深刻な問題です。
 2023年の日本の死者数は、約158万人。死因のトップ3は「悪性新生物(がん):24.3%」「心疾患:14.7%」「老衰:12.1%」となっており、仮に酷暑関連の死者が9%となれば、これらに続く死因となります。
 消防庁によれば、今年、熱中症で病院に搬送された人は、6月23~29日の1週間で4600人超。これは、去年の同じ時期と比べ2倍以上とのことです。
 これから本格的な夏の到来によって、この人数はさらに増えるおそれがあります。

温暖化問題の難しさ

 『地球に住めなくなる日』は、こう書いています。

 

歴史学者アンドレアス・マルムは、(中略)こう言いきった。「地球温暖化は過去の行為の結果である」
簡潔でありながら、問題の規模と範囲を言いあてている。温暖化は、数世紀ものあいだ化石燃料を燃やし、近代的で快適な生活をつくりあげてきた結果ということだ。

(『地球に住めなくなる日』232~233ページ)


 この言葉は、同時に問題解決の難しさも言い表しています。酷暑で熱中症になりそうな環境にあるのに、温室効果ガスを排出するからといってエアコンを使わないというのは現実的ではないでしょう。ニュースなどでは「ためらわずエアコン利用を」と呼びかけられますが、それを批判する人は多くはないはずです。「快適な生活」には、今や私たちが手放せないものという側面もあります。
 ただ、それが続く限り、「気温上昇幅を1.5℃以内に抑える」という目標は達成困難ともなるでしょう。

 とりわけ、世界有数のCO2排出大国であるアメリカでは、トランプ大統領が「Drill, baby, drill(掘って掘って掘りまくれ)」と化石燃料の増産を掲げており、パリ協定からの離脱も決定しています。
 こうした行いが積み重なった結果、21世紀が終わる頃に地球はどうなっているのか…と考えると、未来は相当に厳しいものとなりそうです。

 この問題は、個人の力で容易に解決できるものではありません。ただ、地球温暖化によって何が起こるかを知っておくことはできます。
 本書、『地球に住めなくなる日』は、熱波や洪水、山火事、伝染病など、様々な側面から、地球温暖化のもたらす危機に警鐘を鳴らしています。暑い夏に、地球の未来を考える本として、一読してみてはいかがでしょうか。

(編集部・西田)

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 「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。

2020年5月号掲載

地球に住めなくなる日 「気候崩壊」の避けられない真実

気候変動による影響は、すでに危険域に入っている! 2018年夏、世界を殺人的な熱波が襲い、インドでは100年ぶりの大洪水が起きた。にもかかわらず、地球温暖化の問題については、どこか他人事。そんな現状に、一石を投じる書だ。大規模な気候難民、感染症のグローバル化等々、最悪の未来を具体的に示し、警鐘を鳴らす。

著 者:デイビッド・ウォレス・ウェルズ 出版社:NHK出版 発行日:2020年3月
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